12月12日発売の週刊ダイヤモンドをご覧になりましたか?
「残業禁止!労基署が次に狙う企業・業界」
という特集が組まれていました。
中小企業でも他人事ではありません。この手の対策に漏れがあるために労基署から指導を受ける例は多く聞かれます。
また、是正に早急に取り組まなければならないため、目先の対応や稚拙な対応になってしまい、ツギハギだらけの就業規則・賃金規程と運用になっている企業も少なくありません。
本日はそのような労働環境を取り巻く環境変化に対応できる人事評価制度の見直しについてお伝えします。
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目次
東京都の最低賃金1,000円はもう目の前!
自社が所在する都道府県の最低賃金をご存知ですか?
例えば、東京都は5年前の837円から95円アップして現在932円。
月8時間×23日=184時間の労働に換算すると月当り17,480円の最低賃金のアップです。
1年に平均19円、約2%上昇しています。
このペースでいくと、東京オリンピックが開催される2020年には最低賃金が1,010円になると予想できます。
上記の例に準じると・・・月当り14,352円の上昇です。
時間外の基準にも効いてくるので、労働集約型の業種にとっては非常に大きな影響です!
このような変化に合わせて、前倒しで制度再構築を進める必要がありますし、業績が良い会社であれば再構築と同時に、全社員を対象にベースアップをすることもできます。
しかし、業績が思わしくない会社の場合、粗利改善を1~2年で進め、賃金上昇しても労働分配率を維持し、営業利益を出せる体質への改善が急務です。
早急な対応が求められる法定労働時間外の労務対策
5年ほど前に給与制度を見直した企業であっても、現時点で既に見直しを迫られている企業もあります。
ある企業で、中途採用の営業担当者として、基本給210,000円でスタート、40時間分の固定残業代を上記に含んで支給していました。
しかし労基署から「最低賃金を下回っている」との指摘を受け、改善を余儀なくされたのです。
<検証1>5年前までなら…(東京都の基準)
[最低賃金] 837円
[労働時間] 184時間
[ 基本給 ] 154,008円
[固定残業時間] 40時間
[固定残業代] 41,850円
[ 計 ] 195,858円
195,858円 に対して、基本給は210,000円なので、5年前は最低賃金を上回っていました。
<検証2>2015年には…(東京都の基準)
[最低賃金] 907円
[労働時間] 184時間
[ 基本給 ] 166,888円
[固定残業時間]40時間
[固定残業代] 45,350円
[ 計 ] 212,238円
212,238円 に対して、基本給は210,000円なので、最低賃金を下回るのです。
弊社では、
「人事評価制度は長くとも5年に一度はマイナーチェンジが必要」
とお伝えしていますが、言い方を変えれば、評価制度とは『5年先を見据えて再構築するもの』なのです。
5年前のものが古いから対応できる仕組みを探す・・・では遅いのです。
では、この問題にどう対策を打つべきなのでしょうか・・・?
「小手先の見直し」ではなく「本質的な再構築」が重要
「小手先の見直し」観点でできることとしては、見なし時間外を30時間に減らす、次の給与改定で不足分を昇給させる・・・などが可能です。
但し、内在する将来の課題に対して手を打っているわけではありません。これでは毎年、手を加えていくうちに、イビツな仕組みで説明不可能になってしまいますので、本質的な見直しが必要です。
【1】全社で生産性の改善に取り組む
営業の場合、得意先の仕事で遅くに呼ばれる、または外回りなどが終わって帰社後に提案資料、見積書、注文書、社内書類など作成をしなければならない
外勤の実質的な業務を把握することが困難という理由から見なし時間外の手当を営業手当、業務手当などの名目で支給している企業は多いです。
移動時間など業務ではないが拘束時間のため、見なし時間外として仕方ない部分ですが、その他の業務は
- 間接部門でも対応できる仕事はないか、
- 顧客問い合わせへの対応力を上げる、
- 書類・手続きを効率化させる・・・
など仕事の仕組み、組織間連携を強化することが重要です。また無駄な仕事をさせないよう、組織の報連相を高め社員が壁にぶつかっている時間を短くする、後で大きな手間・労力を取られないようにすることも重要です。
ホワイトカラーの生産性という点では伊賀泰代著「生産性」など非常に注目されている最近の書籍です。
参考書籍:
生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの
著:伊賀泰代/ダイヤモンド社
https://onl.bz/1BP9i4Q
なお労働生産性を上げるための方法については以下の記事で解説しています。
早期にステップアップできる育成の仕組みと等級制度
日本の企業の給与テーブルの設計は、上位等級に行かなければ、大きく昇給しない、高い給与を得られない、という仕組みが多いです。
そのテーブルもいくら年齢や経験を重ねても成長し続けるということを前提としていますが、それも見直す必要があります。
表現を恐れずに書くと以下です。
- ワーカー、エキスパート、マネジメントで給与テーブルを分ける
- ワーカーの階層では給与上限を設ける
- エキスパートやマネジメントのコースに進まなければ更に上がることはない
上記のようにして、従来は成長がないが経験・年数で上げ続けた昇給原資を若い人材、早期に成長する人材の昇給原資に充てるなどしなければ、限られた原資で人材の動機づけをすることは困難です。
そのように抜本的にテーブルを見直し、どのような人材に報いる給与かを再定義しなければ、いびつなツギハギらだけの仕組みを運用し続けることになります。
最後に
私は左寄りではありませんが、思想ではなく理論という点からマルクスの資本論から、賃金に関する考え方には共感できる部分があるなと考えています。
要約すると賃金には三つの要素があるとマルクスは言います
- <1>衣食住と娯楽の費用(労働力という商品を維持する費用)
- <2>次世代の労働者の再生産をする費用
(子供も次世代の労働力。労働力を生み、育てる費用) - <3>技術革新についていくため、労働者自身が学習するための費用
(労働力のアップデートができないと生産の価値が高まらない)
働く側は、1、2番目のために得た給与を使っていても、3番目の価値を生み出し続ける『自己のアップデート』に給与を使っているでしょうか?
それを放棄するのであれば、給与に上限があるのはもっともではないかと、経済古典の書籍から思いをはせています。
※普段、有料の研修でのみ配布しています!
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この記事の著者
NBCコンサルタンツ株式会社
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