傾聴力(読み方は「けいちょうりょく」)とは、相手のことを理解しようと話に注意深く耳を傾け、熱心にきくスキルのことで、コミュニケーションや対話の質を向上させるために重要な能力です。
傾聴力の高い人は、積極的に話を聞くだけでなく、相手の表情・声のトーンなど非言語的なサインや感情も読み取っています。相手を尊重し、信頼関係を築くためにも、傾聴力を鍛えることはビジネスにおいてもプライベートにおいても非常に多くのメリットがあります。
この記事では、傾聴力の定義や鍛え方・コツ、効果的な活用方法について詳しく解説します。
目次
傾聴力とは
傾聴力とは、相手のことを理解しようと注意深く話に耳を傾けるスキルのことで、コミュニケーションや対話の質を向上させるために重要な能力です。
コミュニケーション能力が高い=話し上手と考える方も多いかもしれませんが、ビジネスコミュニケーションにおいて傾聴は基本と言われており、相手の話を聴く=聴き上手であることがとても重要です。
「相手が自分の話を熱心に聴いてくれて、自然と言葉が出て話しやすくなった。」といった経験はないでしょうか?人は相手に話を聴いてもらうことで理解されたと感じ、相手を信頼しやすくなりますし、聴く側も相手を知るほど相手に歩み寄った対応がとれるようになります。
傾聴力の重要性は近年高まっており、さまざまな場面で良好な人間関係を築くためのコミュニケーションスキルとして「社会人基礎力」の一つにもあげられています。
傾聴力の定義『ロジャースの3原則』
傾聴は英語で「Active Listening」と表現されます。Activeには「積極的」や「能動的」という意味があるため、傾聴とは単に聞き手に徹するだけでなく、「積極的に相手の話を聴くこと」と言えるでしょう。
『傾聴力』はもともとカウンセリングの技法で、アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャースが、カウンセラーが身につけるべきスキルの一つとして提唱したものです。
カール・ロジャースは、傾聴力を発揮するためには「共感的理解」「無条件の肯定的配慮」「自己一致」の3つの要素が必要としています。
共感的理解
共感的理解とは、どのような時にも話し手の立場になって話を聞く態度・姿勢を指します。話を聴く際は、言葉の内面にある話し手の心情理解に努めましょう。相手の気持ちや考えに寄り添い、自分自身のことのように理解しようと努めることで、より深い理解につながります。
なお、共感の気持ちを伝える際、同意との混同には注意が必要です。一般的に同意は、自分と相手の考え方が一致していると意思表示することを指します。それに対し共感は、話し手の状況を自分に置き換えて相手の言葉を受け入れることを意味します。この場合、お互いの意見が同じかどうかは関係ありません。
また、共感は同情とも異なります。「かわいそう」と思うのではなく、あくまで相手の気持ちや悩みに寄り添うことが大切です。
無条件の肯定的関心
無条件の肯定的関心とは、自身の価値判断や先入観によって相手の話を判断・評価することなく、常に肯定的な関心を示しながら話を聞く態度・姿勢を指します。価値観は人それぞれだからと相手の話を否定するのではなく、「なぜそうなったのか?」「どうしてそうしたのか?」など背景を考えながら話に耳を傾けましょう。
肯定的な関心を示す場合には、話を全面的に受け入れることが大切です。自分の考えや価値観を肯定してもらえると安心して話せるようになります。仮に自分と意見が一致しなかったり、話し手の発言が間違っていたとしても、批判・反論する必要はありません。
自己一致
自己一致とは、聞き手が話し手の意図と自分自身の理解を一致させ、言葉の奥にある真意を把握する態度・姿勢を指します。何が真意かを把握するためには、会話の内容を正しく理解することが求められます。ただ相手が気持ちよく話せるように迎合するのではなく、話が理解できなかった時にはその旨を誠意ある態度で伝え、意図や真意を理解できるように再度確認しましょう。
実際は理解できていないのに理解したふりをしたり、わからないことや不明な点を放置したまま話を聴き続けても、それは傾聴とは言えません。
傾聴の種類
傾聴には、次の3段階・ステップがあります。
- 受動的傾聴
- 反映的傾聴
- 積極的傾聴
傾聴力の高さ・習熟度はこの3つのステップで見極めることができると言われています。
受動的傾聴
受動的傾聴は、相手を尊重しながら真摯に耳を傾け、相手の話を受け止めることです。傾聴の中でも基本となるステップになります。
受動的傾聴の長所は、「自分の話を聴いてもらえている。」「自分の話を受け入れてもらえている。」という安心感を相手に持ってもらえることです。
ポイント・コツは、「私はあなたの話をしっかり聞いています。」という姿勢が伝わるように、相手の話すペースに合わせてうなずきや相槌・アイコンタクトを行うことです。
また、受動的傾聴を続けていると沈黙の時間が訪れることがあります。ついつい言葉を発したくなりますが、相手の中で自問自答や葛藤が続いていると捉え、相手が何かを話し出すまで待つことが重要です。
反映的傾聴
反射的傾聴は、相手が話していることを相槌のなかに反映させながら聴くことです。心理学におけるカウンセリングでも広く活用されているバックトラッキング(後述)を活用し、相手の話をオウム返しする技法といえます。
反映的傾聴の長所は、「自分の話の内容や心情を理解してもらえている。」と相手に感じてもらえることです。
ただし、相手の話した内容からズレた受け答えをしてしまうと、話し手にストレスを与えるだけでなく、「否定された」「理解してもらえない」と捉えられてしまう危険性があります。相槌は「明快に」「短く」「要点を掴んで」「相手の使った言葉で」行うことがポイントです。
積極的傾聴
積極的傾聴は、相手の話に言葉を添えたり質問を投げかけたりすることで、相手の思考をいっそう促すことです。上手に質問を投げかけることができれば、より深いレベルのコミュニケーションにつながるでしょう。
積極的傾聴の長所は、価値観や気持ちといった深層的な内容を、相手が進んで話をしてくれるようになったり、自身では気づいていなかった本音といった“気付き”を得られることです。
質問する時は「相手が自ら進んでそのことを考えて話たくなる」「前向きに答えたくなる」ようなアプローチを心掛けましょう。話を意図する方向に誘導するような誘導尋問を行わないように注意してください。
傾聴力の鍛え方・トレーニング法
傾聴力は、聞き方を少し変えるといった「ちょっとしたコツ」を覚えれば、誰でも身につけることができる能力です。具体的なテクニックやコツを解説します。
姿勢(態度・しぐさ)
傾聴において最も大切なことが、姿勢(態度・しぐさ)です。相手の話に興味・関心があり、しっかりと丁寧に話を聴く意思があることを示す必要があります。パソコンから手を離し、身体は相手に向け、視線は目や目の周辺を見るようにしましょう。時計やスマートフォンを気にしたり、視線をあちこちに向けないように注意が必要です。
また、自分の姿勢だけでなく、相手の姿勢にも注意を払いましょう。表情や身振り、声のトーンには相手の感情や心理・意図があらわれます。話の内容や流れ、相手の表情に合わせて聴き手も表情や声のトーンを変えましょう。(基本的にはリラックスしてもらえるよう柔らかい表情・声のトーンを心がけるとよいでしょう。)
真剣に話を聴こうと集中するあまり、表情まで真剣になりすぎてしまうと、相手に圧迫感を与えてしまいます。また、腕組みは警戒や拒絶を表し、相手との間に壁をつくってしまうため厳禁です。
ペーシング
ペーシングとは、相手が意識的・無意識的に活用している言語・非言語コミュニケーションに合わせていくことです。「人は自分に似ているものに親近感を抱く」という心理学の法則(類似性の法則)を意図的に起こすことで、相手は安心感や親近感を抱きリラックスしたコミュニケーションができるようになります。
ペーシングの中でも、取り入れやすいテクニックを3つ紹介します。
ミラーリング(相手のしぐさや表情をペーシングする)
ミラーリングとは、相手の仕草や行動、表情、声のトーンなどを真似るテクニックのことです。ただし、あまりにもあからさまに相手の真似をしてしまうとかえって不自然で、「バカにしているのかな?」と不信感・違和感を抱かれてしまう可能性があります。まずは、友達や家族・同僚に協力してもらい、練習から始めると良いでしょう。その後、ビジネスの場で実践することをおすすめします。
マッチング(相手の声をペーシングする)
マッチングとは、話すテンポや声のトーン・大きさ、呼吸のリズムなどを相手に合わせるテクニックのことです。相手の声の調子を聞き取り合わせていくことも大切ですが、自分の声や話し方を理解し、コントロール(早く・ゆっくり・高い声・低い声・ボリュームなど)できるよう日頃から意識しておくことが重要です。
バックトラッキング(相手の言葉をペーシングする)
バックトラッキングは「オウム返し」とも言われ、相手の言葉を繰り返して相槌に用い返事をするテクニックのことです。
具体的には次の3種類の手法があり、話題や状況に応じて使い分けることが重要です。まずは相槌のタイミングを計ることから始めてみましょう。
- 相手の話した「事実」を繰り返す
- 相手の話した「感情」を繰り返す
- 相手の話の「要約」を繰り返す
会話の割合
あくまで目安となりますが、会話の割合が「相手7:自分3」がちょうどよいと言われています。かなり大変・難しいと最初は感じるかもしれませんが、意識的に自分が話す割合を減らし相手の話に耳を傾けましょう。
ただし、黙って話を聴き続けることのないよう、適度に相槌や質問を投げかけ、相手が安心して話せるように注意しましょう。
質問を投げかける
相手を深く知るために積極的に質問を投げかけましょう。質問は相手の意見や感情を深く掘り下げ、より具体的な情報を引き出す手段として有効です。上手に質問を投げかけることで、相手とのコミュニケーションを豊かにし、相互理解を促進しましょう。
効果的に質問をするために、以下のポイントに注意しましょう。
目的に合わせた質問
質問をする前に、自分の目的や目標を明確にしましょう。相手から得たい情報や洞察に基づいて、具体的な質問を考えます。
オープンクエスチョン
オープンクエスチョンは、相手に自由な回答を促すものです。相手の意見や情報を幅広く引き出すために活用しましょう。
探究的な質問
探究的な質問は、相手の考えや感情に深く入り込むために使用します。具体的な事例や体験に基づいた質問を通じて、相手の見解や理解を深めます。
関心や共感を示す質問
相手の関心や感情に共感し、興味を示す質問は、対話の促進や信頼関係の構築に役立ちます。相手が話しやすくなるような質問を心掛けましょう。
フォローアップの質問
相手の回答に対して追加の質問をすることで、より詳細な情報や意見を引き出すことができます。フォローアップの質問を活用して、対話をより深めましょう。
ビジネスシーンでの傾聴力の活用
傾聴力は、さまざまな仕事・ビジネスシーンで活かすことが可能です。
組織の活性化
組織活性化の三要素、その一つが「意思疎通・コミュニケーション」です。傾聴力を活用することで、メンバー間の対話が円滑になります。相手の意見やアイデアに真摯に耳を傾け共感や理解を示すことで、自然と信頼関係が構築されコミュニケーションの質が高まり、組織・職場の活性化につながります。
顧客ニーズの把握
傾聴力を駆使することで、顧客の抱える課題やニーズ・要求を正確に理解することができます。顧客からのフィードバックや要望を真摯に受け止め、適切な対応策を提供することで、サービスの向上や顧客満足度の向上につながります。
問題解決やイノベーションの促進
傾聴力を活かして相手の意見や視点を聞き出すことで、会社の問題解決やイノベーションを促進することができます。相手のアイデアや提案を受け入れ、共同で解決策を模索することで、新たな視点や創造的な解決方法を生み出すことができます。
部下育成
株式会社チームスピリットが実施した調査によると、【自分らしく幸せに感じられる状態(ウェルビーイングな状態)で働くために上司に期待する行動・姿勢】の第1位が「傾聴」でした。傾聴力は部下も持つ管理職・リーダーに必須のビジネススキルといっても過言ではないでしょう。
出所:株式会社チームスピリット『ビジネスパーソンのウェルビーイングに関する実態調査』2022年7月20日
部下や後輩の意見・感情に真摯に耳を傾けることは、個別のニーズや関心事を把握し、より適切なサポートや助言を行うことに役立ちます。部下・後輩の自己肯定感やモチベーションも向上し、雰囲気が良くなり職場環境の改善にも寄与します。
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まとめ
傾聴力は、相手の話に真摯に耳を傾け、共感や理解を示す能力です。傾聴力を高めるためには、効果的な質問の仕方や反応・フィードバックの提供、非言語的なサインの観察が必要です。簡単ではないかもしれませんが、この記事や下記のおすすめ書籍を参考に傾聴力を鍛え、より深いコミュニケーションと相互理解を実現しましょう。
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