M&Aの目的は、経営統合によるシナジーの最大化、企業価値の向上ですが、その目的を実現するために重要なのがPMIです。
今回は、PMIの概要とPMIのプロセス、PMIを成功させるポイントについて解説します。
目次
PMIとは?PMIが重要な理由
PMIとは、Post Merger Integrationの略で、M&A実施後の経営統合プロセスを指します。具体的には、経営・業務・意識等を融合することで、M&Aによって想定していた統合や投資の効果を得ることを目的に行われます。
PMIは一連のM&Aプロセスにおいて最も重要なステップです。PMIはM&Aを検討すると同時に検討され、買収監査(デューデリジェンス)の直後から経営統合に向けた準備を本格化させます。
PMIの重要性
なぜPMIが重要なのでしょうか?
M&Aは、元々別組織だった企業が統合されるため、統合後は以下のリスクが生じる可能性があります。
- 業務・経営上の混乱と内部対立の顕在化
- 社員の反発や離職
- 想定した統合の効果が得られない課題
- 予定どおりに統合が進まないことによる業績悪化
- 会計処理が異なることによる(連結)財務諸表の作成遅延
M&A最大の目的は「経営統合によるシナジーの最大化、企業価値の向上」であり、M&Aの成立自体が目的ではありません。
PMIは、これらのリスクを排除し、新たな経営体制の構築、経営ビジョン実現のための計画策定・両社協業のための体制構築、業務やITシステムの統合といった一連の取り組みで、M&Aによるリスクの最小化と、成果の最大化にする役割を担っています。
また、PMIは経営プロセスそのものを意味しており、単純にM&A当事者の経営手法や管理手法をどちらか一方に合わせるだけではありません。
そのため、企業価値を向上させるための経営ビジョンについて、両社の経営幹部が認識を共有し、それを実行する経営トップの強力なリーダーシップも必要不可欠となります。
統合プランを進めていく段階において、想定外のことが生じることも多々ありますし、デューデリジェンスでの情報は完全なものではないからです。
PMIは、統合プランを常に見直しながら、シナジー効果を出すための課題に優先順位をつけ、改善を急ぎすぎることによるマイナスの影響も加味しながら、計画的に進めていくことが大切になります。
PMIが難しい理由
PMIは非常に重要ですが、「PMIは難しい」と言われています。PMIは経営そのものであり、統合後に成果を出すために必要なことはなんでもやる必要がありますが、どの部門・誰がやるのかも不明確で、買い手、売り手ともに特有の課題を抱えているからです。
- 買い手:M&Aは特定の部署が担当するわけではないため、明確な責任者がいない。
- 売り手:買い手よりも小さな企業であることが多く、PMIを推し進める人材が足りない。
PMIの全体像(統合する領域)
PMIで統合する領域は以下のとおりです。
- 企業文化や経営理念・経営方針
- 経営体制(会議体、KPI設定、業績指標など)
- 人事や労務(役員構成、部署の統合、人事制度の統一、労働条件の統合)
- 組織制度(決裁権限、定款、部署・業務ルール)
- 経理や財務(月次決算の統一や遊休資産の取り扱いなど)
- 社内システム(ITインフラ、決算システム、オペレーション)
- 事業内容(類似製品やサービスがある場合の統廃合)
なお業界や業種、会社規模によって統合する領域は増減します。
企業文化や経営理念・経営方針
企業文化は、経営陣やオーナー個人によって醸成されます。買収された側は、買収側の企業文化に合わせることも必要ですが、買収された会社にも良い文化がありますので、そのあたりをうまく統合していく必要があります。
経営理念・経営方針については、グループで統一されるのが一般的です。そのため、買収された会社はやりにくい部分も出てきますが、統一しなければ、PMIの効果も半減してしまうため、うまく合わせていく必要があります。
経営体制
PMIにおいてまず整備しなければ経営体制です。経営体制を強化するには、まず会議体の設定が必要です。会議体を設定し、業績の把握、各事業部の動き、責任者の動きなどを把握するために1週間の予定あるいは1ヶ月の予定を組んで運用していきます。
業務の管理方法についても統合する必要があります。なぜなら、業績を把握するタイミングや単位、重要項目が異なるからです。
人事や労務
人事や労務関係の統合では以下があげられます。
- 役員人事
- 従業員の受け入れ
- 人事制度
- 人員整理
- 労働条件の変更
役員人事
M&Aにおいては一般的に買収側の会社から役員が派遣され、役員構成が変更されます。代表取締役も変更する場合は取締役会も合わせて開催して、代表取締役決議も行います。
役員人事は買収された会社の今後の運営に影響するため、早めの段階で選定を行う必要があります。
従業員の受け入れ
買収された会社には、役員だけでなく場合によっては従業員も派遣されます。そのため、買収された会社は、派遣された従業員を受け入る体制を整える必要があります。貸与のPCなどはもちろんのこと、名刺や電子メールアドレスなど業務にあたって必要ものも含まれます。
人事制度の整備
中小企業においては、人事制度が適切に構築されてないケースもあります。未払いや整備されていない人事制度を逆手に訴えられるリスクがあるため、早めに人事制度を整備する必要があります。
人員整理
解雇による人員整理をするには、厳格な整理解雇の法的要件を満たす必要があります。具体的には「解雇手続の妥当性」や「非解雇者選定の合理性」などがあげられます。これらの要件を満たし、かつ労働者との合意の上で、人員整理する必要があります。
労働条件の変更
労働者にとって不利益になる変更の場合は、労働者との合意が必要になります。労働者との合意においては各労働者から個別の同意書を取るのが確実です。
組織制度
組織や決裁権などの制度も見直す必要があります。
組織が適切な人員になっていない・適切な組織構造になっていない場合は、組織の見直しが必要です。
人員だけでなく、各部署や責任者を明確にするため、職務分掌や決裁権限を見直す必要があります。買収された側が中小企業の場合、決裁権限がオーナーなどになっていることも多いので、思い切って一から整備することも必要です。
また、定款も実態にそぐわない・会社法に準拠していないケースもあるため、この場合も変更する必要があります。また、新たな事業展開などを見込んでいる場合には変更のタイミングで合わせて定款を追加しなければなりません。
最後に、就業規則、給与規則などの労務関連規程、稟議規程、与信管理規程など実務上使われる規程についても見直す必要があります。
経理・財務
上場企業であれば四半期決算を開示する必要があり、簡易でも月次で決算を締めているケースがほとんどです。一方で中小企業は決算を開示する義務はないため、月次決算や四半期決算に間に合うように経理体制を構築する必要があります。
また、方針にもよりますが、遊休資産や事業外資産を保有しない会社もあります。そのため、買収された会社に遊休資産などがある場合は、売却する必要があります。
社内システム
買収された会社が同業種ならば、買収側で利用している業務システムやインフラを導入することが一般的です。買収された会社にとっては負担が大きくなるため、従業員などにも得られる効果を丁寧に説明して、導入を進める必要があります。
業種が異なる場合は、グループのシステムを導入する方が良いのか、それとも利用しているシステムのままにした方が良いのか、慎重に検討する必要があります。
決算システムに関してもグループで統一する方が良いです。買収側が上場会社であれば、タイムリーに集計ができる方が良いのでシステムを統一する方が良いでしょう。買収された側もデータが連動されることで経理担当者の負担は大幅に軽減されることになります。
事業内容
買収先の事業内容や取引先を見直すことも必要です。例えば、両社の類似製品やサービスがある場合の統廃合や、仕入れ先が複数ある場合の絞り込みなとがあげられます。
事業内容や取引先の精査は、シナジー効果に直結するため、慎重に行ないましょう。
PMIを始めるタイミング
PMIは、 M&Aの検討を始めると同時に準備を始めるのが理想的です。なぜなら、事前にPMIを進める上で問題になりそうな事柄を洗い出しておけば、成約直後から円滑にPMIを推進できるからです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った『M&Aの実態調査』によると、M&Aについて「期待を上回る成果が得られている」、「ほぼ期待どおりの成果が得られている」と回答した企業の約6割が、PMIの検討を「基本合意締結前」又は「DD実施期間中」に開始しています。このことからPMIの検討を早期に始めることの重要性が分かります。
PMIのプロセスの進め方
M&Aとは異なり、PMIには決まった型や明確な手続きや手順も存在しません。そのため、案件ごとに最適なPMIの計画を立てる必要がありますが、おおよそ以下の手順で進めていきます。
- 統合方針の作成
- ランディングプランの作成・実行
- 100日プランの作成・実行
- 統合の実施・効果の検証
統合方針の作成
まずは、統合方針を策定します。譲渡企業の価値やリスク調査で明らかになった課題などを考慮しながら、どのような形式・どの程度の早さで統合するかを決めます。
統合の方法は、「連邦型」「支配型」「吸収型」の3種類があります。
連邦型
連邦型は、買収された会社を独立した会社として存続させ、自主性を維持することです。連邦型のメリットは、買収された会社の独立性が維持されるため、従業員からの抵抗感は少なくなります。
一方で、シナジー効果は発揮されにくいというデメリットがあります。
支配型
支配型は、買収された会社を残すが、買い手企業が経営に関与し、コントロールていきます。
支配型のメリットは、買い手企業が実質的にコントロールするため、早期にシナジー効果を得やすいです。一方で、買収された会社では乗っ取られているという印象があるため、従業員などが離職する可能性があります。
吸収型
吸収型は、買収された会社を買収側の会社に吸収することです。吸収型は、統合のスピードが速く、シナジー効果も早期に得ることができる一方、統合スピードが速いため、現場レベルでは負担がかなり大きくなります。
ランディングプランの作成・実行
ランディングプランとは、クロージング後、数ヶ月(3~6ヶ月)以内に行うべき統合作業を計画したものです。譲渡側だけでなく、譲受側での作業も含めて実行計画に落とし込みます。
検討領域は、経営全般ですが、主に管理面と事業面の見直しが挙げられます。
- (1)経営体制
*統合後の経営の実施者
*意思決定機関のあり方
*組織体制 - (2)各種制度の統合
*業績評価制度
*人事評価制度(給与・報酬)
*退職金制度
*研修制度(外部・内部) - (3)業務システムの統合
- (4)事業・取引先の見直し
など
100日プランの作成・実行
100日プランとは、クロージング後100日間で策定する、被買収企業の中期事業計画のことです。
ランディングプランは統合項目の全体的な計画であるのに対し、100日プランは優先度の高い項目の具体的な作業計画です。
例えば、取引先へのあいさつや社員との個人面談の実施などが該当し、誰が主導していつまでにどんな手順で進めるのかを落とし込んで実行していきます。
100日プランの進め方は以下です。
- プロジェクトチームの組成
- 現状分析・課題の洗い出し
- アクションプランの策定
- 100日プランの実行
プロジェクトチームの組成
まずはプロジェクトチームを立ち上げます。プロジェクトチームは買収側の人と被買収の人の混成チームで組むのが望ましいです。なぜなら、一方だけのチームで編成した場合、もう一方の会社の実態がわからないため、効率的にプロジェクトは進むことができないからです。
また、100日プランは、内容が多岐にわたり、かつチームも多数へんせいされることになるため、取りまとめるPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設置しておくのが良いです。
現状分析・課題の洗い出し
その次に現状を分析して課題を洗い出します。例えば、現状を分析するのは、買収された会社が担当し、それに対しての課題を買収側の人が出すと適切に抜き出すことができるでしょう。
アクションプランの策定
出てきた課題に対してのアクションプラン作成します。課題をどのように進めるのか、誰が担当者するのか、いつまでに進めるかなどを決めていきます。
アクションプランが適切に作成できていない場合、思った通りの効果が出ない可能性がありますので、アクションプランの策定は丁寧に進めていきましょう。
100日プランの実行
最後にアクションプランに沿ってプランを実行していきます。なお、100日はあくまでも目安ですので、きっちり100日間で行う必要はありません。
M&Aの実施
100日プランに従い、M&Aを実施します。具体的なアクションプランに基づいて施策を実施し、マネジメントによるモニタリングを行うことも重要です。
なお、企業によって取り組むべきテーマや課題への優先度合いは異なります。M&Aは中長期的に実施することを念頭におきつつも、効果的な取り組みを行えるように、担当者の当事者意識の醸成も図っていきましょう。
M&Aの実施後の効果検証
M&A実施後は、効果検証とフォローアップです。策定された統合計画や100日プラン、作成されたアクションプランの進捗状況を測定し、効果検証を行います。改善すべき事項や対応すべきトラブルがあれば、この段階でフォローアップ施策を実施します。
PMIを進めると、M&Aがどれだけ自社の成長・存続のために必要かよく理解できます。
他社を見ることで、自社の良い点・悪い点も明確化され、将来に向けてどうして行くべきか視野が広がっていくことも、PMIの大きなメリットと言えます。
PMIを成功させるポイント
PMIは、M&Aの検討段階と同時に始めるのが良いです。M&Aを検討する際は、まず自社に後継者となる人材がいるのか、財務に問題がないのか、M&Aをすることによるリスクなどを検討する必要があります。PMIも同様で、PMIを進めるうえで問題になりそうな事柄も洗い出しておくことで、M&A後の円滑なPMIにつながります。
それでは、PMIをスムーズに進めるには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
PMIの目標やスケジュールを明確化する
PMIを進めるにあたって実行する目標やスケジュールを明確にしておく必要があります。
目標を設定することで向かうべき方向性などが明確になり、従業員にもやるべきことが理解されやすくなります。
また、スケジュールを明確にしておくことで、進捗管理が可能となり、作業漏れなどを防ぐのに役立ちます。
デューデリジェンスを徹底する
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することです。
デューデリジェンスの徹底もPMI成功に不可欠です。デューデリジェンスが不足すれば、統合にあたって必要な情報が欠けるため、PMIがうまくいきません。
デューデリジェンスは経営体制や事業規模での調査が求められると考えられがちですが、人事や法務といった制度面に関しても詳細な調査をし、社員とすり合わせを行えば、将来的な障壁を予防できるでしょう。
適切に対応できるPMI担当者を配置する
合併や買収によって、社員のモチベーションの低下、利害対立や摩擦が生じるなど、現場が混乱する可能性があります。スムーズな統合作業には、各部署を強力なリーダーシップで取り仕切る『責任者』の存在が欠かせません。
そこで、PMIを推し進める『プロジェクトチーム』を立ち上げ、各部署に適切なPMI担当者を配置しましょう。また、買収する側の人材だけでなく、買収された会社側でも会社の事業や業務内容を把握している人をPMIの実行者として選定したほうが良いです。
なぜなら、会社のことを正確に把握している人がいれば、課題を適切に把握し解決に向けて動かすことができるからです。
社員のケアを忘れず行う
経営者同士で意気投合しても、業務を行う現場の社員の理解がないと、M&Aはうまくいきません。
特に、「m&aによって業務や給与が変わってしまうのではないか?」と現場が混乱する可能性が高いです。
一方の社員達の協力を得られないままでは、PMIに取り組んでも、結果として当初期待していた成長を実現することも困難になってしまいます。
そのため、経営陣が社員達とコミュニケーションをとり、将来どうなるのかなどを明確に説明し、社員の不満や不安を解消する必要があります。
自社と比較しすぎない
これは、買収側の企業で起こりがちなのですが、被買収側のデューデリジェンスの結果や、実務を目の当たりにして「これはダメだ」「当社のやり方に合わせてください」となるケースがあります。
一方的に買収側の価値観や常識を押し付けると、信頼関係構築に影響を及ぼす可能性もあります。そのため、改革する際には被買収側になぜそれを行う必要があるのか十分にコミュニケーションをとりながら進めることが大切です。
まとめ
PMIは、M&Aの成功を左右する重要なプロセスです。日本では特に意識が必要な課題となっております。
M&Aを検討している方は、今回ご紹介したPMIプロセスや成功させるためのポイントを参考にしてみてください。
また、中小企業の経営者の方で、M&Aや事業承継を検討している方は、
中小企業庁が「PMIガイドライン」や「事業承継ガイドライン」を公開していますので、ぜひ参考にしてみてください。
PMIは、専門的な考慮が必要なプロセスも多いため、自社の目的と戦略にあった適切なコンサルタントと連携するのも有効な手段です。
PMIの詳細やM&A全般についてご相談があれば、ぜひお問い合わせください。
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この記事の著者
NBC税理士法人
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