事業承継を円滑・円満に行うためには、適切な対策を早めに進めておくことが大切です。対策を早めに行っておくことで、事業承継後の経営の安定や、相続トラブルの回避につながります。また、事業承継対策が不十分であると、税金の負担がより重くなってしまうケースも少なくありません。
この記事では、事業承継を円滑・円満に進めるポイントとして、特に重要なものを6つ紹介します。また、具体的な事業承継を実施する流れ・方法についても解説するため、事業承継を考えている経営者の方は、ぜひご覧ください。
目次
1.事業承継対策を実施する必要性とは?
近年、日本では少子高齢化に伴い、中小企業を中心に経営者の高齢化が進んでいます。中には経営者の高齢化に併せて、後継者問題に頭を悩ませている経営者の方も少なくありません。将来的に事業承継を希望している場合には、早めの対策を講じる必要があります。
対策が不十分な場合、円滑で円満な事業承継ができない可能性があるため注意が必要です。ここでは、事業承継対策を実施する必要性について解説します。
1-1.事業を存続させるため
事業を存続させるためには、事業承継対策を実施する必要があります。事業を承継する場合、後継者には現在の経営者と同等のスキル・ノウハウが求められるでしょう。しかし、後継者の育成は、一朝一夕にはいきません。
経営者として一人前になるまでにかかる期間は数年単位と言われているため、早い段階から綿密な計画を立てることが重要です。企業の永続的繁栄には、後継者の育成が鍵を握っていると言えるでしょう。
1-2.相続トラブルを回避するため
相続トラブルを回避するために、事業承継対策を行う経営者も少なくありません。相続に関する親族での合意形成ができていない段階で、経営者が亡くなってしまった場合、資産の相続トラブルに発展する恐れがあります。
また、相続トラブルは社内にとどまらず取引先や顧客にも不信感を与え、企業のイメージダウンへつながるケースもあります。現在の経営者が健在であるうちに、事前に事業承継の対策と、資産をどのように分配するか決めておきましょう。
1-3.税金の負担を軽減するため
企業の抱える悩みの1つに、事情承継の際に発生する税金問題があります。しかし、平成30年に改正された「事業承継税制」を活用することで、事業承継にかかる税負担の軽減が可能になりました。
事業承継税制の特例措置を受ける場合、都道府県知事の認定や税務署への申告など、多くの手続きを済ませる必要があります。手続きが複雑な上に時間がかかるため、余裕を持って準備を進めることが大切です。
2.事業承継を円滑・円満に進めるポイント6つ
事業承継には、いくつかのポイントがあります。ポイントを押さえて対策を実施することでリスクを回避することが可能です。ここでは、事業承継を進める上で押さえておきたい6つのポイントについて解説します。事業承継を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
(1)計画的に準備して進める
事業承継を成功させるには、計画的な準備が必要です。自社の状況を把握し、実施すべき工程を事業承継計画書に落とし込みます。計画書に記したスケジュール通りに対策を実行することで、無駄な工程を省き、効率的な事業承継対策ができます。
また、事業承継計画書の作成が難しい場合は、専門コンサルタントへの依頼がおすすめです。専門家の意見を参考に計画書を練ることで、より具体的な計画が立てられるでしょう。
(2)後継者の育成をしっかりと行う
後継者の育成は、事業承継を成功させるために最も重要な工程です。経営者の交代は、企業にとって大きな変化をもたらします。後継者は企業を引き継ぐ際に必要なスキル・ノウハウを身に付ける必要があります。
現在の経営者が持つスキル・ノウハウを承継させるには、経営者の業務に同行させ、経験を積ませることが効果的です。また、後継者教育を実施する際には、後継者の補佐の教育も並行して進めることで、事業承継の実施後も円滑な経営が期待できるでしょう。
(3)後継者の負担を考慮する
企業の後継者に指名された人物には、当事者のみが抱えるプレッシャーや負担があります。後継者がスキルを身に付けるまでの期間は個人差があり、長期的な育成になる可能性を踏まえての教育が大切です。また、事業承継を行う際には、現在抱えている問題を解決する努力をしましょう。承継した直後に複数の問題を抱えた場合、後継者が本来の実力を発揮できない恐れがあります。
(4)自社株式の税金対策を進める
事業承継を実施する際には、並行して自社株式の税金対策も進めましょう。後継者の持分比率を下げることで、納税金額を抑えられるメリットがあります。しかし、株式が分散した際に経営権を失う事態も起こり得るため、税金対策は専門家などに相談した上で慎重に進めましょう。
(5)相続税・贈与税対策を検討する
株式の税金対策に加え、相続税や贈与税対策も検討が必要です。後継者が法定相続人の場合、あらかじめ代償金を用意しておきましょう。代償金とは、遺産分割で代償分割を行う場合、現物で資産を取得した人が他の相続人に支払う金銭です。
(6)株価対策を実施する
事業承継の際に自社株式の評価額が高い場合、相続税または贈与税が高額になる恐れがあります。しかし、評価額は人為的に下げることが可能です。例えば、役職退職金の支給や、高収益の部門を分離させることで評価額は下がります。しかし、過度な株価対策は税務署が不当と判断し、否認される場合があるため、適切な株価対策が求められます。
3.事業承継を実施する流れ・方法
事業承継をトラブルなく円滑・円満に完了させるためには、正しい流れに沿って進めることが大切です。ここでは、事業承継を実施する基本的な流れ・方法を解説します。大まかな流れを知ることで、スムーズな承継が実現できるでしょう。
(1)自社の状況を把握する
事業承継を実施する前に現在の自社の状況を振り返り、今後の動き方について検討します。後継者候補のリストアップの有無に加え、経営状況の確認も忘れずに行いましょう。事業承継直後は、不安定な経営が続くことを見据えて動くことが大切です。後継者の負担を減らすためにも、経営状況が良好な状態での承継をおすすめします。
(2)自社の資産を調査する
自社の資産調査を行い、資産に対する相続税や贈与税の金額を把握しましょう。納税額を事前に把握せずに事業承継を実施した場合、納税額を削減する対策が実施できず、経営危機の事態に直面する可能性があります。
建物や土地の有形資産に加え、特許権や商標権などの物理的な形状を持たない無形資産を調査しましょう。また、経営者自身の資産も把握しなければなりません。株式の保有状況なども調査の対象です。
(3)事業承継の方法を検討する
企業の後継者を決定する場合、3つの選択肢の中から選びます。
- 親族の中から決定する
- 従業員の中から決定する
- M&Aを活用し決定する
経営者の親族や、従業員の中から決定した場合、社内・取引先の理解を得やすいです。加えて親族・従業員は既に自社の内情を把握しているため、スムーズに後継者育成に取り組めるでしょう。また、親族・自社内に該当者が見当たらない場合には、M&Aを活用し、外部から適正な人材を後継者として迎え入れることも可能です。
事業承継に関するこれらの種類については、下記のページでも詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
(4)事業承継計画を立案する
事業承継計画の主な内容として以下の3つがあります。
- 現在の経営状況と今後の経営方針について
- 後継者の育成と決定について
- 自社株式の承継方法について
事業承継計画を立案し、今後の課題を見える化しましょう。解決の道筋が立っている問題から事業承継計画書に落とし込み、課題解決を進めていきます。
(5)事業承継を実行する
立案した計画書をもとに事業承継対策を実施します。事業承継に関する対策は長期にわたり行われるため、立案当初の状況と現在の状況が異なる場合は、随時計画の修正と変更が必要です。また、変更の際には税理士などの専門家の意見を取り入れ、計画のブラッシュアップを図りましょう。
まとめ
事業承継を行う場合は、計画的に対策を講じて実施する必要があります。適切な対策が取られていなければ、事業の存続が危うい状況になってしまうことも少なくありません。
事業承継を円満・円滑に進めるためには、後継者の育成をしっかりと進めつつ、後継者の負担にも考慮する必要があります。また、税金関係の対策も事前に講じておかなければ、事業から身を引く経営者にとっても、事業を任された後継者にとっても、負担が大きくなってしまうかもしれません。
円満・円滑に事業承継を進めるために、この記事で紹介したポイントを押さえて、計画的に事業承継を進めましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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