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よくわかる事業承継の手続き|流れ・必要書類・税金も解説

2022.12.08

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会社の経営を後継者に引き継ぐためには、事業承継の手続きが必要です。事業承継では、会社の経営権だけでなく資産や負債といった事業に関するものすべてを引き継ぐこととなります。経営に大きな損失を与えず、滞りなく事業を引き継ぐためにも、あらゆる手続きを行わなければなりません。

また、事業承継の手続きは、後継者を誰にするかによって種類が異なります。円滑に手続きを進めるためには、あらかじめ種類ごとの手続き方法を把握しておくことがおすすめです。

そこで今回は、事業承継を実施する基本的な手続きの手順と、事業承継の種類ごとにおける「手続きに必要な書類・費用」を詳しく紹介します。社長引退を検討している方や、後継者に会社を引き継がせようと考えている経営者の方は、ぜひ当記事の内容をお役立てください。

目次

1.事業承継を実施する手続きの流れ

大企業・中小企業の経営者や個人事業主が事業承継を行う際は、さまざまな手続きが必要となります。なるべく十分な準備をしておくためにも、事業承継の手続きに関する全体的な流れを把握しておきましょう。

(1)後継者との合意形成

どのような方法で事業承継を行うにしても、後継者との合意形成は必要です。後継者の合意なく事業承継を進めると、関係性が悪化したり経営に深刻な影響が生じたりする可能性があるため、最優先で後継者との話し合いや確認を進めておきましょう。

(2)関係者への周知

後継者との合意形成を行ったあとは、選定した後継者についてはもちろん、今後の動きなどに関する情報を関係者へ周知する必要があります。従業員にとっては、経営者が変わるという点は少なからず不安を覚えるものです。単純に周知するだけでなく、事業承継を行う前から従業員との関係性を構築させることも大切と言えるでしょう。

(3)後継者への株式譲渡

関係者への周知やあらゆるリスク予防を行ったあとは、後継者へ自社株式を譲渡します。株式譲渡の方法には、相続・贈与・売買の3種類があります。事業承継の種類や経営者の実情によって、適切な方法を選びましょう。

(4)個人保証・担保の承継

株式譲渡では、個人保証・担保の承継も実施します。引き継ぎ前の経営者が事業の借入金に自宅や資産を担保としている場合は、借入先金融機関で必要な手続きを踏んで、後継者に引き継ぐようにしましょう。また、場合によっては担保の引き継ぎが認められないケースもあることに注意が必要です。

また、事業承継は後継者との関係性によって「親族内承継」「従業員承継(親族外承継)」「M&A(第三者承継)」の3つの種類に分けられます。

ここからは、事業承継の3つの種類別に、手続きの流れや必要書類・費用を解説します。

2.親族内承継による事業承継の手続き

親族内承継は、経営者の親族に事業承継をすることを指します。親族内承継の場合は、相続または贈与手続きで株式譲渡を行うことが基本です。経営者が亡くなった場合は相続、存命中に事業承継をする場合は贈与となります。

相続による事業承継では、遺言書の有無が重要です。遺言書において「後継者に株式を譲渡する」という旨が記載されていない場合、事業承継が成立しないおそれもあるため、必ず遺言書を作成して後継者への株式譲渡を行う旨を記載しましょう。

また、存命中に事業承継を行う場合(贈与による事業承継)は、株主総会または取締役会にて承認を得る必要があります。そのうえで、株式譲渡の手続きを行い、後継者に株式を譲渡します。

2-1.必要書類

親族内承継で必要となる書類は、下記の通りです。

  • 遺言書
  • 生前贈与契約書
  • 事業譲渡契約書
  • 株式譲渡契約書
  • 遺産分割協議書

親族内承継を行うすべてのケースで、上記に挙げた書類すべてが必要となるわけではありません。例えば、相続による事業承継の場合は、遺言書や生前贈与契約書、遺産分割協議書が必要ですが、贈与による事業承継ならこれらの書類は必要ないでしょう。

円滑に事業承継の手続きを進めるためにも、あらかじめどのような書類が必要なのかを把握しておき、早めに準備しておくことが大切です。

2-2.必要費用・税金

親族内承継に必要となる費用・税金は、相続による事業承継か贈与による事業承継かで異なります。相続による事業承継は相続税が、贈与の場合は贈与税が後継者に対して必要となります。

しかし、「事業承継税制」を活用した場合はこれらの税金がかかりません。事業承継税制とは、相続や贈与で事業承継した後継者の税金の免除や猶予が認められる制度であり、定められた要件を満たしたうえで手続き・申請をする必要があります。

節税対策として代表的な事業承継税制を活用すれば後継者の納税額負担が軽減される一方で、譲渡した経営者側に譲渡所得として税金が発生することも覚えておきましょう。

3.従業員承継(親族外承継)による事業承継の手続き

従業員承継(親族外承継)とは、経営する会社の役員や従業員に事業承継をすることを指します。従業員承継(親族外承継)の場合は、「後継者に株式を買い取ってもらい、株式・経営権の双方を承継する方法」と「経営者が株式を保有したまま、後継者に経営権のみを承継する方法」の2通りがあります。

基本的には、後継者に株式・経営権の双方を承継する方法が多くなっています。株式を譲渡する場合は、株式総会または取締役会で譲渡承認を申請するための手続きが必要です。

3-1.必要書類

従業員承継(親族外承継)で必要となる書類は、下記の通りです。

  • 株式譲渡承認請求書
  • 株式譲渡契約書
  • 株式名義書換請求書
  • 株主名簿
  • 株主名簿記載事項証明書

株式名義書換請求書は、株式譲渡の実施後、株式譲渡者である経営者と後継者が共同で作成・提出しなければなりません。このように、すぐ発行できる書類ばかりではないため、前もって準備しておくことが大切です。

3-2.必要費用・税金

後継者に株式を買い取ってもらい、株式・経営権の双方を承継する場合、後継者は株式を買い取ることとなるため、相応の資金(現金)が必要です。後継者がこの費用を準備できなければ、事業承継は実施できません。

また、株式譲渡者である経営者は株式譲渡によって対価(譲渡所得)を得るため、税金が発生します。株式譲渡による課税所得税は分離課税となっており、所得税・復興特別所得税・住民税が課されることを覚えておきましょう。

4.M&A(第三者承継)による事業承継の手続き

M&A(第三者承継)とは、買い手企業に株主を売却し、経営権を移転させて事業承継をすることを指します。事業の買収側・売却側の双方の同意さえあれば事業承継を進められますが、手続きにはより高度な知識が必要となります。そのため、M&A(第三者承継)による事業承継の場合はまず専門家へ依頼することが基本です。

M&Aの専門家には、仲介型と代理人型の2種類があります。仲介型はいわゆる双方の調整役として契約をサポートしてくれて、代理人型は売り手側が利益を得られるよう買い手側に条件交渉などを行うことが特徴です。保有知識や報酬は専門家によって異なるため、適切な依頼先を選びましょう。

4-1.必要書類

M&A(第三者承継)で必要となる書類は、買い手が見つかっているか・見つかっていないかで異なります。買い手が見つかっていない場合は、下記の書類がまず必要です。

  • ロングリスト・ショートリスト
  • ノンネームシート
  • 秘密保持契約書

候補となる買い手を1社~複数社ピックアップした際や、すでに買い手がいる場合は、下記の書類が必要となります。

  • デューデリジェンス
  • 基本合意書
  • 最終合意書(売買契約書)
  • TSA

これらの書類は、交渉の際に必要となるため、買い手が見つかっていない場合でも後々準備しなければなりません。スムーズに交渉を進めるためにも、早めの準備が大切です。

4-2.必要費用・税金

M&A(第三者承継)で必要となる費用は、誰に・どこに依頼するかによって大きく異なります。

M&Aの専門業者やコンサルティング業者に依頼する場合は、事業承継が完了するまで毎月、数万~数十万円の月額料金がかかることが基本です。加えて、取引金額に応じて成功報酬が発生するケースもあります。

一方で、弁護士や税理士に仲介や相談を依頼する場合は、相談料・着手金・成功報酬の支払いが必要です。依頼先によって大きく異なるものの、合計で30万円程度が相場となります。

また、M&A(第三者承継)は買い手企業に株主を譲渡することとなるため、当然譲渡所得に対して税金が発生することも覚えておきましょう。

まとめ

会社経営を信頼できる後継者に引き継ぐためには事業承継の手続きが必要であり、手続き方法は後継者を誰にするかによって細かに異なります。事業承継の手続きを円滑に進めるためには、親族内承継・従業員承継(親族外承継)・M&A(第三者承継)といった種類ごとの手続き方法を把握しておくことが大切です。

各手続き方法において、必要な書類や費用も異なります。まずはどのような方法で事業承継を実施したいかを考えたうえで、適切な手続きを行いましょう。よりスムーズに、かつトラブルなく事業承継を進めたいなら、弁護士や税理士などの専門家に相談することも効果的です。専門家に相談することで、現在の経営状況や課題を整理しながら適切な方法で事業承継の手続きを進められるでしょう。

(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)

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この記事の著者

NBCPlusオンライン編集部

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