企業の核を担うリーダーの存在は、強い組織づくりに欠かすことができず、次世代のリーダーを育てることは、企業継続にとって必要不可欠な課題です。
しかしながら、リーダーの育成には時間も手間もかかり、大半の中小企業では、リーダーの育成が後回しになっているという実情が明らかになっています。
そこで、組織におけるリーダーの役割を振り返ると共に、企業の未来を担う次世代のリーダー育成に向けての取り組み方や、育成するために必要なことついて考察します。
〔エッセンシャル版〕
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目次
組織における「リーダー」とはどんな存在か
企業における部署やチームなど、複数の人が集まって組織を形成する場合、重要なカギを握るのがリーダーの存在です。リーダーの采配ひとつで、そこに属する人たちのモチベーションも、組織全体の成果も大きく左右され、ひいては企業全体の成長にも影響を及ぼします。
ここでは、リーダーの定義やリーダーの役割を解説。働き方も、組織のあり方も見直されている今の時代に求められるリーダーの要素や、リーダーとなる人材の育成についてまとめます。
リーダーに必要なのは、カリスマ性ではなく「真摯さ」
リーダーというのは先天的な資質を有する人のことではなく、集団をまとめて目的のために引っ張る能力を示します。リーダーにとって必要なことは、必ずしも圧倒的な牽引力や強い志とは限りません。
求められる目標に対して、達成するための方法や行程を明確にし、日常的な業務に落とし込む。つまり、部下と共に毎日の目標を掲げ、それを日々クリアするという仕事の積み重ねにより、目標達成に結びつけるというのがリーダーという役割なのです。
世界的な経営学者であり、マネジメントの父とも称されるピーターF.ドラッカーも、「リーダーに求められるのは、先天的な資質ではない」と説いています。
リーダーにとって絶対的な資質は「真摯さ」であり、加えて「学習」や「経験」といった要素も必要となること。
そして、ここで言う「真摯さ」とは、正直で、かつ高いモラルを持って行動することであり、「学習」と「経験」はゼロでなければ他の要素でカバーできるとも訴えています。
組織の使命を正しく把握し、明確することこそが、真のリーダーシップなのです。
チームを引っ張る「リーダー」と管理をする「マネージャー」
リーダーシップと共によく用いられるのが、「マネジメント」という言葉。組織の上に立って統括するという意味では類似するイメージを抱きがちですが、その役割は大きく異なります。
リーダーが、目標達成のために組織をまとめ、方向性を示してチームを引っ張ることを求められるのに対し、マネージャーは、人、モノ、予算などを的確に効率よく配分し、組織を円滑に回しながら運営することが必要です。
マネジメントという言葉の生みの親とも言われるドラッカーは、マネジメントを「経営」「管理」といった意味合いで使っています。マネジメントとは、組織に成果を上げさせるための道具、機能、機関であるというのがドラッカーの考え方です。
マネジメントの領域として、下記が挙げられます。
マネジメントの領域
①事業のマネジメント
企業、事業の方向性を的確に捉え、目標設定をする。さらに、戦略を策定することで 経営計画に落とし込む。
②管理者のマネジメント
経営計画の実行のために、人、モノ、お金を運用するのに相応しい管理者を配置し、その管理者をマネジメントする。
③人と仕事のマネジメント
部下一人ひとりの能力や性格を把握し、適材適所に配置。採用、教育、異動なども含め、部下がモチベーションを高く保ちながら働けるよう配慮し、正当に評価する。
この中で、③については、リーダーが担う主要な役割でもあります。組織のメンバーがそれぞれのポテンシャルを最大限に発揮し、目標達成のために力を一つにできるよう牽引する。そのためには、リーダーとマネージャー共に、高い次元でのコミュニケーション能力が求められると言えるでしょう。
「生産性」と「人間性」のバランスをとり、強い組織をつくるのがリーダーの役割
そもそも、チームなどの組織、ひいては企業が成長するために、なぜリーダーが必要なのでしょうか。ここでは、リーダーが必要な理由と組織の中でリーダーが果たす役割についてまとめます。
組織の根底を成す「生産性」と「人間性」
複数の人が集まり、ひとつの目標達成を目指す会社などの組織においては、優れたリーダーの存在が不可欠です。その背景には、会社という組織の根底にある2つの原理が大きく関係しています。
多くの企業や教育現場で活用されているアドラー心理学によると、組織は「生産性」と「人間性」から成り立っています。
生産性とは、「よい物を、より早く、より安く、安全・安心に」という考え方です。しかしこの生産性向上のためには、社員の力が欠かせません。
そこで求められるのが「血の通った人間と、どう関わるか」という「人間性」の原理。人間性の原理を無視して生産性にばかり注力すると、メンタルヘルスの問題など、現代社会において大きな課題となっている組織の歪みが生じます。
生産性と人間性、2つのバランスが保たれることによって円滑な組織運営が実現できるのです。
「生産性」重視による弊害を意識し、「人間性」も大切に
かつての日本がそうだったように、成果主義が社会構造の核となり、組織が生産性偏重主義に陥ることは、多くの問題や弊害をもたらします。生産性だけを重視すると、下記のようなリスクが生じ得ます。
生産性重視によって発生しうるリスク
ダメ出し
ダメな所ばかり指摘する欠点是正、減点主義により、よいところにはまったく目が向かず、悪い部分、できていない所ばかりを指摘することに。場合によっては人格否定につながることも。
結果主義
「結果良ければすべてよし」という考え方が横行することで、プロセスを見ることをせず、結果を残せなかった人だけが敗北者扱いされて置き去りにされる組織になる可能性も。
失敗撲滅
人間の行動や失敗に対して徹底的に原因究明をはかろうとすることで、挑戦する勇気を喪失し、相手を追い詰めることにつながる。人は“Why”を3回言われると人格否定されたように感じるとも言われている。
生産性を重視する組織では、人と人の情的な部分が置き去りにされ、悪い意味での緊張感の漂った職場になってしまう可能性が高まります。
リーダーに求められる役割は、生産性と人間性の両輪のバランスを取りながら、チームのメンバー一人ひとりが思う存分に力を出せるような組織づくりを心がけることです。
個々のメンバーがポテンシャルを発揮できることは、ひいては生産性の向上にもつながります。
生産性と人間性の関係
※別紙図版指示書
なぜリーダーがうまく育たないのか
HR総研が2020年に発表した、調査によると、企業の人事担当者は次世代リーダーの育成が最も大きい課題としているようです。 ただ、これまで30代~40台代を中心にマネジメント経験をさせてきたはずにも関わらず、なぜうまくいかないのでしょうか?
働き方改革等による社員のリーダーになることへの意欲低下
リーダーの業務や責任は一般的な社員よりも大きいです。また働き方改革などによってワーク・ライフ・バランスの重視や多様な働き方が求められる現状では、個人のスキルアップは熱心でもリーダーに興味を示さない社員も少なくありません。
そもそも人材が不足している
リーダーとなりうる人材が不足していることがまず挙げられます。これは単に採用の段階で人材が取れないこともありますが、同時に既存の人材が流出の危険性もあります。実際中小企業においては、3人に2人が辞めようと考えているのが現実です。
また人材の流出を防ぐためにも、しっかりと制度化された人事評価制度、給与制度が必要ですが、これも現場の売上優先などによって、制度化自体後回しだったり、経営者のさじ加減で済まされていることも多いです。
リーダーを育成する体制が整っていない
リーダーとして仕事するには、リーダーシップや経営知識などを身につける必要があります。知識や経験を身につけさせるためには、まとまった時間が必要です。
しかしリーダーを育成するための育成部隊の編成や、人事評価・教育制度の構築など、リーダーが現場から抜けてもフォローできる体制ができていない企業が多いのが現状です。
リーダーに求められる能力が曖昧
時代や環境の変化によってリーダーに求められる能力は変わっています。しかし、リーダー研修をやるにしても過去に定義されたものをそのまま使っていたり、そもそもリーダーに求められる能力を明確になっていないことがあります。
育成の効果がわかりにくい
実際にリーダー育成に取り組んでも、何をもって育ったのかという効果検証の基準を設けにくく、効果そのものを実感できないことがなかなかリーダー育成に取り組めない要因の一つとなっています。
リーダー人材確保の課題と人材育成のステップと課題
リーダー人材の確保が重要視されているものの、人材不足は多くの企業にとって喫緊の課題です。経済産業省が発表している「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」の調査によると、「経営人材の要件に合う候補者は十分にいるか」という問いに対して、「5年後の経営人材候補者が不足している」と感じている企業がおよそ3割に上るなど、各企業は、組織の成長に向けたリーダーの育成に対する危機感を抱いています。
リーダー育成のためのステップ
こうした課題意識から、同ガイドラインの中では、経営リーダー人材育成のための基本的なプロセスとして、下記の4つのフェーズを提起しています。
- フェーズ1.リーダー育成のゴール設定
- フェーズ2.企業のビジョンや経営戦略を実現する上で、求める役割やスキル、成果などを明確化する
- フェーズ3.現状の組織内の人材を把握し、そのスキルや適正、能力を適正に評価する
- フェーズ4.人材育成計画を策定し、育成環境の整備や支援を進める
- フェーズ5.リーダー育成トレーニング
- フェーズ6.育成結果の評価をし、関連する施策を再評価・見直しを図る
フェーズ1:ゴールの設定
リーダーの育成には時間がかかりかつ周囲の協力が必要です。周囲の協力を得るためには、「なぜリーダーを育成する必要があるのか」、「育成にはどのくらいかかるのか」という理由とゴールを明確にしなければなりません。
フェーズ2:求める役割やスキル、成果などを明確化
まず、企業が目指す目標に対してどのようなポストが核となるかを選定。そのポストを担うために求められるスキルや能力を明確化します。また、期待する役割や成果もあわせて明らかにし、人材育成のための戦略を策定します。
一般的にリーダーに求められるものは以下が挙げられます。
- 自己認識力
- 目標設定能力
- 学習力
- 主体性・判断力
- コミュニケーション力
- 育成力
- 誠実性
- 責任力
- 業務遂行・問題解決力
- モチベーション管理力(EQ)
- 信頼性
- リスクテイク力
- 包容力
- クリティカルシンキング
フェーズ3:組織内の人材を把握・候補者の選抜
社内にどのような人材がいるかを把握し、リーダー育成候補者として最適な人選を行います。あわせて、適切な人材が不足している場合には、リーダー候補者を選抜するために、必要となる人数規模、選抜基準、選抜方法などを策定。外部から確保することも検討します。
フェーズ4:人材育成計画
リーダー人材の確保にとって、最も有益な方法は、人材育成のための計画を立て、育てるための環境整備や支援を行うことです。リーダー候補として選抜した人材を育成するために、まずは、目的に沿った職務経験や研修を与えるための計画を策定し、実施します。
この際、人材育成計画や育成プログラムに対して社内やチーム内に周知し、理解を促すことも重要になります。
しかしながら、社内で人材育成プログラムをゼロから構築し、効果的な方法で実践することは時間と労力を要するため、非常にハードルが高いことも事実。そこで有効な選択肢となるのが、外部に委託する方法です。
この場合、人材育成計画や育成プログラムの構築、外部人材の獲得に向けた的確な人事制度の導入、効果的なOJTなどを実現するための研修メニューの整備といった一連の施策をプロフェッショナルに任せることで、社内の負担を軽減し、時間的なロスも抑えてスピーディーに最大限の結果を残すことが可能になります。
フェーズ5:リーダー育成トレーニングの実施
前述の育成計画に基づいてトレーニングを実施します。リーダー育成は時間がかかりますので、すぐに結果を求めず根気よく実施する必要があります。
フェーズ6:育成結果の評価・改善案の検討
まずは個別の評価として、育成計画に対する候補者の結果と成果を評価し、リーダーとしての適性がどの程度高まったかを的確に判断します。その上で、次期の人材育成計画や本人との関わり方に反映します。
また、育成候補者の選抜、育成のあり方に関する関連施策について再評価・見直しを図り、より効果的な育成環境、育成計画、人材育成戦略を再構築します。
リーダー育成のカギは、育てる側である企業にある
リーダー人材の育成を実施するにあたって、リーダー育成を成功へと導くためには、常に経営陣とビジョンが共有されていることが大切です。その上で留意すべきポイントがあります。
1.リーダーシップの発揮と信頼関係の構築
リーダーが企業の中で中核を担う存在となるためには、経営陣との間に信頼関係が構築されていることが大前提となります。経営陣がしっかりとリーダーシップを発揮し、未来を見据えた戦略思考と足元の改善を両立しながら結果に対する責任を取る姿を見せることが大切です。
2.組織内のベクトルを合わせる
経営陣は、全社員に対して企業が向かうべき方向性を示し、経営課題や目的、目標を幅広く周知し、ベクトルを合わせることが不可欠です。そうすることで、社内にリーダー育成の必要性が伝わり、理解を得ることができるでしょう。
3.リーダー候補の人材に自覚を促す
リーダー育成の結果を評価して改善を繰り返していく上で、管理の仕組みの見える化を行います。具体的には、明確な人事評価などがこれに当たります。場合によっては組織の再構築や権限移譲を行い、リーダー候補の人材に対して責任感と自覚を芽生えさせます。
リーダーシップは習得できる技術であり、戦略的に育成するべき
リーダーは、性格的に「向いている・向いていない」、もしくは「素質がある・素質がない」というように、元々の素養が大きく関与する存在ではありません。
リーダーシップとは、じつは「習得できる技術」であることを自覚する必要があります。体系的に身につけていくことができるものなのです。
つまり、優れたリーダーが育つか否かは、本人の意識はもちろんのこと、育てる側である経営者の手腕や施策が問われます。経営者は、リーダー人材育成の重要性をしっかりと認識した上で戦略的に実施すべきでしょう。
リーダーが担うべき責任や、経営者としてそれぞれの階層のリーダーに求めること、期待することを明確に伝える。そして、実践の場を与えて正当な評価、フィードバックを繰り返すことこそが、次世代のリーダーを育成する一番の近道なのです。
「リーダーの力量以上に組織は伸びない。」
このような言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
『真のリーダー10ヶ条』は、企業・組織を率いる経営者・後継者・幹部・管理者に
必要なリーダーシップ(あり方・実践力)についてまとめたものです。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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