企業経営者は、企業の成長に向けて動くため、あるいは今後の見通しを分析・把握するために、定期的に財務諸表を用いて財務状態を分析しなければなりません。しかし、財務諸表の分析結果は誰かに提出しなければならないものではなく、決まったフォーマットがないため「誰が見ても分かりやすいレポート」を自身で考えて作成する必要があります。
財務分析のレポートを決めていれば、自社の財務状態の把握のほか、他社の経営状態を確認・比較することも容易となるでしょう。当記事では、財務諸表の分析レポートの概要や、分析対象となる財務諸表、財務諸表の分析方法、分析レポートの書き方を紹介します。
4期分の数値を整理し、推移を分析することで、財務と損益の傾向と課題、現状をさらに向上させるために効果的な改善策を明確化します。
目次
1.財務諸表の分析レポートとは
そもそも「財務諸表分析」とは、主に投資家・債権者・経営者などの利害関係者が、決算書とも呼ばれる財務諸表の分析・比較・解釈を行い、企業の経営成績、経営状態・財務状況、問題点を明らかにすることです。そして、財務諸表の分析レポートとは、「実施した財務諸表の分析をレポートとしてまとめたもの」を指します。
財務諸表を実施する目的はステークホルダーによって異なるものの、経営者であれば「投資先・取引先の企業の経営状態を明確にすることを目的に、財務諸表を用いて分析するケースが多いです。
例えば、他社と新たに取引を始めるとき、経営分析を行って財務状況が決してよくないと判断できた際は「掛取引や手形取引はリスクがあるかもしれないから、できるだけ現金取引にしよう」「債権に担保の設定を求めよう」など、適切な経営判断に役立てられます。
また、時には自社の財務状況を客観的に分析・判断するために、企業経営者が自社の財務諸表を用いて分析レポートを作成するケースもあります。業種や企業規模を問わず行われる財務活動ですが、基本的に財務諸表をしっかり作成している中小企業以上の企業が作成します。なお、自社の分析は「内部分析」、他社の分析は「外部分析」と言います。
2.分析対象となる財務諸表
財務諸表はいくつかの種類で成り立っており、特に「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の財務三表は重要とされています。そして財務分析においては、「貸借対照表」「損益計算書」の2つが重要です。
- 賃借対照表
賃借対照表とは、「バランスシート(B/S)」とも呼ばれる、決算日における企業の資産・負債・純資産を示す書類のことです。会計年度終了日の「企業がもつプラスとマイナスの財産」が分かります。 - 損益計算書
損益計算書とは、「Profit and Loss Statement(P/L)」とも呼ばれる、1年間の会計年度期間における企業の収益・コスト・利益を示す書類のことです。年間において「企業がどこにコストを使い、どのようにして売上や利益を伸ばしたか」が分かります。
3.財務諸表の分析方法
財務諸表の分析方法には、主に「実数分析」と「比率分析」の2種類があります。
●実数分析
実数分析とは、財務諸表に記載されている実際の数値や金額をそのまま用いて分析する方法のことです。「量」を測ることに適した分析方法であり、一定期間でどれほど売上を伸ばしたか・一定期間でどれほどコストを抑えられたかなどを直感的に判断するためには、実数分析を用いることが適切と言えるでしょう。
【実数分析が適切な分析内容】
- 売上増減分析
- 原価差異分析
- キャッシュフロー分析
●比率分析
比率分析とは、財務諸表に記載されている数値や金額のうち、2つの値を割合で表したり、比率を求めたりして分析する方法のことです。「質」を測ることに適した分析方法であり、利益率や効率性、有効性を判断するためには比率分析を用いることが適切と言えます。
【比率分析が適切な分析内容】
- 売上高総利益率分析
- 労働生産性分析
- 経常利益伸び率分析
実数分析・比率分析は、いずれも財務分析を実施するうえで欠かせない指標ですが、実数分析だけでは企業の質は把握できません。例えば、売上高が50万円のA社と、売上高が20万円のB社がいたとします。質を測ることに特化した実数分析では、当然A社のほうが優秀といった分析結果となりますが、A社から多額の売上原価が出ていた場合、比率分析を行うとB社のほうが優秀となる可能性もあるでしょう。
そのため、正確な財務分析はどちらかと言うと比率分析のほうが大切です。実数分析は「全体像の把握」に適切な分析方法であり、比率分析は「実態の把握」に適切な分析方法であることを覚えておきましょう。
3ー1.4つの分析方法
財務分析には主に「実数分析」と「比率分析」の2つの分析方法があると紹介しましたが、具体的な分析手法にはさらに「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」「成長性分析」の4つがあります。
- 収益性分析
収益性分析とは、企業の利益を生み出す能力を見る分析方法です。主に、「売上高総利益率」や「売上高営業利益率」などの数値を用いて分析します。 - 安全性分析
安全性分析とは、企業経営の安定性や健全性の把握、つまり企業の倒産リスクや支払い能力の程度を見る分析方法です。主に、「流動比率」や「自己資本比率」などの数値を用いて分析します。 - 生産性分析
生産性分析とは、従業員や設備といった経営資源をいかに効率よく活用しているか、そしてそれらの経営資源がどれほど売上や付加価値の創出につながっているのかを見る分析方法です。主に、「労働生産性」や「資本生産性」などの数値を用いて分析します。 - 成長性分析
成長性分析とは、企業がこれまでどのように成長してきたのか、また今後の成長の見込みや経営拡大の度合いを見る分析方法です。主に、「売上高伸び率」や「経営利益伸び率」などの数値を用いて分析します。
なお、上記4つの分析手法についてのより詳しい概要・算出方法は、下記記事で紹介しています。併せてご覧ください。
4.財務諸表の分析レポートの書き方
ここまで紹介したように、財務分析はさまざまな経営指標を用いて計算することが基本です。電卓を使ってすべてを手書きしていると多大な時間と手間がかかってしまうため、会計ソフトや表計算ソフトを使用するとよいでしょう。表計算ソフトやExcelに財務分析で使用する計算式を入れておき、会計ソフトからデータを取り込むという方法であれば、さらなる時短・業務効率化につながります。
また、財務分析の結果をまとめた分析レポートを作成するときは、「経年比較」「競合他社との比較」といった2つの観点から比較することが一般的です。
財務諸表の内容からある程度の分析結果を出したあとは、前期データと当期データを比較したり、競合他社との比較情報も盛り込んだりするとよいでしょう。経年比較・競合他社との比較を行うことで、自社の成長度合いや課題点・改善ポイントを発見することができます。
4ー1.分析レポートの構成
分析レポートの構成は特に定められた決まりがなく、作成者によって自由に設定しても問題ありません。しかし、なるべく分かりやすい分析レポートを作成したいのであれば、「前提」→「財務分析」→「結論」の順に作成することがおすすめです。下記にて、分析レポートの構成を簡単な例文とともに紹介します。
(1)前提
分析レポートの「前提」部分では、財務諸表で用いた定義や算出方法など、分析の裏付けとなる内容を説明します。財務分析の目的も記載しておくと、より分かりやすくなるでしょう。
【例文】
取引先候補の最終決定にあたり、A社とB社の財務分析を行った。収益性分析を行う際は「売上高総利益率」を、安全性分析を行う際は~~~を用いた。
(2)財務分析
分析レポートの「財務分析」部分では、各分析方法から分析した結果を記載します。複数の企業を比較する際や、計算式を記載する際は長くなるため、表や箇条書きなどを用いて視認性を高めることもポイントです。
【例】
A社 | B社 |
---|---|
【収益性分析】
【安全性分析】 ~~~ ~~~ |
【収益性分析】
【安全性分析】 ~~~ ~~~ |
(3)結論
分析レポートの「結論」部分では、(2)の財務分析をもとに結論を出します。このとき、(1)の前提で財務分析の目的を記載していた場合は、その目的の結果をしっかりと述べることで一貫性が生まれ、誰が見ても分かりやすいレポートとなるでしょう。
【例文】
以上の財務分析から、B社よりA社のほうが○○性・○○性が高く、成長見込みのある優秀な企業であることが分かった。よって、A社を取引先の第一候補とする。
まとめ
財務諸表の分析レポートとは、「実施した財務諸表の分析をレポートとしてまとめたもの」です。経営者であれば「投資先・取引先の会社の経営状況を明確にすることを目的に、財務諸表を用いて分析するケースのほか、自社の財務状態を客観的に分析・判断するために、企業経営者が自社の財務レポートを作成するケースもあるでしょう。
分析対象となる財務諸表は、主に「貸借対照表」「損益計算書」の2つです。これら書類の情報から、「実数分析」と「比率分析」の分析方法を用いて、収益性や安全性、生産性、成長性を明らかにすることが一般的と言えます。
分析レポートを手書きで作成するのは非常に手間と時間がかかるため、会計ソフトや表計算ソフト、Excelなどを用いてなるべく自動化することがおすすめです。また、分析レポートは「前提」→「財務分析」→「結論」の順で構成し、一貫性をもって作成することで誰が見ても分かりやすいレポートとなるでしょう。ここまでの内容を参考に、ぜひ財務諸表の分析レポートを作成してみてはいかがでしょうか。
- 労働分配率をはじめとした自社の生産性と、生産性向上の施策を確認したい
- 銀行や顧問税理士以外の新たな視点で、実務に活かせる分析指標がほしい
- 資金を圧迫している要因や、資金の増やし方を知りたい
- 融資や金利を左右する、金融機関からの格付評価が知りたい
- 決算書の見方を後継者や幹部に勉強させ、計数から考える人財に育てたい
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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