中堅・中小企業の社長のための
経営支援・課題解決メディア

【保存版】請求漏れの時効は5年!時効の更新方法やうっかり忘れてしまった際の対応・再発防止策を解説

2023.05.29

Share

企業同士の取引において、お金のやり取りを正しく行うためには、商品・サービスの販売側による請求書の発行が必要です。請求書の発行を含む請求業務を行わなかった場合は「請求漏れ」が生じ、一定期間を超えると消滅時効となります。したがって、本来得られるはずだった利益を失うこととなってしまいます。

このような事態とならないためにも、請求漏れに気づいた際の対処法や、時効の更新方法を把握しておくとよいでしょう。

今回は、請求漏れが発覚した際の売掛金の時効や、請求漏れに気づいた際の対処法、さらに請求漏れとなっている債権の時効の更新方法を徹底解説します。また、請求漏れが生じる原因と再発防止策についても紹介しているため、請求漏れをしっかり防ぎたいという経営者・経理担当者の方はぜひ参考にしてください。

目次

1.請求漏れが発覚!売掛金に時効はある?

企業が取引を行った場合は、基本的に請求書発行が必須です。請求書とは、販売した商品・サービスの対価となる料金を、取引先企業に期日までに支払ってもらうために発行する文書を指します。商品・サービスの購入側である企業は、請求書が届いたのち、販売側に定められた料金を支払うという流れとなっています。

しかし、商品・サービスの販売側が請求書の発行を忘れてしまった場合は、請求漏れが発生します。そして、そのまま5年を過ぎると、請求漏れとなっている売掛金の債権は時効によって消滅することに注意が必要です。

【民法 第166条】

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

(引用:e-Gov法令検索「民法」/引用日2023/5/16)

請求漏れとなっていることに気づかずそのまま月日が流れ、時効が訪れたことによって知らぬ間に損失が生じていたというケースは意外と珍しくありません。

また、請求書を発行して取引先相手に渡していた場合においても、取引先相手が支払期限を過ぎて5年間放置すれば消滅時効となってしまいます。

2.請求漏れに気づいた際の対処法

取引先相手への請求漏れに気づいた際は、速やかに対処する必要があります。請求書の発行が漏れていた旨を伝え、取引先企業がスムーズに支払処理を進めてくれる場合は問題ないものの、場合によっては請求漏れに気づかず放置状態が続いたことが原因で、代金支払いを拒否される可能性もあります。

自社が請求書を発行し忘れた結果、取引先相手に支払いを拒絶されてしまった場合は、まず先方の担当者に早急に問い合わせ、再度支払期日などを挙げて相談しましょう。話し合いがまとまらず決裂してしまった場合は、書面で督促をします。

督促状を送ったにもかかわらず取引先相手が支払いや交渉に応じない場合は、訴訟・調停などの法的手段の利用を検討する必要があります。なお、法的手続きを進めるためには弁護士など専門機関への依頼が必要であり、費用も時間もかかることを留意しておきましょう。

3.請求漏れになっている債権の時効の更新方法

前述の通り、請求漏れとなっている売掛金の債権は、5年で時効が消滅します。未収金をきちんと回収するためには、消滅時効とならないよう管理することが最も重要です。

消滅時効を迎えないための方法には「時効の完成猶予」と「時効の更新」があります。

時効の完成猶予 請求漏れとなっている売掛債権における一定の完成猶予事由が生じた場合に、一定期間のみ時効の完成を先延ばしにできる制度
時効の更新 請求漏れとなっている売掛債権の時効において、一定の更新事由が生じた場合に、時効の進行を一度リセットできる制度

時効の更新を実施するための方法には「裁判上の請求を行う」「強制執行を行う」「債務を承認させる」の3つがあります。ここからは、それぞれの更新方法について詳しく紹介します。

3-1.裁判上の請求を行う

時効の更新を行うための1つの方法が、法的手続きを行うという方法です。裁判上の請求に関する法的手続きには、「訴訟の提起」「支払督促」「民事調停」などが挙げられます。

「売掛金が支払われない」という名目で訴訟を起こした場合、裁判で判決が確定した際や判決前に裁判上の和解が成立したときは、消滅時効が更新されます。

【民法 第147条】

次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

(引用:e-Gov法令検索「民法」/引用日2023/5/16)

しかし、折り合いがつかないまま裁判が終了した場合は、手続き終了時から6か月間は時効成立が猶予されるものの、時効の更新はされないことに注意が必要です。

3-2.強制執行を行う

差し押さえなどの強制執行を行うという方法も、時効の更新においては有効な手段です。強制執行の手続きを行った場合は、手続きの終了にともない売掛債権の時効が更新されます。

【民法 第148条】

次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

(引用:e-Gov法令検索「民法」/引用日2023/5/16)

しかし、強制執行などの申し立てが何らかの理由で取り下げられた場合、時効は更新されません。また、仮差し押さえや仮処分についても、手続き終了後6か月間は時効成立が猶予されるものの、時効更新とならないことに注意が必要です。

3-3.債務を承認させる

取引先相手に債務を承認させて時効を更新する方法も、1つの手段となります。時効期間内に取引先企業が「売掛金を支払う」と述べたり売掛金の一部が入金されたりした場合、債務(借金)を認めたこととなり、その時点で時効が更新されます。

【民法 第152条】

時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。

(引用:e-Gov法令検索「民法」/引用日2023/5/16)

裁判上の請求や強制執行と比較して、取引先相手との関係悪化リスクも少なく、ケースによっては今後もよい付き合いを続けられる方法です。しかし、口頭のみの承認であった場合は「言った」「言わない」の水掛け論に発展するおそれがあるため、できる限り書面を作成・確認して双方のサインを明記しておかなければなりません。

4.請求漏れが生じる原因と再発防止策

請求漏れや、請求漏れによる取引先相手とのトラブル・関係性悪化を防ぐためには、あらかじめ請求漏れが生じる原因を把握しておくことが大切です。

【請求漏れが生じる原因】

(1)作成することを忘れていた

請求漏れのよくある原因が、単なる「作成漏れ」です。請求業務を人的に対応しているケースでは、社内の通達ミスをはじめとしたあらゆる原因で作成が漏れる可能性が高いと言えるでしょう。

(2)ポストに投函することを忘れていた

「請求書の作成・発行は済んでいたはずが、ポストに投函するのをうっかり失念していた」というケースもよくある原因です。請求業務が属人化している場合や、郵送処理の業務に追われている場合に起こりやすいと言えるでしょう。

(3)メールに添付し忘れていた

請求書作成ソフトなどを用いて請求書を電子化すれば、投函漏れによる請求漏れは防げるものの、メールで請求書を送信する場合は送付漏れ・添付漏れが生じる可能性もあります。添付漏れの場合は取引先相手から指摘を受けて気づけるケースも多々ありますが、漏れが続くと信用問題に影響を及ぼすことにも注意が必要です。

 

請求漏れの発生・再発を防ぐためには、請求書に固有番号のナンバリングを割り当てたり、請求業務のチェックリストを作成したりすることが有効です。請求書作成ツールをうまく活用することも、請求漏れ対策につながるでしょう。

 

また、このような請求漏れは基本的にヒューマンエラーとなります。請求書の作成は、企業の経理担当者が実施することが一般的です。会計・経理は、企業のインフラとして機能する非常に重要な存在であるため、部門内の属人化を解消したり、担当者の質を高めたりすることも大切です。

会計は会社のインフラ

会計は会社のインフラ

続きを読む >

まとめ

事業者同士が取引を行った場合は、基本的に請求書の発行が必須です。万が一請求書の発行や送信を忘れてしまった場合は「請求漏れ」が生じ、債務者が代金を支払わずそのまま5年を過ぎると売掛債権は時効によって消滅します。そのため、商品・サービスの販売側は、本来得られたはずの利益を失うこととなってしまいます。

債権回収を目指すためには、消滅時効を迎える前に裁判上の請求を行ったり、強制執行を行ったり、取引先相手に債務を承認させたりする必要があります。いずれの方法においても、トラブルに発展する可能性があるため、なるべく請求忘れが起こらないよう注意しなければなりません。

請求漏れは、請求書へのナンバリングの割り当て・請求業務のチェックリスト作成・経理体制の強化など、さまざまな方法によって防ぐことが可能です。ここまでの内容を参考に、ぜひ請求漏れへの対策を講じてみてはいかがでしょうか。

(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)

Share

法律関連記事

  • 詳細を見る
    電子帳簿保存法

    実はシンプル!電子帳簿保存法とは?

  • 詳細を見る
    税法改正

    『令和6年度 税制改正大綱』から紐解く実務のポイント

  • 詳細を見る
    【保存版】請求漏れの時効は5年!時効の更新方法やうっかり忘れてしまった際の対応・再発防止策を解説

    【保存版】請求漏れの時効は5年!時効の更新方法やうっかり忘れてしまった際の対応・再発防止策を解説

  • 詳細を見る
    『令和5年度税制改正大綱』から読み解く資産税改正

    『令和5年度 税制改正大綱』から読み解く資産税改正

  • 詳細を見る
    周知徹底の要~目的と手段~

    周知徹底の要~目的と手段~

  • 詳細を見る
    遺言書の『付言事項』のススメ

    遺言書の『付言事項』のススメ

  • 詳細を見る
    FIREとは?70歳定年時代の働き方を考える

    FIREとは?70歳定年時代の働き方を考える

  • 詳細を見る
    成人年齢引き下げ

    「18歳から大人」成年年齢引下げでどう変わる?

  • 詳細を見る
    遺留分に関する民法の特例

    遺留分に関する民法の特例

  • 詳細を見る
    債権法の改正について

    債権法の改正について

この記事の著者

NBCPlusオンライン編集部

「NBCPlusオンライン」は「NBCグループ」が運営する、中堅・中小企業の社長のための経営支援・課題解決メディアです。