働き方改革や少子高齢化による人手不足を受けて業務効率化に関心を持ち「労働生産性向上を図り、業務改善を進めたい」と考える経営者は多くいます。しかし、労働生産性の定義や計算方法がよく分からないことが原因で、具体的な行動に移せない方もいるでしょう。
そこで当記事では、労働生産性の計算式・他社と比較する際のポイント・中小企業が労働生産性の向上を図るコツを紹介します。労働生産性を正しく計算し、業務改善につなげるためのノウハウを知りたい方は、ぜひご覧ください。
目次
1.労働生産性の定義と計算式
労働生産性とは企業の生産性を見直して、効率的な経営を実現するために参照する指標です。労働生産性を向上させると限定的な人的資源で多くの成果を生み出し、コスト削減を図れます。
労働生産性の「生産性」とは、以下の計算式で示される、投入した生産要素と産出物の比率です。
◆生産性の計算式
生産性=産出/投入
生産性の定義に従うと、労働生産性は「投入する労働1単位当たりの産出量・産出額」と表現できます。より簡単な表現を使用すると、労働生産性は「労働者1人もしくは1時間の労働でどれだけの成果を生み出したか」を示すものです。
労働生産性には、物的労働生産性・付加価値労働生産性の2種類があります。それぞれの意味と計算式は、以下の通りです。
1-1.物的労働生産性
物的労働生産性とは、労働1単位に対して生み出されるものの大きさ・重さ・個数などを示す指標です。物的労働生産性は、以下の式で計算します。
◆1人当たりの物的労働生産性
1人当たりの物的労働生産性=生産量/労働者数
◆1時間当たりの物的労働生産性
1時間当たりの物的労働生産性=生産量/労働者数×労働時間
労働者4人でチームを組み、2時間で16個の商品を生み出した場合における物的労働生産性の計算は、以下の通りです。
1人当たりの物的労働生産性=16個/4人=4個
1時間当たりの物的労働生産性=16個/4人×2時間=2個
物的労働生産性は主に、工場などの生産効率を計測する目的で使用されます。ものの大きさ・重さ・個数は価格のように物価変動・技術進歩の影響を受けないため、物的労働生産性を使用すると、純粋な生産効率の計測を行うことが可能です。
1-2.付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、労働1単位に対して生み出されるものの価格(付加価値額)を示す指標です。付加価値労働生産性は、以下の式で計算します。
◆1人当たりの付加価値労働生産性
1人当たりの付加価値労働生産性=付加価値額(※)/労働者数
◆1時間当たりの付加価値労働生産性
1時間当たりの付加価値労働生産性=付加価値額(※)/労働者数×労働時間
※付加価値額の算出方法は「2-1.付加価値額の計算方法」を参照してください。
労働者4人でチームを組み、2時間で8万円の付加価値を生み出した場合には、以下の計算が成り立ちます。
1人当たりの付加価値労働生産性=8万円/4人=2万円
1時間当たりの付加価値労働生産性=8万円/4人×2時間=1万円
労働によって生み出された付加価値額は、人件費・企業の利益・株主への配当などへ回されます。そのため、付加価値労働生産性は企業の利益増大を図ったり、株主への配当額を検討したりする際に参照される指標です。
2.労働生産性を計算する方法の違い
物的労働生産性と付加価値労働生産性を計算する際の分母はいずれも、労働者数もしくは労働者数×労働時間です。しかし、2種類の労働生産性では異なる分子を使用するため、導かれる指標の意味が変化します。
いずれの労働生産性を参照することが望ましいかは、把握したい内容次第です。たとえば「部下がどれほど効率的にものを産出しているか」を調査したい場合は、物的労働生産性を参照しましょう。「付加価値を生み出すために部下がどれほど効率的に動けているか」を調査したい場合は、付加価値労働生産性を参照します。
なお、国際社会において各国の労働生産性を比較する際に使用される指標は通常、GDP(国内総生産)との関連性が高い「付加価値労働生産性」です。各国の労働生産性を比較する際には多くの場合、GDPを付加価値額と考えて分子に置きます。
2-1.付加価値額の計算方法
付加価値労働生産性の分子に置く「付加価値額」の計算方法は、控除法・積上法(加算法)に分類できます。各方法の詳細と計算式は、以下の通りです。
・控除法
控除法とは、自社の売上高から外部購入費用を引き算し、付加価値額を計算する方法です。控除法は別名、中小企業庁方式とも呼ばれます。
◆控除法による付加価値額の計算式
付加価値額=売上高-外部購入費用
・積上法(加算法)
積上法(加算法)とは、ものを生み出す過程において産出された価値を積み上げ、最終的な付加価値額を計算する方法です。積上法は別名、日銀方式とも呼ばれます。
◆積上法による付加価値額の計算式
付加価値額=人件費+経常利益+賃借料+金融費用+租税公課
企業の労働生産性を調査する際にいずれを選択することも、誤りではありません。付加価値額の計算方法については以下記事で詳細に解説しているため、参考にしてください。
3.大企業・中小企業での労働生産性の違い
日本における労働生産性は、企業の規模や業界・業種により、非常に大きな差があります。自社の労働生産性を分析する際には、規模や業種別の傾向を理解しておくことが欠かせません。
ここでは、日本企業に見られる労働生産性の特徴や傾向を企業規模・業種別に解説します。
3-1.企業規模別の従業員一人当たりの労働生産性の推移
従業員1人当たりの労働生産性は通常、企業規模が大きいほど高くなります。以下は、2020年時点における企業規模別・労働生産性の中央値を比較した表です。
中小企業 (資本金1億円未満の企業) |
中堅企業 (資本金1億円〜10億円の企業) |
大企業 (資本金10億円以上の企業) |
---|---|---|
540万円 | 800万円 | 1,099万円 |
ただし、中小企業の上位10%に入る企業の労働生産性は1,367万円と、大企業の中央値を上回る水準です。そのため、労働生産性は「企業規模が大きいほど必ず高い」とまでは言い切れず、人手不足を感じる中小企業は現状をふまえた上で、戦略的な対策を検討する必要があります。
中小企業が労働生産性向上を図るためには上位企業の特徴を把握し、導入する対策のアイデアを得ましょう。以下は、労働生産性が高い中小企業によく見られる特徴を示しています。
- 設備投資、IT投資を積極的に行っている
- 従業員1人当たりの賃金が高い
- 国際的なビジネス展開に前向きである
設備投資によって不足している労働力を補えば、長期的な労働生産性向上につながる可能性があります。IT投資によって作業の一部を自動化すれば優秀な人材が重要度の高い業務に集中できる状態を整備でき、労働生産性の向上につなげることが可能です。
3-2.企業規模別・業種別の労働生産性
従業員1人当たりの労働生産性の中央値は、業種ごとに差があります。以下は、2020年時点における企業規模別・業種別の労働生産性の中央値を示す表です。
中小企業 | 中堅企業 | 大企業 | |
---|---|---|---|
建設業 | 675 | 950 | 1,373 |
製造業 | 520 | 731 | 970 |
情報通信業 | 563 | 857 | 1,242 |
運輸業、郵便業 | 520 | 735 | 920 |
卸売業 | 624 | 943 | 1,164 |
小売業 | 475 | 622 | 690 |
宿泊業、飲⾷サービス | 186 | 175 | 294 |
⽣活関連サービス業、娯楽業 | 332 | 355 | 368 |
いずれの業種においても大企業の労働生産性中央値が、中小企業を上回ります。中でも建設業・製造業・情報通信業・卸売業は、中小企業と大企業の差が大きい業種です。⽣活関連サービス業、娯楽業は大企業の労働生産性水準が低い業種に該当するため、企業規模による大きなかい離が見られません。
まとめ
労働生産性とは、企業の生産性を可視化して人的資源を有効に活用し、人手不足の悩みを解消するために役立つ指標です。労働生産性には「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」があります。物的労働生産性は、分母に「労働者数」もしくは「労働者数×労働時間」を置き、分子に「生産量」を置いて計算します。付加価値労働生産性は「付加価値額」を分子に置くことで、計算が可能です。
労働生産性は多くの場合、企業規模が大きいほど高くなります。ただし、中小企業の中にも高い労働生産性を実現している企業があるため、さまざまな工夫を講じて労働生産性を高めましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
生産性向上関連記事
この記事の著者