労働生産性とは、労働者がどの程度効率的に生産物・付加価値を産生できているのかを示す指標です。企業内部で生産効率を可視化するツールとして利用されているだけではなく、国家レベルでの生産性を明確にするものとしても利用されています。
そこで当記事では、日本における労働生産性について、産業別に諸外国と比較しながら解説します。また、日本の労働生産性が低い理由やコロナ禍による影響についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
1.日本の労働生産性
「労働生産性」とは、労働者1人あたりが生み出す成果、もしくは1時間あたりの労働力が生み出す成果を指標化したものです。労働生産性を見ることで、労働者がどのくらい効率的に成果を生み出せたかが分かります。
労働生産性は賃金の動向とも密接に関係します。労働によって生み出される付加価値は、労働者に支払う賃金の原資になるためです。労働生産性が高いほど労働によって生み出される付加価値額は大きくなり、賃金の原資も増えて賃上げがしやすくなります。
労働生産性の定義や計算方法については、下記のリンクページでより詳細に解説しています。
また、日本の労働生産性の現状については下記のリンクページで詳しく解説しているため、参考にしてください。
2.日本における産業別の労働生産性
日本では産業ごとに労働生産性が大きく異なっている点が特徴です。産業ごとの特性によって、産業間の労働生産性に違いが生じていると考えられます。
以下では、日本における各種産業の中でも主要な9つの産業について、他の主要先進6か国との国際比較を行いつつ、労働生産性のトレンドを解説します。
2-1.製造業
日本を含め、主要先進国における製造業の労働生産性は上昇傾向となっています。
日本 | 0.6% |
---|---|
アメリカ | 0.4% |
イギリス | 1.6% |
イタリア | 1.3% |
カナダ | 0.6% |
ドイツ | 1.3% |
フランス | 1.8% |
ただし、日本は製造業の労働生産性水準が低く、成長もしにくい傾向にあります。顕著な上昇傾向を見せる国も多い主要先進国と比較して、日本における製造業の労働生産性はゆるやかな右肩上がりである点が特徴です。
2-2.建設業
日本における建設業の労働生産性は、他の主要先進国と比較して顕著な上昇傾向にある点が特徴です。
●建設業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | 2.5% |
---|---|
アメリカ | -0.5% |
イギリス | 0.3% |
イタリア | -0.5% |
カナダ | -0.4% |
ドイツ | -0.2% |
フランス | -0.3% |
近年の日本では、東日本大震災復興事業や東京オリンピック・パラリンピックによって市場の建設需要に高まりが見られました。建設業の労働生産性はほとんどの国で停滞傾向にあるものの、近年の日本は回復傾向にあります。
2-3.卸小売業/飲食・宿泊業
卸小売業/飲食・宿泊業の労働生産性は、日本を含む主要先進国のほとんどで上昇しています。
●卸小売業/飲食・宿泊業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | 0.6% |
---|---|
アメリカ | 0.6% |
イギリス | 0.0% |
イタリア | 0.3% |
カナダ | 1.4% |
ドイツ | 1.1% |
フランス | 0.8% |
ただし、日本では2017~2019年に卸小売業/飲食・宿泊業の労働生産性に落ち込みが見られます。卸小売業/飲食・宿泊業は個人消費に売上が左右されやすく、労働生産性にも景気の影響が出やすい点が特徴です。
2-4.情報通信業
日本における情報通信業の労働生産性は、他の主要先進国と比較して停滞傾向にあります。
●情報通信業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | -0.4% |
---|---|
アメリカ | 5.3% |
イギリス | 6.3% |
イタリア | -0.2% |
カナダ | 0.1% |
ドイツ | 3.2% |
フランス | 2.5% |
日本における情報通信業の労働生産性が低い理由は、情報通信分野の労働者数が増加し続けて、付加価値の増加分を上回っているためです。情報通信業は付加価値の向上を図る必要性が大きい産業分野と言えます。
2-5.金融保険業
日本における金融保険業の労働生産性は、他の主要先進国と比較しても高い水準にあります。
●金融保険業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | 1.0% |
---|---|
アメリカ | 0.1% |
イギリス | -0.3% |
イタリア | 0.7% |
カナダ | 2.9% |
ドイツ | 10.6% |
フランス | 1.8% |
近年は金融にIT技術を活用するフィンテックの登場など、金融保険業は労働の効率化に著しい成長が見られる産業分野です。国によって金融政策や金融活動推進の取り組みに違いがあり、金融保険業の労働生産性にも影響していると考えられます。
2-6.不動産業
不動産業の労働生産性は、主要先進国のほとんどが横這いで推移しています。中でも日本は不動産業の労働生産性に落ち込みが見られる点が特徴です。
●不動産業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | -0.8% |
---|---|
アメリカ | -0.6% |
イギリス | -0.1% |
イタリア | -0.1% |
カナダ | 0.8% |
ドイツ | 0.6% |
フランス | 0.3% |
日本の不動産業界では、IT技術導入などのデジタル変革が遅れている傾向にあります。アナログな業務体制は付加価値の上昇が見込みにくく、労働生産性を低下させる要因の1つです。
2-7.教育・社会福祉サービス業
教育・社会福祉サービス業の労働生産性は、主要先進国のほとんどで停滞傾向にあります。日本における教育・社会福祉サービス業の労働生産性も低下している状況です。
●教育・社会福祉サービス業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | -0.4% |
---|---|
アメリカ | 0.0% |
イギリス | 0.9% |
イタリア | -1.0% |
カナダ | -0.1% |
ドイツ | -0.3% |
フランス | 0.5% |
教育・社会福祉サービス業では、基本的に政府による人員配置等の規制が存在します。規制に縛られて付加価値の上昇を図りにくい点が、労働生産性が停滞・低下している理由です。
2-8.娯楽・対個人サービス業
娯楽・対個人サービス業の労働生産性は、主要先進国のほとんどで停滞・低下しています。特に日本は娯楽・対個人サービス業の労働生産性が顕著に低下している状況です。
●娯楽・対個人サービス業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | -1.8% |
---|---|
アメリカ | 0.2% |
イギリス | -0.2% |
イタリア | -0.6% |
カナダ | 0.0% |
ドイツ | -0.2% |
フランス | 0.0% |
娯楽・対個人サービス業は、労働者の労働そのものが成果となることが多い産業です。労働効率の向上や付加価値の上昇が難しい点が、労働生産性の低さにつながっています。
2-9.農林水産業
日本における農林水産業の労働生産性は、他の主要先進国と比較して低い水準にあります。
●農林水産業の労働生産性平均上昇率(2010~2019年)
日本 | -1.1% |
---|---|
アメリカ | 1.5% |
イギリス | 2.9% |
イタリア | 0.4% |
カナダ | 4.0% |
ドイツ | 0.0% |
フランス | 0.5% |
日本は人口減少によって食料需要が頭打ちになっており、農林水産業は付加価値の上昇が見込みにくい状況です。生産者の高齢化や小規模事業者が多い点も、労働生産性低下につながる課題と言えます。
3.コロナ禍による労働生産性への影響
コロナ禍による労働生産性への影響は、各国で違いが見られます。
主要先進国の中ではアメリカはコロナ前と比較して労働生産性が5.6%向上していました。一方で、他の主要先進国ではコロナ禍によって労働生産性が低下しています。
●コロナ禍による労働生産性の変化(2021年4~6月期と2019年4~6月期との対比)
日本 | -2.8% |
---|---|
アメリカ | 5.6% |
イギリス | -2.5% |
イタリア | -0.7% |
ドイツ | -0.5% |
フランス | -4.8% |
日本の労働生産性は、コロナ禍による影響から回復しつつある状況です。しかし、回復の幅が他の主要先進国よりも少なく、停滞傾向にあると言えます。
4.日本の労働生産性が低い理由
日本の労働生産性が低い理由としては、主に下記の2点が挙げられます。
残業の恒常化による長時間労働
残業が恒常化している職場では、従業員は長時間労働を前提とした働き方となります。定時内に仕事を終わらせる意識を持てなくなり、時間あたりの労働生産性向上ができません。
集団主義的な労働環境(強すぎるチーム意識)
日本の企業は従業員同士が助け合って働く、集団主義的な労働環境が多い傾向です。自分の業務だけに集中できないため、労働生産性が低くなると考えられます。
日本の労働生産性が低い理由は、下記のリンクページでさらに詳細に解説しています。
まとめ
日本の労働生産性は、主要先進国の中では、低い傾向にあると言えます。労働生産性を向上させるためには、従業員が本来業務に集中できる環境を整備することが必要です。細々とした雑務や必要性の乏しい会議・打ち合わせの存在は、従業員の業務に対する集中力を損ないます。また、雑務や会議の多さが、長時間労働につながる可能性があります。
従業員が本来業務に集中できる環境を整備するためには、惰性的に行われる業務の必要性を厳しく精査し、従業員に不必要な負担を課さないように業務改善を図ることが大切です。従業員の業務内容をしっかりと分析し、業務から無駄を排除して、生産性の向上を図りましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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