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【事業承継】自社株の承継対策|評価方法や支援制度も解説

2022.12.23

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自社株は、事業承継を考える場合に適切な対策が必要となります。自社株の承継は複雑であり、どの程度の価値を持っているのかも、上場株式などに比べて非常に分かりにくいです。そのため、相続や贈与などで株式を引き継ぐ場合、事前の対策をしっかり行う必要があります。

この記事では、承継が複雑な自社株について、2つの承継対策を紹介します。また、相続時における自社株の評価についても詳しく解説するため、事業承継の実施を検討している企業経営者の方は、ぜひご覧ください。

目次

1. 【事業承継】複雑な自社株の承継と2つの対策

自社株の承継にはさまざまな要素が関連し、煩雑を極めます。自社株承継を複雑にする要因は、以下の3つがあげられます。

・事業承継には相続も関係する

後継者以外の相続人が他にもいる、もしくは現経営者の相続人以外に事業譲渡するケースでは、相続分を考慮する必要があります。

・自社株の財産的な価値が一定ではない

非上場の自社株には市場価格がないため、承継する際の評価方法によって価額が左右されます。

・財産権と経営権の両方を考えなければならない

財産としてだけでなく、経営権の確保を考えて自社株承継を実施する必要があります。

複雑になる要素を踏まえ、事業承継時には自社株に対して以下の2つの対策が欠かせません。

(1)シェア対策

経営権を維持するには、自社株を経営者の元に集めて「議決権シェア」を高く保つための対策が重要です。議決権シェアが高いほど行使できる権利は増え、より安定した経営につながります。事業承継時には、相続税対策によって自社株が分散し、シェアが崩れやすいため注意が必要です。

(2)株価対策

事業承継に向けて自社株の価値を引き下げることを株価対策といいます。株の評価方法を左右する要素を調整して、低い評価額になるようにします。価額が低ければ、贈与税・相続税の節税対策や自社株買いのコスト削減ができるでしょう。

自社株の承継に限らず、事業承継は複雑な手続きが必要です。下記のリンク記事では事業承継対策の全体像を解説しているため、基本から理解したい方は参考にしてください。

事業承継とは?3つの種類と成功させるためのポイントも

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2. 【事業承継】自社株の相続税評価

上場株式と異なり、自社株式は基本的に売買されず市場価格がないため、国税庁によって決められた評価方法に従って相続税評価額を算出しなければなりません。取引相場のない株式の評価方法は大きくわけて3つあります。

(1)類似業種比準方式

規模の大きい企業の場合、類似業種株価を元に評価します。1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額を似た業種の株価と比べ、財産評価をする方法です。

(2)純資産価額方式

規模の小さい企業の場合は、純資産価額方式という評価方法が用いられます。純資産から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を引いて金額を出します。

(3)配当還元方式

同族株主以外の株主が保有する株式には、特例的な評価方法が適用され、配当金を元に計算する配当還元方式で評価します。1年分の株式配当金を一定の利率(10%)で還元し、株式価額を出す方法です。

また、中程度の規模の企業だと類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して評価されます。原則的には、どの程度の企業規模であるのか、特定の評価企業に当てはまるかを判定し、評価方式が決まります。ただし、評価額の計算方法は複雑なため、国税庁の情報を確認するとともに、税理士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。

出典:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」

2-1. 自社株の株価を下げる方法

自社株対策では、株式評価額を引き下げる対策を行います。一般的には類似業種比準方式であれば、配当金額・利益金額・純資産価額を少なくすると株価評価が下がります。純資産価額方式の場合は、時価純資産額を少なくします。

しかし、利益額や純資産額を減らすことは、業績の悪化につながりかねません。株価対策のために不必要な投資や経費を増やした結果、経営悪化を招いては意味がないため注意深く行う必要があります。たとえば、社長の退職金など金額が高く、必要不可欠な出費と自社株承継のタイミングを合わせる方法が有効です。

具体的には、下記の対策が用いられることがあります。

  • 持株会社を活用して自社株評価額を下げる
  • 役員退職金支給で経費を増やす
  • 不良資産を売り、含み損を吐き出す
  • 2つ以上の企業を有する場合、類似業種比準方式に当てはまるよう合併する

ただし、企業の経営状況によって効果的な承継方法は異なります。また、自社株引き下げ対策だけでなく決議権シェアのバランスも考慮しなければなりません。業績と経営に悪影響を及ぼさずに評価を引き下げるには、前もって事業承継準備を整えて計画的に実施していくことが重要です。

3. 【事業承継】自社株の承継で活用できる「経営承継円滑化法」とは

中小企業の円滑な事業承継を目的とした「経営承継円滑化法」は、株式承継においても助けとなる制度です。事業承継円滑化法は、以下の4つから成り立っています。

事業承継税制
事業承継に伴う税制上の負担を軽減する制度です。認定を受けた非上場の中小企業の株式などは、贈与税・相続税が猶予または免除されるため、贈与税・相続税負担を減らせます。
遺留分に関する民法の特例
一定の条件を満たした場合、後継者は遺留分に対して特例措置を受けられます。
金融支援
代表者個人が、事業承継で必要な資金の融資が受けられます。
所在不明株主に関する会社法の特例
認定を受けると、所在不明株主の株式買取りが可能になるまでの期間が短縮されます。

出典:中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」

税制上の支援である「事業承継税制」を活用すると贈与税・相続税対策ができ、コスト面で大きな助けとなります。また、後継者の経営基盤を安定させる「遺留分に関する民法の特例」は、事業承継において重要な制度です。

事業承継税制については、下記のリンク記事で詳しく解説しています。

事業承継税制とは?贈与税・相続税の仕組みも解説

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続きを読む >

この記事では、遺留分に関する民法の特例について説明します。

4. 【事業承継】後継者の経営基盤を安定化させる「遺留分に関する民法の特例」

遺留分とは法定相続人(兄弟姉妹を除く)が必ず受け取れる相続分のことで、遺言にかかわらず最低限受け取れる金銭が保証されています。事業承継ではこの遺留分によりトラブルが引き起こされるケースがあるため注意が必要です。

ここでは、遺留分により起こりうる問題と、遺留分に関する民法の特例を用いた対策を紹介します。

出典:中小企業庁「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例」

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4-1. 遺留分により引き起こされる問題

遺留分によるトラブルは、安定した企業経営を揺るがしかねません。株式は経営権を守るために重要な要素であり、株主総会での議決権を表します。保有株式が多いほど、経営に対して大きな権利を保持できるため、後継者がより多くの株式を承継するのが理想的です。

しかし、中小企業経営者の中には、相続財産のほとんどが株式で占められているケースがあります。後継者が株式譲渡を受けると、後継者以外の相続人が相続できる財産が少なくなるため、相続後に遺留分を請求される可能性がでてくるでしょう。

遺留分を侵害しないように株式を十分に取得できなかった場合、後継者の経営基盤が不安定になってしまいます。株式が分散すると、株主で意見が分かれてしまった際に、経営判断が行えなくなり、企業の経営が立ち行かなくなる恐れがあります。

4-2. 除外合意・固定合意による対策

遺留分による争いや株式分散防止の対策となるのが、遺留分に関する民法の特例です。遺留分に関する民法の特例は2つあります。

(1)除外合意

生前贈与株式・事業用資産の価額を、遺留分から除外することを除外合意といいます。被相続人が生前に株式贈与した分は遺留分の対象外となるため、自社株が遺留分として主張されるリスクをなくせます。

(2)固定合意

固定合意すると、自社株の遺留分としての価額を合意時点での評価額に固定できます。合意を交わして承継した後に株価が上昇しても、増えた分は相続税財産評価に含まれません。

後継者と相続人で除外合意もしくは固定合意を交わすことで、相続発生時の遺留分トラブルを避けられます。株式分散による経営権の弱体化を防ぎ、経営基盤を盤石なものにできるでしょう。

まとめ

自社株は、事業承継を実施しようと考えた際に、適切な対策をあらかじめ講じておく必要があります。自社株の承継は非常に複雑で、上場株式に比べて価値を評価することも容易ではありません。そのため、相続や生前贈与などにより、株式を引き継ぐ場合は、税理士などの専門家のサポートを受けつつ、適切に対処していかなければなりません。

事業承継は、自社株の承継の他にも、事前にしっかりと計画を立てて進めていく必要のある事柄があります。事業承継の進め方で不安を感じている場合は、専門家に相談しながら、少しずつ手続き・作業を進めていきましょう。

(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)

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この記事の著者

NBCPlusオンライン編集部

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