企業経営を信頼のできる後継者に引き継ぐことを、「事業承継」と言います。近年では、企業経営者の高齢化によって、大切に育てた会社を存続させるための事業承継を検討しているケースも珍しくありません。
しかし、事業承継にはさまざまな準備や手続きが必要であり、円滑に進めるためには知識のある専門家への相談が必要不可欠となっています。
そこで今回は、事業承継の実施における課題から、専門家からのサポートが必要となる理由、さらに事業承継に関する専門家の主な種類までを徹底解説します。事業承継を検討している企業経営者・社長の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.事業承継の実施を阻む課題
高齢化が進む昨今、大切に育ててきた会社を存続させるためにも、多くの中小企業では事業承継が大きな課題となっています。しかし、法人・個人事業主のいずれにおいても、事業承継を行うには幅広い知識を有したうえで手続きを進める必要があります。そのため、知識がなく、円滑に事業承継を進められず困っている企業経営者も多くいるでしょう。
事業承継の円滑な実施を阻む主な課題には、「専門的な知識の不足」のほか、「複雑な手続きの実施」という課題も挙げられます。事業承継を行うための準備にはあらゆる手続きもあり、その手続きには税金に関する法律などの専門的知識が必要です。このような課題に阻まれて、事業承継を諦めてしまったり、なかなかスムーズに進められなかったりする経営者は多いでしょう。
2.事業承継の専門家からサポートを受ける必要性・理由とは
専門性の高い知識が必要で、かつ複雑な手続きを実施しなければならない事業承継をすべて自分たちで行うには負担が大きく、それだけ時間も要するでしょう。事業承継を阻む問題・課題を克服するためには、第三者である専門家によるサポート・支援を活用するという方法も1つの手段です。
円滑・円満な事業承継に専門家のサポートが必要となる理由には、下記2点が挙げられます。
(1)専門的な知識を提供してくれる
事業承継を円滑に進めるためには、税務・法務・会計といったあらゆる専門知識が必要です。事業承継の専門家はこれらの知識をしっかりと有しているため、安心して事業承継を進められるでしょう。
(2)課題解決に向けたサポートをしてくれる
事業承継の際は、各手続きやプロセスにおいてあらゆる課題が生じるでしょう。経営者は企業経営に関する知識はあっても、事業承継の経験がなければ当然知識もありません。しかし、事業承継の専門家は経験や知識が豊富なプロとなるため、各手続きやプロセスにおいて生じた課題の適切な解決策を提供してくれます。
なお、上記の「事業承継において専門家からのサポートが必要な理由」は、言い換えると「事業承継に専門家のサポートを利用するメリット」とも言えます。「専門家のサポートに頼らなかった場合は、上記のようなメリットを受けられなくなる」と考えれば、自ずと専門家の重要性を理解できるでしょう。
3.事業承継に関する専門家の種類6選
事業承継に関連する専門家には、さまざまな種類があります。また、法律や会計・税務に関する手続き・コンサルティングには、専門的な資格が求められることが基本です。
例えば、何らかの手続きを代わりに行ってもらうには、特定の国家資格を持っている専門家に依頼しなければなりません。このように、サポートを依頼したい手続きや相談の種類によって、必要となる資格が異なります。つまり、どのようなサポートを受けたいのかによって、相談相手に選ぶべき専門家が異なるということを覚えておきましょう。
なお、事業承継に関して総合的に相談できる窓口については、次の記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
ここからは、事業承継に関する専門家の主な種類を6つ紹介します。
3-1.税理士
税理士とは、税金・会計に関する専門家のことです。事業承継においては、相続税や贈与税に関する税務分野のサポートを主に行っています。
中小企業の事業承継では、税理士への依頼が特におすすめと言えるでしょう。なぜなら、中小企業の場合は非公開株式を引き継ぐ必要があるものの、非公開株式の相続税評価には専門的な知識が必要となるためです。
なお、M&Aによる事業承継の場合、買い手側が売り手側の税務リスクや経営状況・資産といった各情報の調査手続きを指す「税務デューデリジェンス」が必要となります。税務デューデリジェンスはより高度な知識が必要となるため、税理士によっては対応していないケースがあることにも注意しておきましょう。
3-2.公認会計士
公認会計士とは、会計に関する専門家のことです。厳密に言えば、公認会計士は事業承継の専門家ではありません。しかし、税理士を兼ねている公認会計士も多く、M&Aの事業承継に関して相談できるケースが多くなっています。
会計に関する高度な知識を活かして、税務デューデリジェンスはもちろん、「バリュエーション」によって事業価値を評価することも可能です。しかし、事業承継における手続きのすべてをサポートすることが難しいため、場合によってはほかの専門家に別途依頼する必要もあるでしょう。
3-3.弁護士
弁護士とは、法律全般の高度な知識を有する専門家のことです。後継者・相続人と何らかのトラブルが起こり得る事業承継では、税金や会計に関する法律知識だけでは足りないケースもあるでしょう。一度トラブルに発展すると、当事者だけでの解決は困難です。事業承継において弁護士は、このようなトラブルを防ぐため、また発生したトラブルを解決するために依頼されます。
加えて、弁護士はその法律知識を活かして税務デューデリジェンスを実施することも可能です。あらゆるトラブルの発生しやすい中小企業はもちろん、企業リスクや企業価値の妥当性をしっかり把握する必要があるM&Aによる事業承継におすすめの依頼先と言えるでしょう。
3-4.司法書士
司法書士とは、法務局や裁判所といった行政機関に提出する書類の作成・審査請求を行う、司法の専門家です。事業承継の専門家ではないものの、事業承継の手続きに必要となる移転登記の分野では特に適切な相談先と言えるでしょう。
M&Aの仲介業務は対応していない司法書士が多いものの、中小企業の事業承継においては、弁護士に依頼するよりも費用が安い傾向にあるため特に選ばれています。
3-5.行政書士
行政書士とは、都道府県庁や市役所といった官公庁に提出する書類の作成・許認可申請を代行する、行政の専門家です。
司法書士と同様に事業承継の専門家ではないものの、相続税・贈与税や許認可申請に関する業務を依頼できるため、親族内事業承継で特に選ばれる相談先となっています。また、書類作成に関する専門家であるため、事業承継の手続きに必要な書類の記入ミス・記入漏れをしっかりと確認してもらえて、書き直しや再提出にかかる手間を省くことが可能です。
3-6.中小企業診断士
中小企業診断士とは、中小企業を対象に経営課題の診断・助言を行う専門家です。経営コンサルタント業における唯一の国家資格であり、事業承継においては企業経営者が抱えるさまざまな悩みの解決が主な業務となっています。
しかし、中小企業診断士は人によって得意分野が異なることも多く、なかには事業承継に関する豊富な知識を有していない中小企業診断士も存在します。このように、中小企業診断士はそれぞれ特徴や違いがあり、選択肢も多岐にわたるため、事業承継に関する相談対応業務を得意とする中小企業診断士を選ぶことがポイントです。
まとめ
高齢化によって経営者の引退を決意したときは、大切に育てた会社を存続させるためにも事業承継が欠かせません。しかし、事業承継にはさまざまな準備や手続きが必要となります。事業承継を円滑に進めるためにも、知識のある専門家への相談がおすすめです。
事業承継に専門家の力を借りることには、「専門的な知識を提供してくれる」「課題解決に向けたサポートをしてくれる」といった大きなメリットがあります。
また、事業承継に関する専門家とひとくちに言っても、税理士や弁護士から司法書士、中小企業診断士まであらゆる種類の専門家が存在します。まずは事業承継において自社の抱える課題や起こり得るトラブルは何かを考えたうえで、適切な相談先を選ぶことが大切です。ここまでの内容を参考に、ぜひ適切な専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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