自社の生産性分析を行う際、労働生産性に注目する人は多いでしょう。労働生産性を分析すると、労働投入量が効率的に成果へとつながっているかどうかが把握できます。
労働生産性を向上するためには、自社の労働生産性を正しく測定して、生産活動などの改善施策を進めなければなりません。
当記事では労働生産性を含めた生産性の種類や、生産性に関する指標の種類、労働生産性向上によるメリットを解説します。4つの種類がある労働生産性の計算式も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.生産性を分析する際の指標となる「労働生産性」
そもそも生産性とは、得られた成果量を投入した資源量で割って、資源がどの程度有効利用できているかを示す比率です。生産性によって示される指標の1つとして、「労働生産性」が存在します。
労働生産性は、「従業員1人あたり」もしくは「労働1時間あたり」という労働量で表される資源に注目して、労働の生産性を数値化した指標です。
労働生産性の計算式は、下記4種類があります。
- 従業員1人あたりの物的労働生産性
従業員1人あたりの物的労働生産性=生産量/従業員数 - 労働1時間あたりの物的労働生産性
労働1時間あたりの物的労働生産性=生産量/従業員数×労働時間 - 従業員1人あたりの付加価値労働生産性
従業員1人あたりの付加価値労働生産性=付加価値額/従業員数 - 労働1時間あたりの付加価値労働生産性
労働1時間あたりの付加価値労働生産性=付加価値額/従業員数×労働時間
労働生産性を計算するときは、数値化したい労働生産性の種類に合った計算式を使用しましょう。
2.労働生産性の他にもある「生産性の指標」
生産性の指標は労働生産性の他にも、「資本生産性」「全要素生産性」があります。生産性の主な種類を一覧表にすると下記の通りです。
■生産性の指標・種類
労働生産性 | |
---|---|
物的生産性 | 物的労働生産性 |
付加価値生産性 | 付加価値労働生産性 |
資本生産性 | |
---|---|
物的生産性 | 物的資本生産性 |
付加価値生産性 | 付加価値資本生産性 |
全要素生産性 | |
---|---|
物的生産性 | 物的全要素生産性 |
付加価値生産性 | 付加価値全要素生産性 |
労働生産性が労働にかかわる資源に注目した生産性の指標であるのと同様に、資本生産性と全要素生産性も各種資源に注目した生産性の指標です。
ここでは資本生産性と全要素生産性について、どのような資源に注目しているかや具体的な計算式を解説します。
2-1.資本生産性
資本生産性とは、事業に投入された資本に注目して、資本の生産性を数値化した指標です。
事業のために導入した機械設備や事業用の土地・建物への投資額が、一般的に事業に投入された資本として扱われます。資本生産性を計算することで、資本がどの程度有効利用できているか、成果の産出に役立っているかの分析が可能です。
資本生産性は「物的資本生産性」と「付加価値資本生産性」の2種類があります。それぞれの計算式は下記の通りです。
- 物的資本生産性
物的資本生産性=生産量/総資本 - 付加価値資本生産性
付加価値資本生産性=付加価値額/総資本
生産量・付加価値額が大きくなり、総資本が小さくなるほど、資本生産性は高くなります。資本生産性が高いときは、資本が効率よく成果を生み出している状態です。
2-2.全要素生産性
全要素生産性とは、事業に投入された全要素の生産性を数値化した指標です。
全要素には労働・資本・原材料などの各種生産要素に加えて、技術革新やブランド戦略、クオリティ向上といった通常の生産性では測れない要素も含まれます。全要素生産性を計算することで、企業の潜在的な経済成長率を可視化できます。
全要素生産性も「物的全要素生産性」と「付加価値全要素生産性」の2種類があり、それぞれの計算式は下記の通りです。
- 物的全要素生産性
物的全要素生産性=生産量/(労働+資本+原材料など)合成投入量 - 付加価値全要素生産性
付加価値全要素生産性=付加価値額/(労働+資本+原材料など)合成投入量
全要素生産性が向上したときは、事業によって得られる成果の質が向上していることが期待できます。
3.生産性に関する指標の種類2つ
労働生産性をはじめとした生産性に関する指標は、測定方法の違いによって物的生産性と付加価値生産性の2種類があります。
簡単に説明すると、物的生産性は「商品・サービスの物的な量」を測定し、一方の付加価値生産性は「付加価値額」を測定する方法です。両者の違いを理解していなければ、生産性の高低について正しい分析が行えません。
ここでは物的生産性と付加価値生産性について、それぞれの意味と計算式、主な用途などを解説します。
3-1.物的生産性
物的生産性とは、生産物の大きさ・重さ・個数などを対象として、生産性を測定する方法法です。物的生産性の中でも労働に着目した測定方法は、物的労働生産性と呼ばれます。
物的生産性の計算式は下記の通りです。
物的生産性=生産量/資源投入量
生産量は商品・サービスの物的な量であり、資源投入量は生産のために投入した資源の量です。たとえば生産量が商品1,000個、資源投入量が従業員10人であれば、下記の計算式により従業員1人あたりの物的労働生産性は商品100個となります。
従業員1人あたりの物的労働生産性=商品100個=商品1000個/従業員10人
物的生産性の主な用途は、工場などの生産現場における生産効率の測定です。商品・サービスの大きさや重さは、価格のように物価変動などの影響を大きく受けないため、物的生産性では生産現場における純粋な生産効率を調査できます。
3-2.付加価値生産性
付加価値生産性とは、生産物の付加価値額を対象として、生産性を測定する方法です。付加価値生産性の中でも労働に着目した測定方法は、付加価値労働生産性と呼ばれます。
付加価値生産性の計算式は下記の通りです。
付加価値生産性=付加価値額/資源投入量
付加価値額とは、商品・サービスを生産したことで新たに付加された価値の金額を指します。たとえば企業が製品の生産コストに1,000万円をかけて、売上額が3,000万円得られた場合は、付加価値額は売上額と生産コストの差額である2,000万円です。資源投入量が従業員10人であれば、下記の計算式により従業員1人あたりの付加価値労働生産性は200万円となります。
従業員1人あたりの付加価値労働生産性=200万円=2000万円/従業員10人
商品・サービスの生産で得た付加価値は、人件費や企業の当期利益、株主への配当として分配されます。企業の利益増大を図ったり、付加価値の分配率を考えたりする上で、付加価値生産性は重要な指標です。
4.労働生産性向上によるメリット4つ
最後に、労働生産性向上によるメリットを4つ紹介します。
人手不足の解消
日本は少子高齢化により労働力人口が減少傾向にあり、企業は人手不足への対策が重要な課題となっています。労働生産性が向上すると少ない従業員数でも高い成果を出せるようになり、人手不足の解消が可能です。
コストの削減
企業の生産性が低い原因には、生産工程に無駄があり、従業員の残業や休日出勤が多いといった問題があります。労働生産性向上を実現すると、業務の無駄が少なくなり従業員の長時間労働が抑制されるため、人件費に代表されるコストの削減ができます。
ワーク・ライフ・バランスの改善
労働生産性が向上すると従業員は残業や休日出勤が少なくなり、プライベートの時間をより多く確保できてワーク・ライフ・バランスの改善につながります。従業員の労働へのモチベーションが高くなり、業務のパフォーマンスが向上する点もメリットです。
他社との差別化の実現
近年は業界間の壁や企業ごとの情報格差がなくなり、継続的な事業成長には企業の競争力が求められている状況です。労働生産性が向上すると、他社よりも商品をより多く、安く提供できます。企業は増大した利益で設備投資・技術投資・IT投資といった資本投入を行い、自社の強みをさらに追求できるでしょう。
まとめ
労働生産性の計算式は4種類あります。測定方法は物的生産性と付加価値生産性のどちらか、注目する資源は従業員1人あたりと労働1時間あたりのどちらかが、各計算式の大きな違いです。
生産性の指標は労働生産性の他にも、資本生産性と全要素生産性があります。何を対象に生産性を分析したいかにより、各指標を使い分けてください。
労働生産性向上は人手不足の解消やコストの削減など多くのメリットがあります。労働生産性を正しい計算式で測定し、自社の労働生産性向上につなげましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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