企業は、利益率の向上や経営状態悪化の回避など、さまざまな理由から客観的に経営状態を診断する必要があります。経営状態を診断する手法には財務分析があり、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を分析することで、企業の安全性や収益性などを評価します。
財務分析で得られた結果は、投資家にとって成長力のある企業であるかの判断に役立つ資料となります。一方で、経営者にとっても財務分析は重要性が高く、企業経営における財務管理の問題点を見つけ出して、改善につなげることが可能です。
この記事では、財務分析手法の一種である「安全性分析」について、詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
4期分の数値を整理し、推移を分析することで、財務と損益の傾向と課題、現状をさらに向上させるために効果的な改善策を明確化します。
目次
1.財務諸表の安全性分析とは?
財務諸表の安全性分析とは、財務分析の手法の一つです。財務諸表の負債あるいは資本の構成が安定しているかといった情報を分析対象とすることによって、財務的な健全性を持ち、継続的な経営ができる状態であるのかを評価します。財務的に安定していれば倒産の危険性が低くなるため、安全性分析を行うことで、企業にどの程度の倒産リスクがあるのかを評価することが可能です。
財務的に安定していない企業は、資金調達力が低下することによって資金繰りが悪化し、買掛金や支払手形などの返済が困難となる可能性があります。また、損益計算書上は利益を上げていても倒産に陥る可能性があり、利益を上げている状態での倒産を「黒字倒産」と呼びます。黒字倒産を防ぐためには、財務的な健全性を評価し、適切な対策を講じなければなりません。
財務分析については、下記のページで詳しく説明しているため、ぜひ参考にしてください。
2.安全性分析に関する6つの指標
安全性分析に用いる指標には、いくつかの種類がありますが、代表的な指標は次の6つです。
- 流動比率
- 当座比率
- 固定比率・固定長期適合率
- 株主資本比率
- 自己資本比率
- インスタント・カバレッジ・レシオ
6つの指標それぞれで、明らかにできる内容は異なります。解明できる具体的な内容は異なるものの「短期的な安全性を明らかにする指標」と「長期的な安全性を明らかにする指標」の2つに分類することができます。ただし、なかには長期・短期の安全性に当てはまらない指標もあるため注意してください。
なお「短期的な安全性」とは、企業の支払能力が高いことを意味します。一方で「長期的な安定性」は、財務構造の安定度を意味するものです。
2-1.流動比率
企業の資産には、常に変動する流動性の高いものがあります。資産の中で1年以内に現金化の可能性がある資産を流動資産と呼び、1年以内に支払期限が到来する負債を流動負債と呼びます。流動比率は、流動負債に対する流動資産の割合であり、計算式は次の通りです。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
流動比率とは、短期的な支払能力を表す指標で、短期的な安全性に分類されます。また、得られた比率は100%以上であることが望ましいです。仮に100%を下回るようであれば、現金化の可能性がある資金よりも1年以内に支払期限が到来する負債のほうが多いことになってしまい、支払不能に陥る可能性があります。
2-2.当座比率
当座比率も流動比率と同様に短期的な支払能力を表す指標で、短期的な安全性を計測する指標に分類されます。流動比率に似た指標ですが、流動資産の中でも、とりわけ流動性の高い預貯金や売掛金、有価証券など現金化が容易な当座資産のみを計算に用いることに特徴があります。
当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
流動資産には、商品在庫である棚卸資産が含まれますが、棚卸資産を現金化するには売却が必要であるため、債務の返済に即時対応できるわけではありません。そのため、棚卸資産を除いて計算した当座比率のほうが、流動比率に比べて短期間での支払能力をより正確に反映している指標になっています。
2-3.固定比率・固定長期適合率
企業の資産には、流動資産の他に土地や建物、機械装置など企業が長期間にわたって使用する固定資産があります。流動資産である商品在庫も固定資産も企業にとっての資産であることに違いはありません。しかし、商品在庫は売却によって現金化できるのに対して、固定資産の現金化は、通常の営業活動とは異なる範疇にあります。
長期的な投資である設備投資は、短期的には回収できないため、できる限り返済が不要な自己資産を調達元とするのが理想的です。そのための指標となるのが、固定比率と固定長期適合率となります。
固定比率とは、自己資本に対する固定資産の割合を示す指標です。長期的な安全性を評価する指標に分類され、次の計算方法で求められます。
固定比率(%)=固定資産÷自己資本(純資産)×100
固定長期適合率は、自己資本と固定負債の合計額に対する固定資産の割合を表す指標で、計算式は次の通りです。
固定長期適合率(%)=固定資産÷{自己資本(純資産)+固定負債}×100
固定比率と同様に長期的な安全性を評価する指標に分類されます。固定資産は自己資本でなくとも、長期的な負債によってもカバーされていればよいという考え方から用いられる指標です。
2-4.株主資本比率
株主資本比率とは、総資産に対する株主資本の比率を表す指標で、長期的な安全性に分類されます。貸借対照表を用いることにより、数値を求めることができ、計算式は次の通りです。
株主資本比率(%)=株主資本÷総資産×100
貸借対照表の中で、流動資産・固定資産・繰延資産を合計した額が総資産です。一方、株主資本は純資産の部の資本金・資本剰余金・利益剰余金の合計額から自己株式を控除した額となります。株主資本は、株主が保有する資産であり、第三者に返済する必要がない資産です。そのため、株主資本比率が高い企業は、返済不要の資本を活用していると判断され、安全性が高いと評価されることになります。
2-5.自己資本比率
株主資本を含めた返済の必要のない資本を自己資本と呼び、返済の必要のある負債を他人資本と呼びます。また、自己資本と他人資本の合計が総資本となります。自己資本比率とは、総資本に対する新株予約権を除く純資産の比率を示す指標で、長期的な安全性を評価する指標に分類されるものです。
自己資本比率(%)=(純資産-新株予約権)÷総資本×100
自己資本比率が高い企業は、総資本のうち返済する必要のある負債が少なく、支払わなければならない利息も少なく済むため、財務状態の安定性が高いと評価されます。また、新株予約権は、新たに株式を購入できる権利で、現在の企業の所有者である株主の資産ではないことから、安全性を評価する上で純資産から控除する必要があります。
2-6.インスタント・カバレッジ・レシオ
インスタント・カバレッジ・レシオは、貸借対照表上から判断される他の指標と異なり、損益計算書から判断されます。短期・長期という観点ではなく、利息の支払能力を表す指標であることに特徴があり、計算式は次の通りです。
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息
営業利益や受取利息、受取配当金など企業が営業活動から得ている利益の額で、企業が支払う必要のある利息をどれだけ賄えるかを判断します。主に金融機関が安全性分析を行う際に用いられる指標です。また、インタレスト・カバレッジ・レシオは、利息を支払うための利益を確保できているかを評価しているため、最低でも1.0を下回らないようにする必要があります。
まとめ
企業の財務状態を健全に保ち、投資家にとって魅力的な企業となることは、企業の長期的な成長を考える上で大切なことです。この記事では、代表的な安全性分析の指標6つについて紹介しましたが、いずれの指標も一つの分析データだけでは完全に企業の倒産リスクを評価することはできません。
複数の指標を組み合わせることで、企業の実態を解明することができます。企業の倒産リスクを評価し、適切な改善措置を講じるために、企業の経営者は安全性分析についての理解を深めましょう。
- 労働分配率をはじめとした自社の生産性と、生産性向上の施策を確認したい
- 銀行や顧問税理士以外の新たな視点で、実務に活かせる分析指標がほしい
- 資金を圧迫している要因や、資金の増やし方を知りたい
- 融資や金利を左右する、金融機関からの格付評価が知りたい
- 決算書の見方を後継者や幹部に勉強させ、計数から考える人財に育てたい
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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