企業が利益増大を目指すためには、労働生産性の向上が必要です。労働生産性を向上させると社員が効率よく成果を出せるようになり、企業の継続的な成長につながります。
働き方改革関連法案の施行により、労働生産性の向上に取り組む企業は増えています。
※働き方改革関連法案については以下の記事で解説しています。
しかし、労働生産性とは何か、どのように高めればよいか分からない方は多いのではないでしょうか。
当記事では労働生産性の意味や種類を説明し、労働生産性を向上させるメリットと高め方を紹介します。
目次
1.労働生産性とは
労働生産性とは、従業員1人あたりもしくは1時間あたりの労働投入量で、どの程度の成果を産出したかを示す指標です。
従業員1人あたり、もしくは1時間あたりに産出した成果の量が大きいほど、労働生産性は高くなります。労働生産性が高い数値を出していると、投入する資源に対してより多くの成果が得られるため、企業は利益増大が可能です。
労働生産性が高いときは、企業にとって望ましい生産活動ができている状態と言えます。
1-1.そもそも「生産性」とは
労働生産性の文字に含まれている「生産性」とは、そもそも何を意味するのでしょうか。公益財団法人日本生産性本部では、生産性の定義を下記の通りに紹介しています。
生産性の代表的な定義は「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」(ヨーロッパ生産性本部)というものです。
生産諸要素とは、商品やサービスを生産するために必要となる資源のことです。企業が投入する労働力・機械設備・土地・エネルギー・原材料などが生産諸要素に該当します。つまり生産性は、企業が投入するさまざまな資源を有効利用できているかどうかを示す指標です。
たとえば最新の機械を導入していても、現場の人員が操作に慣れていなければ製品の生産量は増えず、生産性が低くなります。反対に現場の人員が操作に習熟していれば生産量が増えて、生産性は高くなるでしょう。生産性を見ることで、投入した資源に対して生産の効率が高いか低いかを判断できます。
労働生産性で使われる「従業員」「労働時間」も、生産諸要素の一種です。労働にかかわる資源に重点を置く労働生産性は、労働のために投入した資源の効率を判断できます。
1-2.労働生産性の種類:物的労働生産性・付加価値労働生産性
生産性の測定方法は、何を成果として捉えるかの違いによって、物的生産性と付加価値生産性の2種類に分けられます。労働生産性の測定方法も、物的労働生産性と付加価値労働生産性の2種類がある点は同じです。
物的労働生産性とは、産出する成果を「生産個数」や「生産物の量」といった物的なものとして捉えた場合の労働生産性です。物的労働生産性では、従業員が商品・サービスをどの程度の効率で生産しているかを数値化できます。
一方、付加価値労働生産性は、産出する成果を「付加価値」として捉えた場合の労働生産性です。付加価値労働生産性では、従業員が付加価値をどの程度の効率で生み出しているかを数値化できます。
なお、付加価値とは、労働によって商品・サービスに付与された特別な価値のことです。たとえば仕入れた原材料からケーキを製造して販売した場合、売上から材料費・機材費・人件費などを差し引いて残った利益が付加価値となります。
2.事業規模・業種ごとの労働生産性
労働のために投入する資源の規模や生産量は業種によって異なり、労働生産性も業種ごとに差があります。
下図は、企業規模別・業種別に見た労働者一人当たりの付加価値額です。
※ここでいう大企業とは、資本金10億円以上、中堅企業は、資本金1億円以上10億円未満、中小企業は資本金1億円未満を指します。
全体的な傾向としては、業種にかかわらず、企業規模が大きくなるにつれて、労働生産性が高くなっていることがわかります。しかし、大企業になれば必ず、労働生産性が高いというわけではありません。
上図からわかるように、中小企業の上位10%は、大企業の中央値よりも、労働生産性が高くなっています。反対に、大企業の下位10%は、中小企業の中央値よりも低くなっています。
つまり、中小企業も努力次第では、大企業の中央値よりも高い労働生産性を生み出すことは可能ということなのです。
なお中小企業基盤整備機構では、中小企業の生産性向上を複数年にわたって継続的に支援する「中小企業生産性革命推進事業」を創設しています。中小企業生産性革命推進事業では、生産性向上のために専門家に相談したり、補助金や助成金も利用することができます。
3.労働生産性を向上させる5つのメリット
労働生産性を向上させる5つのメリットを紹介します。
(1)コストを削減できる
労働生産性を向上させると、従来よりも少ない資源で同等の成果を産出できます。従業員の労働時間や残業数を減らして、人件費などのコストを削減できる点がメリットです。
削減した労働人数や労働時間といったコストは、新しい領域や事業へ投入する資源として活用できます。コストを削減して必要な方面へ回すことは、企業が継続的な成長を目指す上で重要な考え方です。
(2)競争力を高められる
労働生産性の向上により商品・サービスを効率よく生み出せるようになると、企業としての競争力を高められる点もメリットです。他社が競合する商品を販売していても、自社に商品を効率的に製造できる体制があれば、付加価値の高い商品をより安い価格で提供できます。
また、国際競争力を高める点でも労働生産性の向上は重要です。近年はインターネットやECサイトの普及により、国内展開の企業にも国際競争力は求められています。
(3)人手不足の解消につながる
労働生産性の向上は人手不足の解消にもつながります。限られた従業員数であっても大きな成果を産出できるためです。
また、労働生産性の向上によって従業員の労働時間が短縮できると、テレワークや時短勤務といった柔軟な働き方の要望にも応えられます。従業員の離職を抑えて、柔軟な働き方を希望する入職者を採用できるようになり、人手不足の根本的な解決も図れます。
(4)ワーク・ライフ・バランスの改善につながる
労働生産性の向上は、従業員にとってもワーク・ライフ・バランスの改善につながるメリットがあります。従来よりも少ない労働時間で成果が出せるようになり、残業や休日出勤をするケースが減らせるためです。
ワーク・ライフ・バランスが取れている労働環境は働きやすく、従業員は心身ともに健康な状態で業務に集中できるようになります。ワーク・ライフ・バランスの改善が労働生産性のさらなる向上につながるケースもあるでしょう。
(5)行政による優遇措置を受けられるようになる
生産性向上に取り組んでいる企業は、経営力向上計画を申請・認定されることで行政による優遇措置を受けられるようになります。法人税軽減などの税制措置や、政策金融機関から借り入れる際の金利引き下げ措置など、いずれも企業経営を支援してくれる強力な優遇措置です。
また、厚生労働省が定める生産性向上の要件を満たすと、労働関係助成金の助成額もしくは助成率が割増になります。対象の助成金は人材確保等支援助成金やキャリアアップ助成金など幅広く、助成金を活用して人材確保・育成やさらなる生産性向上も図れます。
4.労働生産性の高め方・ポイント
成果を産出するまでの労働時間が長いと多くの人件費がかかり、生産性が低くなります。残業や休日出勤が多い職場では従業員のパフォーマンスが上がらず、時間あたりの労働生産性を高められません。
企業が労働生産性を高めるためには、労働時間の適正化・短縮化を推進することが重要です。労働時間の適正化・短縮化のためにはまず、労働時間の工数を分析し、どこに無駄があるか、業務の効率化ができないかといった業績につながりかつ自分達で実行可能な取組みにから始めていきましょう。
労働生産性を高め、残業や休日出勤を含めた長時間労働を是正されれば、従業員のモチベーション向上やストレス軽減を図れます。その結果従業員が業務に対して前向きになり、短い労働時間でも高い成果を出せるようになるでしょう。
また、労働生産性の向上は上記の効率化の他に、付加価値そのものを上げる方法もあります。付加価値の向上のは以下の記事で解説しています。
まとめ
労働生産性とは、従業員・労働時間という資源が、どの程度の効率で成果を産出しているかを示す指標です。労働生産性が高い状態では労働によって効率よく成果が得られ、企業が得られる利益は大きくなります。
労働生産性を向上させると、労働のコスト削減や企業の競争力向上、従業員のワーク・ライフ・バランス改善など多くのメリットを得ることが可能です。労働時間の適正化・短縮化のために、労働時間の工数を分析し、どこに無駄があるか、業務の効率化ができないかといった業績につながりかつ自分達で実行可能な取組みにから始めていきましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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