労働人口がが減り、人手不足が慢性化するなか、中小企業はどうすれば優秀な人材を採用・確保できるのか。
優秀な人材を採用するためのポイントと早期離職防止・ミスマッチ防止法、雇用関連の助成金などについて解説します。
目次
なぜ優秀人材の採用・確保はうまくいかないのか
大企業に比べ優秀な人材確保が難しいとされる中小企業にとって、優秀人材の採用・確保は将来の事業拡大や、企業の存続を左右しかねない大きな課題です。
優秀人材の採用・確保を成功させるためにまず始めることは、労働市場の現状を知ることからです。
人手不足の現状
人手不足が叫ばれていますが、その理由はどこあるのでしょうか。注目したいのが、新卒採用が見込まれる22歳人口の減少です。
国立社会保障 人口問題研究所よれば、2010年代以降2020年まで毎年120万人台で推移してきました。しかし徐々にそれは減っていき、2040年には100万人を割り込み、97.8万人に減少すると推計しています。
求職者1人に対して、何件の求人があるのかを示す有効求人倍率。厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によると、昨今では2021年5月の1.02倍を底に、2022年1月には1.27倍と1倍を超え、高止まりし続けています。
有効求人倍率が高いと、企業は優秀な人材の確保が難しくなるだけでなく、給与など、以前に増して好条件を示す必要も出てくるなど、採用コストの上昇が懸念されます。
中小企業庁などによる「中小企業景況調査」からは、中小企業で強い人手不足感が広がっていることがわかります。人手不足の傾向は一時的なものではなく、特に中小企業における超売り手市場は今後も続くと考えられています。
優秀人材の採用・確保がうまくいかないとどうなる?
優秀な人材の確保がうまくいかなければ、生産性のアップや好業績の達成は望めないでしょう。そればかりでなく、企業の持続的な成長が困難となり、新市場開拓や新商品開発は望めません。ひいては後継者不在で存続の危機の可能性すら考えられます。
中小企業が優秀人材の採用力をアップさせる方法
若い優秀人材はなぜ辞めてしまうのか
大企業に比べ、優秀な人材確保が難しいとされる中小企業。そんな中小企業が優秀な人材の採用・確保をアップさせるにはどうずればよいのでしょうか。その方法を解説します。
厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」によると、若年世代の不満トップ5は次のようになります。
男性(25~29歳)の場合
1位 職場の人間関係が好ましくなかった:15.2%
2位 給料等収入が悪かった:12.8%
3位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった:11.2%
4位 会社の将来が不安だった:10.7%
5位 仕事の内容に興味が持てなかった:9.0%
女性(25~29歳)の場合
1位 職場の人間関係が好ましくなかった:14.6%
2位 給料等収入が悪かった:11.2%
3位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった:9.8%
4位 会社の将来が不安だった:8.8%
5位 契約期間の満了:7.2%
職場の人間関係のほか、給与などの収入面、労働時間や休日など労働条件に対する不満が高いようです。
若い優秀人材は入社後に何を求めているのか
公益財団法人東京しごと財団が運営する東京しごとセンターが行った「若年者の就業意識」アンケートによると、若い人材が入社後に会社に求める(望む)ことの上位は以下の通りです。
1位 研修をしっかり行ってほしい
2位 風通しのよい職場にしてほしい
3位 残業なくしてほしい
4位 昇進・昇給を順当に行ってほしい
5位 知識や能力・資格を生かせる仕事を任せてほしい
6位 職場の設備環境を整えてほしい
7位 メンタルヘルスケアに配慮してほしい
8位 資格取得の機会を作ってほしい
9位 サークルや旅行など社員交流の場を提供してほしい
その他 仕事とプライベートの両立など
また、同調査によると、「知識・スキルを得るため」「やりがいのため」「自己実現のため」などの回答が働く目的の上位を占めました。
この結果から見えてくるのは、若い人材の仕事を通じた自己実現に対する意欲です。いまの若い人材が仕事に対して求めるものは、企業の人事担当者や経営者が新卒者であった頃とは異なっており、そして多様です。過去の経験に基づいた採用活動や人材育成方法では、優秀な人材の定着は難しいでしょう。
人材育成の仕組みを整備するなど、長期的な視点に立った施策が、「若い優秀人材が辞めない会社」のカギを握っていると言えそうです。
優秀人材採用のステップ
従来の人事戦略は、採用した人材の長期的な管理が前提であり、新卒一括入社と連動した年次管理が一般的でした。転職市場の広がりなど労働市場が流動性を増しているなか、従来の方法では優秀な人材獲得は期待できません。
求められるのは、経営戦略と人材戦略の連動性です。従業員に対して新しいスキルを身に付けさせたり、従業員の能力や個別の事情などに配慮したりするなど、人材活用の最適化も必要となるでしょう。ここでは優秀人材採用へのステップを5つに分け紹介します。
ステップ1 自社の就業環境のポイント
若い優秀人材を採用・定着させるためには、自己実現を実感できる成長機会の創出や、ワーク・ライフ・バランスの実現などがポイントとなります。これらを実現することで、早期離職防止にもつながります
具体的には、次のような施策・対策が挙げられます。
- 育成制度やキャリアパスの明確化
- 職場におけるハラスメント撲滅
- メンタルヘルスケア対策
- 若い優秀人材に魅力的なミッション(企業や組織が果たすべき使命・目的)
- ビジョン(ミッションを達成するための中長期的目標と将来像)
- バリュー(社員が発揮すべき価値)の策定
- 給与制度・就業時間管理・評価手法の改善
- テレワーク環境整備など働き方改革の推進
- 経営戦略としての人材育成計画策定
ステップ2 求人情報制作時のポイント
優秀な人材採用を効果的に行うためには、?自社の求人情報を求職者が見て「応募したい」と思うようなものにすることがポイントです。
具体的には、次のような施策・対策が挙げられます。
- 前項で挙げたミッション・ビジョン・バリューについて、わかりやすい言葉でアピール
- 職種・業務を勘案し、募集条件を絞って明確化
- 競業社の賃金・就労時間・休暇・待遇などの採用条件をチェックして可能な限り好条件を提示
- 募集条件の表示にあたり、最賃法・職安法・男女均等法など遵守すべき法規に触れない表現に留意
ステップ3 採用媒体の選定時のポイント
優秀な人材確保を効果的に行うためには、採用したい若年人材層が利用していて効率的にアピールできるものは何か、応募者の反応が良いものは何かなどの観点から点から採用媒体を選定することがポイントです。
具体的な採用媒体とその特性は、次のようになります。
リファラル採用
自社の社員に友人や知人を紹介してもらう採用手法。採用のミスマッチを防ぎ、入社後の定着率向上が期待できます。
ソーシャルリクルーティング
SNSを活用した採用手法。日本の20代のSNS利用率はほぼ100%であり、優秀な若手人材に有効とされます。
会社説明会や転職フェア
求職希望者を対象にした合同の企業説明会。その場で面談できるので、選考スピードの短縮化を図ることができます。
就活・転職サイト
新卒者の就職活動や、転職者の求職に関する情報を集めたサイト。一定以上の人数を採用したい企業に向いているとされます。
インターンシップの活用
体験プログラムなどを用いて学生が企業で実際の仕事を経験できる制度。早期に優秀な人材と出会える、採用ミスマッチを減らせるなどのメリットがあります。
ステップ4 選考・面接・内定でのポイント
優秀な人材採用を成功させるために何が必要か、そのポイントを解説します。
事前準備
- 採用体制や予算計画を立てる
- 面接手法を決める
- 選考基準を明確化し、採用担当者で共有する
面接
- 応募者がリラックスして話せるようにフレンドリーなムードをつくる
- 採用ハラスメントにつながる圧迫面接は絶対に避ける
- 応募者の話に対し、アイコンタクトしながら相槌を打つなど興味を持っていることを伝える
- オンライン面接では、分かりやすく簡潔に質問し、映らない手元にも気を配る
内定
- 内定通知はメールや郵送で済ませず、1人ひとりに合わせて誠実に伝える
- 内定者には定期的な連絡や、直接会う機会を設ける
- 内定者研修を行い、同期や先輩社員との交流を持てる場として活用する
- オンラインでの内定者フォローには、個別面談やSNSツールでグループを作り情報共有や交流の場を設けるのも有効
ステップ5 ミスマッチを防ぐポイント
雇用のミスマッチとは、労働市場における需要量と供給量のバランス取れているにもかかわらず、求職者側と求人側との意向等が一致せず、失業が発生している状態を指します。
では、なぜミスマッチが起きるのでしょうか。
「雇用のミスマッチ等についての中小企業の意識調査」(商工中金・2012年1月)によれば、約62%の企業が「応募者が自社の希望する能力水準を満たさない」と答えています。一方、総務省の調査によると、「希望する種類・内容の仕事がない」と回答した割合が最も多いことがわかりました
採用側と求職側とでミスマッチの理由が異なる点も、ミスマッチを引き起こしている要因と考えられます。ミスマッチを防ぐには、次のような対策が有効です。
新卒者に対して
- 会社説明会など採用広報の段階で、企業理念や事業内容などを明示し、自社を理解してもらう
- 職場体験やインターンシップを活用し、自社の姿を知ってもらう
- 面接で応募者の性格や自社に求めることを把握する
中途採用者に対して
- 給与や待遇は、現在の年収や本人の希望額を確認しながら決める
- 本人が希望する業務や待遇が実現可能かを見極める
- 転職回数や転職理由を確認し、職場定着できるかを見極める
採用や優秀人材の定着に使えるおもな助成金
国が用意した、採用活動や人事のために使える助成金もありますので、積極的に活用してみてはいかがでしょうか。
1 人材開発支援助成金
職務に関する専門知識・技能習得のための職業訓練等を計画に沿って実施した場合、講師謝金や受講料等の訓練経費のほか、訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
人材開発支援助成金では、訓練終了後に賃金の引き上げなどによって生産性を向上させた事業主に対して、助成額の引き上げが行われます。具体的には、 訓練開始日が属する会計年度の前年度の生産性と、その3年度後の会計年度の生産性を比べて6%以上伸びていることが要件となります。
生産性の計算方法
助成額・助成率 ※( )内は中小企業以外の助成額・助成率
※生産性要件...上図の「生産性」の式で、訓練開始日から3年後の年度の数値が、訓練開始日の前年度より6%伸びた場合
※()内は中小企業以外の助成額・助成率出典:「厚生労働省人材開発支援助成金令和3年度版パンフレット(特定訓練コース、一般訓練コース)詳細版」をもとに作成
2 業務改善助成金特例コース
2021年7月16日から2021年12月31日までの間に、事業場内最低賃金(事業場で最も低い賃金)を30円以上引き上げた中小企業・小規模事業者が生産性向上に向けた取り組み行う場合に、その費用の一部を助成する制度です。
助成額 最大100万円
助成率 3/4
※対象経費の合計額×補助率3/4
3 キャリアアップ助成金(正社員化コース)
中小企業業主を対象に、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアアップを促進するため、有期雇用労働者などを正規雇用労労働者など異転換換または直接雇用した場合に助成する制度です。
支給対象となる中小企業事業主の要件として
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
などが求められています。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)では「多様な正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員および短時間正社員)」へ転換した場合には正規雇用労働へ転換したものとみなされます。派遣労働者を派遣先で正規雇用または多様な正社員として直接雇用した場合には、助成額が加算されます。
キャリアアップ助成金については、2022年4月以降、制度見直しに伴う内容変更を行うとされているので、厚生労働省のホームページで確認しましょう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
4 IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
中小企業や小規模事業者が、自社の課題やニーズに合ったITツールの導入を支援する補助金です。ITツールの導入ははたらきやすさにも直結しますし、コミュニケーションの円滑化なども期待できます。IT導入補助金には、次の3つのタイプがあります。
- 通常枠(A・B類型)
- 2021年度から導入された“ポストコロナ”に対応したビスネスモデルに転換に取り組む企業を支援する低感染リスク型ビジネス枠(C・D類型)
- 2022年度から導入されるデジタル化基盤導入類型
出所:IT導入補助金2022公式ホームページ掲載データより作成
必要なのはマッチングに配慮した新たな人材戦略
若年労働者数が減り人手不足が慢性化するなか、優秀人材の採用・確保は多くの企業にとって大きな課題です。特に若手の優秀人材が前職を辞める理由は主に職場の人間関係、賃金や労働時間・休暇などの待遇面、会社の将来への不安など。
会社に求めることも研修や風通しのよい職場、公正な評価など従来とは変わってきています。これに対応するには、ワークライフバランスや成長機会の実現・公正な評価制度など働きやすい環境へと職場改善を行い、自社の魅力のわかりやすい言語化や募集条件の明確化など、経営戦略に沿った人事戦略・採用戦略を練ることが重要です。
採用・優秀人材の確保に向けては、人材開発支援助成金や業務改善助成金、キャリアアップ助成金などの支援がありますので、有効活用しましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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