人事評価制度とは、従業員の能力やスキル、企業に対する貢献度などを適切に評価するための制度を指します。人事評価制度を導入することにはさまざまなメリットがありますが、制度を整えるためには相応の手間や時間がかかります。そのため、人事評価制度を導入すべきかどうか悩んでいる中小企業の経営者・人事担当者もいるのではないでしょうか。
当記事では、人事評価制度(人事評価システム)を導入している中小企業の実態をふまえた上で、中小企業が人事評価制度を導入する必要性やメリットについて解説します。中小企業が人事評価制度を導入するタイミングや、導入する際の注意点も併せて確認し、従業員評価の適切化と生産性向上を図りましょう。
普段、有料の研修でのみ配布しているテンプレ―トをプレゼント!
目次
1.人事評価制度を導入している中小企業の実態
人事評価制度をすでに導入・運用している企業も多く見られますが、中小企業では人事評価制度はどの程度浸透しているのでしょうか。2022年版「中小企業白書」によると、企業規模別の人事評価制度の導入率は次の通りです。
人事評価制度の導入率(企業規模別)
企業規模(従業員規模) | 導入率 |
---|---|
5~20人 | 35.0% |
21~50人 | 57.2% |
51~100人 | 72.5% |
101人以上 | 87.2% |
企業規模が小さいほど人事評価制度の導入率は低くなっています。特に、従業員50人以下の企業では、人事評価制度の浸透率はそれほど高くないと言えるでしょう。
それでは、人事評価制度があることによって、企業活動にどのような影響があるのでしょうか。人事評価制度を導入・運用することには、さまざまなメリットがあると言われています。ここでは、人事評価制度の有無と売上高増加率との相関を紹介します。
人事評価制度の有無別・企業規模別に見た売上高増加率
企業規模(従業員規模) | 売上高増加率(中央値) | |
---|---|---|
人事評価制度あり | 人事評価制度なし | |
5~20人 | 6.6% | 2.6% |
21~50人 | 7.9% | 3.9% |
51~100人 | 7.7% | 5.9% |
101人以上 | 10.4% | 0.6% |
企業規模にかかわらず、人事評価制度を導入している企業のほうが、売上高増加率が高い傾向です。ただし、人事評価制度は一度策定して終わりというものではありません。2022年版「中小企業白書」によると、人事評価制度の見直しを行う頻度によって、売上増加率(中央値)も大きく異なります。
人事評価制度を定期的に見直している企業の売上高増加率は、見直し頻度の低い企業と比べて高いです。人事評価制度を導入した上で、定期的に見直しを行うことにより、売上高を増加させられる可能性があると考えられます。
2.中小企業が人事評価制度を導入する必要性は?メリットはある?
企業が人事評価制度を導入することには多くのメリットがあり、特に中小企業で導入する場合には、主に次のようなメリットを受けられます。
- 社員の定着率を高められる可能性がある
- 社員同士のコミュニケーションの機会が増える
ここでは、上記の2つのメリットについて解説します。なお、人事評価制度に関するメリット・デメリットについて詳しく確認したい人は、以下の記事をご参考ください。
2-1.社員の定着率を高められる可能性がある
厚生労働省の調査によると、新卒就職者における就職後3年以内離職率は、大企業よりも中小企業のほうが高い傾向があります。
人材の採用や育成にはコストがかかるため、特に中小企業ではいかに従業員の定着率を高めるかが課題となります。人事評価制度を導入することによって適切に人材評価を行えば、従業員の仕事に対するモチベーションも高まり、やりがいをもって働けるようになるでしょう。また、離職率の低下も期待できます。
2-2.社員同士のコミュニケーションの機会が増える
中小企業は従業員の数が少なく、個人間のトラブルや不満、わだかまりが仕事全体に影響することも珍しくありません。このようなトラブルを早い段階で発見するためには、従業員間で十分にコミュニケーションをとることが大切です。
人事評価制度を導入すると、定期的に評価面談を行うことになります。社員間でコミュニケーションをとる機会が増えるため、トラブルの早期発見・解決といった対応をとれます。コミュニケーションが活性化されることにより、従業員が上司や先輩などに相談しやすい環境の形成も期待できるでしょう。
3.中小企業が人事評価制度を導入するタイミングは?
人事評価制度を導入するには、導入費用などのコストや手間がかかるため、導入するタイミングに迷っている企業・担当者も多いのではないでしょうか。
ここでは、手間とコストをかけてでも人事評価を導入したほうがよいタイミングを判断する基準やその理由について解説します。導入の目安となる基準を考慮した上で、自社が人事評価制度を導入するタイミングを見計らい、準備を進めましょう。
なお人事評価制度の運用コストについては以下の記事で解説しています。
3-1.従業員数が50人以上になったとき
人事評価制度を導入しない理由として「従業員が少なく、経営者が全従業員を把握できるため」といった内容を挙げる中小企業も多く存在します。
しかし、従業員数が50人以上になると、従業員全員の顔と名前、担当業務の内容などが一致しにくくなることも多くなります。また、部下の仕事に目が届きにくくなるため、管理職が従業員を適切に評価することも難しくなるでしょう。
自分の仕事を適切に評価してもらえないと従業員が感じた場合、仕事へのモチベーションが低下する恐れがあります。従業員の働きぶりを客観的に評価するためにも、従業員数が50人以上になったときには、人事評価制度を導入したほうがよいでしょう。
3-2.働き方改革を行うとき
「テレワークの実施」「残業時間の削減」などの働き方改革の推進に伴い、従来よりも能力や行動で評価を行う必要性が高まっています。働き方改革を社内で進める際には、公正な評価を行うためにも人事評価制度を導入したほうがよいでしょう。公正な人事評価制度を策定するためには、次のようなポイントを押さえることが大切です。
■テレワーク環境下などで公正な人事評価制度を策定するためのポイント
- 評価基準や賃金制度について明確に定める
- 仕事の成果について定量的に判断する
- 目標に対する達成状況を管理する
- 従業員側との密なコミュニケーションを心がける
3-3.採用に力を入れたいとき
近年では就職先に求める価値観が多様化しており、中には年功序列の賃金体系・昇進制度ではなく、能力主義の評価制度を重視している求職者も少なくありません。人事評価制度を整備することによって採用活動でアピールできるため、優秀な人材に応募してもらえる可能性が高まり、採用コストの削減にもつながるでしょう。
また、人事評価制度の導入によって従業員がもつ能力やスキル・適性を整理できれば、どのような人材を採用し、どのような人材配置を行えばよいか分析することもできます。採用活動の効率化を図ったり、採用後のミスマッチを防いだりすることにもつながるでしょう。
4.中小企業が人事評価制度を導入するときの注意点2つ
中小企業が人事評価制度を導入する場合、タイミング以外にも注意すべきポイントがいくつかあります。ここでは、中小企業が人事評価制度を構築・導入する際の注意点を2つ紹介します。
企業に合った人事評価を行う
中小企業は従業員数が少ないため、従業員一人ひとりの生産性を高めることが大切です。従業員のモチベーションを高めるためにも、企業理念や事業計画に基づいて「何のために働くか」「どのような仕事をすべきか」を明確にし、人事評価の基準に設定しましょう。
企業理念や事業計画、企業のビジョンとの一貫性がある人事評価制度であれば、各従業員が自立して業務に取り組む企業風土を培っていくことも期待できます。短期的な売上アップだけでなく、中長期的な成長にも効果が期待できるでしょう。
評価基準や内容を明確にする
中小企業など規模の小さな企業では、特に評価制度の透明性や評価方法の公平性の高さが重要となります。従業員が日々の業務や評価の内容に納得し、意欲をもって仕事に取り組めるよう、評価者は評価基準・評価項目を明確化・可視化した上で従業員に説明しましょう。
上記2点を押さえた上で、基本的なプロセスに沿って人事評価制度の策定・導入・運用を行いましょう。実際に人事評価制度を策定する際には、次の記事もご参考ください。
まとめ
人事評価制度を導入していない中小企業も少なくありません。しかし、制度を導入していない企業よりも、人事評価制度があり定期的に見直している企業の売上増加率のほうが高い傾向があります。従業員の定着率向上や社内におけるコミュニケーション機会の増加などのメリットもあるため、中小企業でも人事評価制度の導入を積極的に検討しましょう。
中小企業が人事評価制度を導入するタイミングはいくつかあります。導入する際には企業・組織に合った人事評価制度を策定し、評価基準や内容を明確にすることが大切です。自社に適した制度設計を行い、自社の従業員を適切に評価して社内の生産性アップ・業績アップを図りましょう。
※普段、有料の研修でのみ配布しています!
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
人事評価制度関連記事
この記事の著者