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事業承継税制とは?贈与税・相続税の仕組みも解説

2022.12.23

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事業承継税制とは、事業承継が実行される際に後継者が負担する税金が猶予・免除される制度です。適用を受けるためには、さまざまな条件をクリアする必要がありますが、事業承継税制を利用できれば、税負担を大幅に和らげられます。

この記事では、事業承継税制とはどのような制度であるのか、適用対象・条件などの基本内容を解説します。さらに、事業承継税制の理解に欠かせない贈与税・相続税の知識についても紹介するため、事業承継の実施を検討している方は、ぜひご覧ください。

目次

1. 事業承継税制とは|制度の基本的な内容を解説

事業承継税制とは、事業承継が行われる際に後継者にかかる税金が猶予、または免除される制度です。先代経営者の存命中に事業承継が行われる場合は贈与税、死亡によって事業承継が行われる場合は相続税が猶予または免税されます。

事業承継税制は2009年度の税制改正で導入されました。事業承継税制が導入された理由は、事業承継をより円滑にし、事業を継続しやすくするためです。

自社の株式が贈与または相続された場合、後継者は納税の期日までに現預金を用意する必要があります。高額な現預金を短期間で用意することは、後継者にとって大きな負担です。この負担を軽減するために、事業承継税制が導入されました。

参考:国税庁「事業承継税制特集」

参考:中小企業庁「事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)について」

事業承継税制の他にも、経営承継円滑化法では事業承継が4つの方向から支援されています。自社株式の承継を中心とした事業承継の支援措置については、下記のページでご確認ください。

【事業承継】自社株の承継対策|評価方法や支援制度も解説

【事業承継】自社株の承継対策|評価方法や支援制度も解説

続きを読む >

1-1. 事業承継税制の適用対象

事業承継税制には、創設当初から定められていた「一般措置」と、2018年の改正時に追加された「特例措置」があります。事業承継税制が適用される対象は次の通りです。

一般措置の適用対象

  • 承継する株式の3分の2まで
  • 猶予は贈与の場合全額、相続の場合80%
  • 対象者は後継者1人

特例措置の適用対象

  • 承継する全株式
  • 猶予は納税額の全額
  • 対象者は最大3人まで

特例措置のほうが、適用対象となる範囲が広く設定されています。

1-2. 事業承継税制の適用条件

事業承継税制を利用するには、企業形態や先代経営者、後継者が一定の条件を満たしている必要があります。具体的な適用条件は次の通りです。

企業形態の条件

  • 中小企業基本法で定められている中小企業
  • 株式会社、特例有限会社、合資会社、合名会社、合同会社のいずれか

ただし、企業形態が上記を満たしている場合であっても、性風俗営業会社は事業承継税制を利用できません。

先代経営者の条件(相続の場合)

  • 企業の代表者だったことがあること
  • 一族で総議決権数の50%超の議決権数を保有していること
  • 被相続人が保有する議決権数が、後継者を除く者の中で最も多くの議決権を保有していること

先代経営者の条件(贈与の場合)

  • 相続の場合と同じ条件を満たし、代表権を降りること

相続、贈与いずれの場合も、先代経営者は上記すべての要件を満たしている必要があります。

後継者の条件

  • 企業の代表者である(代表者になった)こと
  • 贈与の場合は18歳以上で贈与直前において3年以上役員であること
  • 贈与により、一族で総議決権数の50%超の議決権数を保有していること
  • 贈与により、一族の中で筆頭株主となること
  • 贈与の場合は役員就任後、3年を経過していること
  • 相続の場合は相続発生時に役員であること

役員・従業員承継など、親族外承継でも上記の条件で事業承継税制の利用が可能です。生前贈与か遺贈により、後継者に株式を引き継ぐことで、親族以外の人でも後継者とすることができます。

1-3. 納税が免除されるケース

事業承継後に後継者が死亡した場合は、納税が全額免除されます。また、円滑化法の認定有効期間後に企業が倒産した場合も、猶予された税金を支払う必要がありません。

原則として、認定有効期間内に後継者が企業の代表者でなくなった場合は、納税が必要です。ただし、後継者に身障者手帳が交付された場合は例外として扱われ、納税が免除されます。

2. 事業承継税制の理解に欠かせない贈与税・相続税の知識

事業承継税制について理解するには、猶予や免税の対象となる贈与税や相続税に関する知識が必要です。贈与税・相続税ともに、支払う納税金額は受け取る財産の金額によって異なります。

ここでは、贈与税や相続税の基本的な仕組みや税率の決まり方、税額の計算方法について解説するため、ぜひ参考にしてください。

2-1. 贈与税の仕組み・税率

個人から贈与によって財産を取得した場合、贈与税を支払う必要があります。贈与税の計算方法は次の通りです。

贈与税額 = (1年間に贈与を受けた金額 - 基礎控除額110万円) × 贈与税率 - 控除額

贈与税率や控除額は、贈与者と受贈者の関係によって異なります。祖父母や父母などの直系尊属から、18歳以上の子や孫への贈与にかかる特例税率と控除額は下記の通りです。

基礎控除後の金額 贈与税率(特例税率) 控除額
200万円以下 10% 0円
200万円超~400万円以下 15% 10万円
400万円超~600万円以下 20% 30万円
600万円超~1,000万円以下 30% 90万円
1,000万円超~1,500万円以下 40% 190万円
1,500万円超~3,000万円以下 45% 265万円
3,000万円超~4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

一方、子が18歳未満の親子間や親族以外への贈与などには、下記の一般税率と控除額が適用されます。

基礎控除後の金額 贈与税率(一般税率) 控除額
200万円以下 10% 0円
200万円超~300万円以下 15% 10万円
300万円超~400万円以下 20% 25万円
400万円超~600万円以下 30% 65万円
600万円超~1,000万円以下 40% 125万円
1,000万円超~1,500万円以下 45% 175万円
1,500万円超~3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

出典:財務省「「相続税」と「贈与税」を知ろう」

例えば、一般税率が適用される関係性で、評価額が2,000万円の自社株式が贈与された場合の贈与税額は次の通りです。

(2,000万円 - 基礎控除額110万円) × 贈与税率50% - 控除額250万円 = 695万円

2-2. 相続税の仕組み・税率

個人から資産を相続した場合、取得した金額に応じた相続税を支払う必要があります。相続税額の計算方法は、贈与税と比べて複雑です。

まずは、下記の計算式で課税遺産総額を算出します。

課税価格の合計額 - 基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数) - 債務控除・非課税財産等 = 課税遺産総額

次に、課税遺産総額を法定相続分で按分し、各法定相続人の法定相続分相当額を割り出します。各法定相続人の法定相続分相当額に対して適用される税率と控除額は下記の通りです。

各法定相続人の法定相続分相当額 税率 控除額
1,000万円以下 10% 0円
1,000万円超~3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超~5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超~1億円以下 30% 700万円
1億円超~2億円以下 40% 1,700万円
2億円超~3億円以下 45% 2,700万円
3億円超~6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

各法定相続人の法定相続分による相続税額を合計すると、相続税の総額が計算できます。さらに、相続税の総額を実際の相続割合で按分することで、各法定相続人の相続税額の算出が可能です。

相続税の総額 × 各法定相続人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額 = 各法定相続人の相続税額

実際の納付額は、各法定相続人の相続税額から配偶者控除や未成年者控除などを差し引いた金額となります。

出典:財務省「「相続税」と「贈与税」を知ろう」

3. 事業承継税制の手続きの流れ

事業承継税制を利用する際は、所定の手続きを行う必要があります。そのため、事業承継税制の利用を検討している場合、基本的な手続きの流れを理解しておくことが大切です

ここでは、相続税の場合と贈与税の場合に分けて、事業承継税制を利用するための手続きを紹介します。

3-1. 相続税の場合

相続税について事業承継税制の特例措置を利用する場合、都道府県庁への特例承認計画の提出が必要です。また、相続開始日から8か月目までに事業承継税制の認定申請を行います。

事業承継税制の審査を通過すると、認定書が交付されます。相続税の申告書等に認定書の写しを添えて、税務署の申請窓口に提出しましょう。納税猶予税額及び利子税額に見合う担保を提供し、税務署に申告すると納税猶予を受けることが可能です。

納税猶予期間の開始から5年経過後は、下記の手続きを毎年行う必要があります。

  • 継続届出書を税務署へ提出
  • 年次報告書を都道府県庁へ提出

3-2. 贈与税の場合

贈与税は、相続税と同様の申請方法で事業承継税制を利用できます。ただし、都道府県庁に事業継承税制の申請書類を提出する期日は、贈与日の翌年1月15日です。審査通過後の手続きや、納税猶予期間の開始後の提出書類などは相続税の場合と同じです。

贈与税の納税猶予期間中に先代経営者が亡くなった場合は、贈与税が免除されます。相続税が発生するケースでは、相続税の猶予を受けるための変更手続きが別途必要です。

まとめ

事業承継税制とは、相続や生前贈与による事業承継が行われた場合に、後継者が負う相続税や贈与税の負担を緩和できる制度です。さまざまな条件があり、適用できないケースも少なくありませんが、適用できれば、後継者の負担を和らげられます。

事業承継税制の利用手続きや、贈与税・相続税の取り扱いは、税金に関する詳細な知識が求められます。そのため、これらの税制の理解に不安がある場合は、税理士などの専門家の力を借りることをおすすめします。特に事業承継の前後は税金以外の手続きも非常に多いため、これらの手続き関係は、専門家のサポートを受けながら進めましょう。

(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)

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この記事の著者

NBCPlusオンライン編集部

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