社会人基礎力は、2006年に経済産業省により「多様な人々と仕事をしていくうえで必要な基礎的な力」と定義された概念です。
3つの能力と12の能力要素があり、今回は社会人基礎力とは何かとその鍛え方について解説します。
目次
社会人基礎力とは?
「社会人基礎力」とは、2006年に経済産業省が提唱した「職場や地域社会で多様な人々と仕事していくために必要な能力」のことです。
「社会人基礎力」が生まれた背景として、企業と学生の間に「身につけておいてほしい能力水準」に大きな意識の差・ギャップがあったことがあげられます。
経済産業省が発表した『大学生の「社会人観」の把握と「社会人基礎力」の認知度向上実証に関する調査』によると、企業は学生に対し「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーション能力」が不足していると感じている一方、学生はそれらの要素は「すでに身につけている」と考える傾向にあるという結果がわかりました。
また、学生は「語学力」「業界に関する専門知識」「PCスキル」などが不足していると感じている一方、企業側はそれらの要素に対して特に不足を感じていないという結果も出ています。
業界や職種を問わず、あらゆる職場で求められる「社会人基礎力」は、ぜひ身につけておきたいスキルです。経済産業省が2010年6月に実施したアンケートでも、およそ70%の人事・採用担当者が「採用選考における人材評価要素や人材育成に社会人基礎力を活用する」と回答しています。
社会人基礎力を構成する3つの能力と12の能力要素
社会人基礎力は、前に踏み出す力・考え抜く力・チームで働く力という3つの能力と12の能力要素から構成されています。
前に踏み出す力(アクション)
前に踏み出す力とは、一歩前に踏み出し、たとえ失敗しても粘り強く取り組む力のことです。
指示されることを待つのではなく、失敗を恐れず、自ら行動できるようになることが求められます。仮に、踏み出した結果失敗したとしても、その失敗は社会人として今後の活動における貴重な経験・糧となります。自分自身で解決に向けて試行錯誤を繰り返したり、周りの人々からの協力を得たりして粘り強く取り組みましょう。
前に踏み出す力は、以下の3つの能力で構成されています。
主体性
主体性とは、物事に自ら進んで取り組むことです。
2022年に日本経済団体連合会が発表したアンケートによると、企業が大卒者に対して特に期待する資質として、8割以上が主体性と回答しています。指示されたことだけをする、指示されなければ何もしないといった「指示待ち人間」では、「主体性のない人間」と評価されてしまいます。今の自分にできること、自らやるべきことをみつけて積極的に取り組みましょう。
働きかけ力
働きかけ力とは、他人に働きかけて周囲を巻き込む力です。
組織には、一人では解決できない課題や完結できない仕事がたくさんあります。自分が対応できる仕事を広める努力は必要ですが、自分ができないことは仲間に補ってもらうことも時には大切です。そんな時に周囲をうまく巻き込むことができれば、個人では解決できないことでも乗り越えることができます。
実行力
実行力とは、目的・目標を設定し、達成するために確実に行動する力です。
完遂力、あるいはやり抜く力とも言い換えることができます。
「やり抜く力」の伸ばし方についてはこちらの記事でも解説しています。
考え抜く力(シンキング)
考え抜く力とは、疑問を持ち自ら深く考える力のことです。
物事を改善していくためには、常に問題意識を持ち課題を発見することが求められます。その上で、自ら課題提起し、課題を解決するための方法やプロセスを考え抜ける自律的な思考力が社会人には求められます。
考え抜く力は、以下の3つの能力で構成されています。
課題発見力
課題発見力とは、現状を分析し、問題や課題を明らかにする力です。
問題が起きる前に課題を見つけ、その対処法や解決策を考え、提案していく力も含まれます。
創造力
創造力とは、既存の発想にとらわれず、課題に対して新しい解決方法や価値を生み出す力です。
今までの考え方や常識・固定観念にとらわれず、課題に対して臨機応変に解決方法を考えることが求められます。
計画力
計画力とは、課題解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力です。
解決に向けた複数のプロセスから最善の方法を見つけることが求められます。
チームで働く力(チームワーク)
チームで働く力とは、社会人としてさまざまな人と一緒に、目標に向けて協力する力です。
さまざまな人と協力するには、自分の意見や考えを相手へ明確に伝えたり、相手の話を理解したりと、双方の立場を客観的に見て物事を進めていくことが求められます。
チームで働く力は、以下の6つの能力で構成されています。
発信力
発信力とは、自身の意見をわかりやすく整理した上で、相手に理解してもらうように伝える力です。
自分の言いたいことを一方的に押し付けるのではなく、考え方や背景の異なる相手のことを考えながら伝えることが求められます。
傾聴力
傾聴力とは、相手の意見をしっかりと丁寧に聴く力のことです。
ただ、聴くのではなく、相手が話しやすい環境をつくり、適切なタイミングで質問するなどして相手の意見を引き出しましょう。
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柔軟性
柔軟性とは、意見の違いや立場の違いを理解する力のことです。
自身のルールに固執するのではなく、世の中には色々な考えや立場を持った人がいることを理解・尊重することが必要です。
情況把握力
自分と周囲の人々や物事との関係性を正確に理解し、把握する力のことです。
チームへ貢献するために、自分を取り巻く社会のことや、チーム内における自分自身の立ち位置や役割をしっかりと把握することが求められます。
規律性
規律性とは、社会のルールや人との約束を守る力のことです。
社会人である以上、ルールや決まり・約束を守ることは最低限求められる力です。ルールを正しく理解し、自らの発言・行動を適切に律することが求められます。
ストレスコントロール力
ストレスコントロール力とは、ストレスの発生源に対応する力のことで、現代社会においてはより重要度が増しています。
直面しているストレスがコントロールすべきものなのか、回避すべきものなのかを見極め、時にはプラスな方向へとストレスを有効活用し、自分自身の成長につなげることが求められます。
人生100年時代の到来で追加された3つの視点
2018年、経済産業省は「人生100年時代の社会人基礎力」として新たに「3つの視点」を追加しました。「人生100年時代」の到来に対応するため、長期化する人生を通じてどの世代でも活躍し続けられるように内容がアップデートされています。
学び「何を学ぶか」
「何を学ぶか」とは、何を学ぶべきか考え学び続けることです。
人生100年時代において、以前のように学ぶ・働く・引退するという3段階に区切られたキャリアの歩み方ではなくなっています。また、テクノロジーの進歩により社会で求められるスキルは日々変化し続けているため、自身の強みや弱みを把握し時代に合ったスキルや経験を常に磨き続けることが必要です。
統合「どのように学ぶか」
「どのように学ぶか」とは、自らの視野を広げ、多様な経験・能力・キャリアを組み合わせて統合することです。
企業などから長く必要とされる人材になるためには、自身が経験してきたことをただの経験で終わらせるのではなく、学びに変える。そして、自身の知識、経験、能力をそれぞれ独立して捉えるのではなく、知識、経験、能力、キャリアを組み合わせて学びを統合していくことが必要不可欠です。
目的「どのように活躍するか」
「どのように活躍するか」とは、自己実現や社会貢献に向けて行動することです。
自己実現に向けて、キャリアを描き行動していくことが求められます。その一方で、社会への貢献という視点も必要です。企業の理念や目標を理解し、目標達成のために何を期待されているのかを理解します。企業や社会からの「期待」を理解し、「自らの成長」と「企業の成長」を結び付けていくことで効果的に活躍できます。
人生100年時代では、自己責任の重みがより増していきます。自分の人生は、自分で責任を持つしかない時代です。もし100歳まで生きるとすれば、引退後の生活を支えるために、ほとんどの人が80歳まで働かなければなりません。
そしてそのためには「自分が労働市場で通用する人材」で居続けなければなりません。
社会人基礎力の鍛え方
社会人基礎力の鍛え方についてご紹介します。
自己分析を行う
3つの能力や12の能力要素の中で、何が得意なのか?何が不得意なのか?を確認し、伸ばすべき能力や改善すべき能力を把握しましょう。
自己分析の方法としては、同僚や上司など周囲の人から客観的に聞くことや、厚生労働省の『エンプロイアビリティチェックシート』などを利用しましょう。
・厚生労働省『エンプロイアビリティチェックシート 総合版』
出所:厚生労働省『エンプロイアビリティチェックシート 総合版』
日々の業務で意識する。
自身の得意分野・不得意分野が把握できたら、今度は日々の業務で意識してみましょう。社会人基礎力の能力や視点は一朝一夕では身につけられないため、日々の積み重ねや意識が大事になってきます。
また、社会人基礎力は社会人としての基礎スキルですので、得意分野だけを伸ばすのではなく、不得意分野も改善しバランスよく鍛えるよう心がけましょう。
企業は個人の能力育成を支援する
企業が社員の社会人基礎力を鍛えるためには、社員のキャリア志向にあわせた人事施策や社員が周りと切磋琢磨し、活躍できるような環境をつくることが重要です。
社員の育成を支援し、社員が成長していけば、結果的に優秀な社員の確保・定着や企業の成長につながるでしょう。
まとめ
社会人基礎力は、どの世代でも、どのような仕事をしていく上でも必要な能力です。いつまでも必要とされる人材となるべく、まずは自身の能力を把握し、改善や学習に取り組むことで、社会人基礎力を向上させていきましょう。
- 従業員のエンゲージメント調査を無料でやってみたい
- 「人的資本経営」で求められるエンゲージメントの把握と向上に取り組んでおきたい
- 労働生産性に影響する社員の意識を改善したい
- 事業承継を上手くすすめるために、社員の考え方や社内風土をハアクしておきたい
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この記事の著者
NBCコンサルタンツ株式会社
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