皆様は「KKD(経験・勘・度胸)」を軸にしたOFF-JTを行われているかと思いますが、より効果的な人財育成を行うために、ある科学的な手法が注目されています。それがID(インストラクショナルデザイン)です。
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KKD(経験・勘・度胸)を軸にしたOFF-JTの問題点
弊社創業者の野呂が 常日頃から言っている「人を育てる」ということ。
教育者の森信三氏も 『教育とは流れる水の上に文字を書くような儚いものだ。 だが、それを岩壁に刻み込むような 真剣さで取り組まなくてはいけない。』と 言っているほどパワーが必要です。
御社でもOJTやOFF‐JTなど さまざまな取り組みを行っているかと思います。 弊社でもOJTを中心に、 階層やレベル・経験年数などに応じてOFF‐JTを行い、 育成に取り組んでいます。
OFF‐JTでは、研修などを通じて育成を行うのですが、 経営者や人事担当者から次のような相談をよく受けます。
「企業内研修、いったい何をどうすればいいのわからない。」
「研修をどのように組み立てればいいのかがわからない。」
「経験豊富な管理者や責任者が 経験をもとに講師をしているがそれでいいのか?」
御社でも企業内OFF‐JTにおいて、 経験・実績のある方に話をしていただくことが 多いのではないでしょうか?
いわゆる「KKD(経験・勘・度胸)」を 軸にしたOFF‐JTですが、 近年、より効果的な人財育成を行うために、 ある科学的な手法が注目されています。 それが『インストラクショナルデザイン(以降、ID)』です。
インストラクショナルデザイン(ID)とは?
日本におけるIDの第一人者である熊本大学の鈴木克明先生は、IDについてこのように定義しています。
『インストラクショナルデザインとは、研修の効果と効率と魅力を高めるためのシステム的なアプローチに関する方法論であり、研修が受講者と所属組織のニーズを満たすことを目指したものである。』
IDの基盤は「学習理論(心理学)」「コミュニケーション学」「情報学」「メディア技術」という極めて科学的なものであり、IDはそれらを統合した理論・モデルです。
IDのルーツは、アメリカの兵士を教育するための軍事的研究にあり、そこから教育・ビジネスの世界へ導入され、研修の効果・効率・魅力を高める方法論として確立していきました。ID理論に則った研修では、講師のクオリティに頼らない学習成果の担保が可能となります。
ADDIE
IDの最も基本的なプロセスモデルである『ADDIEモデル』に沿って、具体的な研修設計が必要です。ADDIEとは、次の5つの単語の頭文字をとった略語です。
- Analyze「分析」
- Design「設計」
- Develop「開発」
- Implement「実装」
- Evaluate「評価」
Analyze「分析」
まず、研修の必要性(ニーズ)を考え分析します。実際この部分を安易に考えてしまうケースが多いのではないでしょうか? やる側の都合を押しつけてしまい、受講する側のニーズとかけ離れてしまう……。
そもそも、何のために・誰に・何を教えるのか? そして、それは本当に研修で教える必要があるのか? 現状を分析して明らかにします。
研修の必要性を確認できたら「何をどこまで教えるのか」という学習の目標を決めて「目標をクリアしたことを何で証明するのか?」などの評価基準を決めます。
Design「設計」
Analyze「分析」で決めた学習の目標を達成するために、何を・どこまで・どれくらいの時間をかけて、どのような方法(手段)を使って教えるのか? を検討し、研修の設計図を描きます。
そのためにはどのような研修コンテンツが必要で、どのような例話や練習問題を組み込むのかなどを考えます。
Develop「開発」
Design「設計」で設計した通りに研修を作っていきます。中堅企業や大企業では担当部署が開発していくケースが多いですが、中小企業であれば、部門・部署を横断したプロジェクトチームを発足し、開発していく方が良いでしょう。
教え方のスクリプトや簡易マニュアルなどをあわせて作成しておくと、標準化が可能になります。
Implement「実装」
Develop「開発」で作成した研修を実施します。マニュアルなどに沿って研修を進めると、研修の目的や学習の目標、教え方(手法)や練習問題の分量などを標準化することが可能です。
Evaluate「評価」
この部分が非常に重要です。研修の目的に沿って、設計・開発した研修を実施し、その結果を評価します。
受講者は学習の目標に到達できたか? スケジュールに無理はなかったか? コンテンツ・例話や練習問題、教え方は適切だったか? などを評価し、もし課題が見つかった場合には、再びAnalyze「分析」して改善を図ります。
ADDIE の回し方
このようにPDCAサイクル同様、A→D→D→I→E→Aと繰り返します。研修後もこのサイクルをしっかりまわすことで「効果」「効率」「魅力」を高められ、より良い研修としていくことができます。
KDD(経験・勘・度胸)といった諸先輩の実績・経験談ももちろん重要ですが、そればかりに頼りすぎず、IDの考え方も取り入れ「効果」「効率」「魅力」を発揮できる研修を科学的に設計すること。そうして人財を育成しつづけ、環境変化に適応する企業づくりをしていくことが求められる時代になっています。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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