付加価値労働生産性は、企業活動において重要性が高い指標の1つです。しかし、詳しい内容を理解できていない人や計算方法を知らない人も少なくありません。付加価値労働生産性の定義や計算式について学ぶことで、自社の労働生産性分析に役立てられるというメリットがあります。
当記事では、付加価値労働生産性の定義や用語の意味、種類別の算出方法に加え、付加価値労働生産性の具体的な高め方についても詳しく解説します。自社の労働生産性向上を目指している人、付加価値労働生産性の分析方法を身に付けたい人は、ぜひ参考にしてください。
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目次
1.付加価値労働生産性とは
付加価値労働生産性とは労働生産性における考え方の1つであり、従業員がどの程度効率的に付加価値を生み出しているかを表す指標です。
付加価値労働生産性の考え方では、労働によって産出されるのは「付加価値」であると捉えています。付加価値は、GDPを企業単位に置き換えたものであると考えるとイメージしやすいです。
1-1.付加価値:企業が活動から生み出した価値
付加価値とは、商品やサービスの持つ価格面以外の魅力や類似品との違いなど、自社の生産活動によって生み出された価値を指します。他社で販売されている商品にはない付加価値を付けることで、価格競争に巻き込まれることなく売上を伸ばすことが可能です。
また、付加価値を数値にして表した指標を「付加価値額」と呼びます。付加価値額は、企業の売上高から材料費や人件費などの原価を差し引いた数値であり、粗利と近い意味を持ちます。
1-2.労働生産性:労働量に着目した生産性
生産性とは、商品やサービスの生産に必要となる機械や労働量、原料などの「生産要素」をいかに効果的に利用したかを表す指標です。
企業が提供している商品やサービスは、生産要素を「投入」することで「産出」されます。労働生産性は労働量の投入に着目した生産性の考え方であり、労働量1単位当たりの産出量・産出額を示します。
つまり、付加価値労働生産性とは「投入された労働量によってどれだけの付加価値を産出できたか」を表す指標です。
2.付加価値労働生産性の算出方法
付加価値労働生産性を算出するには、付加価値額を求める必要があります。付加価値労働生産性は、付加価値額を労働量で除して求めます。
付加価値労働生産性の計算式は、以下の2パターンです。
- 付加価値労働生産性(1人当たり)=付加価値額/労働者数
- 付加価値労働生産性(1時間当たり)=付加価値額/労働者数×労働時間
ここでは、付加価値額の算出方法について詳しく解説します。
2-1.控除法による付加価値額の算出方法
控除法とは、自社の売上高から他社の付加価値額を控除することで、自社の付加価値額を算出する方法です。控除法は「中小企業庁方式」とも呼ばれます。
計算式は、以下の通りです。
付加価値額=売上高−外部購入価値
外部購入価値はいわゆる経費にあたる部分で、他社から購入した付加価値を指します。具体的には、以下のようなものがあります。
- 材料費
- 購入部品費
- 外注加工費
- 運送費
- 水道光熱費
2-2.加算法による付加価値額の算出方法
加算法とは、商品やサービスの生産過程で発生した費用を足すことで付加価値額を算出する方法です。加算法は「積上法」「日銀方式」とも呼ばれます。
計算式は、以下の通りです。
付加価値額=人件費+経常利益+賃借料+金融費用+租税公課
それぞれの費用の詳しい内容について解説します。
人件費
企業活動には従業員による働きが不可欠であるという観点から、加算法では人件費を付加価値の1つとしています。従業員に直接支払う費用だけでなく、法定福利費なども対象です。
人件費の具体例は、以下の通りです。
- 給与
- 賞与
- 退職金
- 各種手当
- 法定福利費
- 福利厚生費
- 労務費
- 販売費
経常利益
企業が通常の業務によって得た利益を指します。本業で得た「営業利益」はもちろん、本業以外の不動産収入などで得た「営業外利益」も含まれます。
賃借料
企業活動を営むために借りている土地や建物、車、パソコンなどの賃料・リース料も、生産過程には欠かせない費用です。賃借料は、リース料という科目名で処理されるケースもあります。
金融費用
企業活動を続けるには、金融機関からの融資が必要となる場合も少なくありません。加算法では、資金調達にかかる費用も付加価値の1つとして計算します。
金融費用の具体例は、以下の通りです。
- 支払利息
- 割引手数料
- 社債利息
- 社債発行費償却
租税公課
企業が経営を続ける上で、税金や公的費用の支払いは欠かせません。そのため、租税公課についても、商品・サービスを生産する上で必要な費用として計算に含みます。
租税公課の具体例は、以下の通りです。
- 固定資産税
- 事業税
- 印紙税
- 登録免許税
- 公共サービス費用
3.付加価値労働生産性の高め方
付加価値労働生産性の高め方には、以下の3つの手段があります。
- 分子の付加価値額を増やし、同じ労働量でより多くの付加価値額を生み出す
- 分母の労働量を減らし、同じ付加価値額をより少ない労働量で生み出す
- 分子の付加価値額を増やし、分母の労働量も減らす
ここでは、付加価値労働生産性アップを目指して、付加価値額を増やしたり、労働量を減らしたりするための具体的な方法について解説します。
3-1.新商品を開発する
新商品や新サービスの研究開発は、既存商品や他社競合商品にはない新たな魅力・性能により、付加価値向上を目指せる手法の1つです。
ただし、新商品の開発には時間もコストも必要である上、顧客からの支持を得られず、開発が失敗に終わる可能性も考えられます。リスク回避のためには、開発前の市場調査やニーズ把握を丁寧に行うことが必要です。
3-2.労働時間の削減を図る
労働時間が長いとその分人件費が増えるため、労働生産性が低くなりやすいです。また、定時で帰宅しづらい環境によって不要な残業をしていると、業務時間の無駄が増えてしまいます。
労働時間の短縮には、定時退社日の設定がおすすめです。名ばかりの制度となってしまわないよう、管理者から帰宅を促す声かけをするのもよいでしょう。
また、夕方から夜にかけての在席が必要となる日には、出勤時間を後ろ倒しにするなどの工夫も必要となります。
3-3.ITシステムの導入を検討する
労働時間の削減には、業務の自動化も効果的です。ITシステム導入によって生産効率を上げれば、労働時間を短縮することが可能です。
ITシステムを導入する際には、業務の中のどの部分を自動化すべきかを十分に検討する必要があります。
まずは自動化によって効率を上げられそうな作業や特に時間のかかっている業務プロセスをピックアップして、次に適したITツールを選びましょう。多くの企業では、会計業務や人事業務などの基幹系システムの導入により、労働時間短縮を実現しています。
また、ただ業務の自動化を採用するだけでなく、IT導入を機に、組織の在り方や業務内容を改善することが重要です。業務効率化を目指してさまざまな取り組みを行うことで、労働生産性水準を上げられるでしょう。
まとめ
付加価値労働生産性とは、従業員がどの程度効率的に付加価値を生み出しているかを表す指標です。「付加価値」は、企業活動によって生み出された価格面以外の魅力を指します。また「労働生産性」とは、労働量の投入という観点に着目した生産性の考え方であり、労働量1単位当たりの産出量・産出額を表します。
付加価値労働生産性を算出する際には、付加価値額を求めることが必要です。「控除法」では売上から他社の付加価値額を控除するのに対し、「加算法」では商品の生産にかかった費用を合算することで付加価値額を計算します。
付加価値労働生産性を高めるには、新商品の開発や労働時間の削減などが効果的です。自社の経営課題を分析して、それぞれに合った方法で付加価値労働生産性の向上を目指しましょう。
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