経常運転資金とは、企業経営を安定的に行うために必要となる運転資金の一種です。一般的に「運転資金」といえば、経常運転資金を指します。ただし、増加運転資金や減少運転資金などは、経常運転資金とは異なる種類の運転資金です。運転資金について理解を深めるためには、これらを区別できるようになる必要があります。
この記事では、経常運転資金の概要や基本的な計算方法について、詳しく解説します。また、経常運転資金を確保する方法について取り上げるため、ぜひ参考にしてください。
目次
1.経常運転資金とは?
経常運転資金とは、企業を安定して運営するために必要な資金の一種のことです。運転資金にはいくつかの種類がありますが、通常は「運転資金」というと、経常運転資金を指します。
経常運転資金は変動費と固定費に分かれ、一般的な内訳は仕入れ費用や人件費、オフィスの家賃などです。
1-1.運転資金の種類
運転資金には、経常運転資金以外にもいくつかの種類があります。主な種類と、それぞれの特徴は以下の通りです。
(1)増加運転資金
事業拡大や売上増加に伴い必要となった費用を賄う資金のことです。事業を拡大したり売上が増えたりすれば、それだけ仕入れ資金や人件費がかかります。日本の商習慣では売上が上がってもすぐに入金はされないため、つなぎ資金として増加運転資金が必要です。
(2)減少運転資金
事業縮小や売上減少に伴い発生する資金のことです。売上が下がっても、それまでに仕入れた材料費や人件費などは払わなければなりません。事業所や店舗を閉鎖する場合も、費用がかかります。このような費用を補うための資金が減少運転資金です。
(3)季節性運転資金
特定の時期のみ必要になる資金のことです。たとえば、クリスマス用品やお正月用品などは、特定の季節に仕入れの費用が発生します。従業員に支払う賞与資金も、特定の時期に必要です。季節要因が絡み発生する資金を、季節性運転資金と言います。
2.経常運転資金の計算方法
健全な事業運営のため、経営者は経常運転資金の必要額を正確に把握することが欠かせません。経常運転資金は、以下の計算式で算出できます。
経常運転資金=売掛債権+棚卸資産-買掛債務
業界や業種、事業形態などによって異なるものの、一般に経常運転資金は3~6か月分を確保することが望ましいとされています。
事業では、たとえ売上が順調であっても入金は後になることが多く、資金ショートが起きて仕入れ代金や必要経費の支払いができなくなることがあります。資金不足に陥り、しかも融資を受けられないのであれば、売上が順調でも黒字倒産を招きかねません。
仮に、3~6か月分の運転資金があれば、売上の入金時期が遅くなっても払える可能性が高いでしょう。以下では、上記の計算式で使われている用語の特徴や違いについて解説します。
2-1.売掛債権
売掛債権とは、商取引における売掛金や受取手形のことです。売掛金とは、代金後払いで行う企業間の取引において売り手側が持つ、後で費用を回収する権利を指します。日本のビジネスでは、月単位など一定期間の取引分をまとめて後で支払う方式が一般的です。これは、企業間で取引をするたびに支払いをすると、処理が煩雑になるためです。
受取手形は、企業間で取引した際に、買い手が振り出す商業手形を指します。受取手形に記載された期日になれば、売り手側は金融機関を通じて換金できます。
売掛金と受取手形は、どちらも「商品やサービスの代価として金銭を受け取る権利」です。いずれも債権ですが、手続きの際に金融機関を経由する必要があるかどうかの点が異なります。
2-2.棚卸資産
棚卸資産とは、社内で保有している在庫のことです。ただし、業界によって該当するものは異なります。たとえば、小売業では売れていない商品が在庫です。
製造業では、完成した製品のほか、原材料や仕掛品(製造途中の未完成品)なども該当します。不動産業であれば、棚卸資産となるのは販売予定で保有している土地や建物などです。売れれば利益になるため、在庫は会計上資産として扱います。
2-3.買掛債務
買掛債務とは、商取引における買掛金や支払手形を指します。買掛金は、後払いで行った取引において買い手が負う、後で代金を支払う義務のことです。
支払手形は、取引において後に設定した期日に支払うことを約束して振り出した手形を指します。支払手形は買い手から見た名称であり、売り手から見れば受取手形です。
買掛金も支払手形も、代金を支払うまでは買い手側の企業は先方から資金を借り入れているのと同じ状態です。そのため、どちらも債務となります。
3.経常運転資金の調達方法4選
経常運転資金の不足が常態化してしまうと、安定的な企業経営が困難になってしまうでしょう。そのため、運転資金不足が見込まれる場合は、速やかに資金調達の策を講じる必要があります。ここでは、主な経常運転資金の調達方法を紹介します。
3-1.銀行融資
一般的な資金繰りの方法は、銀行から融資を受けることです。銀行が直接企業に融資することを「プロパー融資」と言います。
もし、融資した企業が倒産して返済できなくなった場合、銀行は損失を免れません。そのため、銀行は企業に決算書などさまざまな資料の提出を求め、財務状況や業績を厳しく審査します。融資するかどうかを厳しく判断し、実施する場合は融資額や金利、貸付期間などを決定します。
ほかの資金調達方法に比べ、融資審査をクリアするためのハードルは高めです。また、融資が受けられる場合でも時間がかかる傾向があります。業績が順調で事業を拡大するための費用が必要など、資金使途が前向きな場合に検討することがおすすめです。
3-2.制度融資
制度融資は、自治体と金融機関、信用保証協会が連携して実施する融資のことです。金融機関が窓口となり、自治体は信用保証料を補助するなど企業負担を軽減します。信用保証協会は信用保証を行います。
中小企業や小規模事業者の支援を目的として設立された制度であり、金利が低く長期間の借入が可能です。資金融資の審査のハードルも、銀行ほど高くないとされます。
自治体・金融機関・信用保証協会の三者が関わるため、手続きに時間がかかる点は注意が必要です。融資を申し込んでから実行されるまでに、3か月程度は見ておくとよいでしょう。
3-3.ファクタリング
ファクタリングは、企業が保有する売掛債権を売却して資金を得る方法です。審査の早い点が特徴で、申請してから1日程度で資金化されることもあり、早急な資金確保が可能です。
金融機関からの融資のように利子が発生せず、負債が増えません。ただし、一般に手数料は割高な傾向にあり、受け取れる金額が大きく減る可能性があるため、注意しましょう。
なお、取引先との契約で債権譲渡が禁止されている場合は、ファクタリングは利用できません。ファクタリングを利用する前に、必ず契約書などを確認しましょう。
3-4.補助金・助成金
事業の内容や企業の状況によっては、国や自治体から補助金や助成金が受けられるケースがあります。補助金・助成金の内容・条件は、実施している機関によって異なります。そのため、利用したい補助金・助成金がある場合は、実施している機関に問い合わせて確認するとよいでしょう。
国や自治体の補助金・助成金は、基本的に返済する必要のない点が大きなメリットです。ただし、審査期間が数か月と長くなる傾向があるため、注意しましょう。
まとめ
十分な経常運転資金を確保することは、安定的な企業経営を実現するために欠かせません。経常運転資金は、売掛債権と棚卸資産を足して、そこから買掛債務を引いたものです。通常、3〜6か月分の経常運転資金を用意しておく必要があります。
経常運転資金を確保する方法としては、銀行などからの融資が一般的です。ファクタリングや補助金・助成金の活用も、よく知られています。企業経営に必要な資金の調達について不安や疑問を感じている場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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