先週飛び込んできた、カルロス・ゴーン氏の逮捕というニュース。
経営者なら誰しもが驚いた出来事ではなかったでしょうか?
経営再建に成功した経営者としてあまりに有名であり、彼に関する群書は、その多くが参考になる内容でもありました。
有価証券報告書の虚偽記載──。
その真相は今後の捜査の進展を待たなければなりませんが、日産自動車に不正が行える環境があったということは確かなことでしょう。
今回は日産で起きた不正から不正のメカニズムや不正をなくすためにどこに着目すべきか解説します。
目次
不正発生のメカニズム
組織コンサルタントの川口雅裕氏が不正の要因を探る文章を書かれているのを拝見しました。
出所:INSIGHT NOW!(2010年8月26日公開)
「悪いコトをする人がいない組織」を作るための3つの視点
「不正は『動機』『機会』『正当化』の3つが揃った時に起こる。」
とおっしゃっています。
普通のやり方や自分達の力量では到底出来ないような難しい問題や高い目標が課せられた状態に置かれると、不正をはたらく動機が生まれます。
次に、誰にも見られない場があったりチェックされない、バレないような状況があったりすると、その不正な行いを実行することができる機会が生まれます。
最後に、不正だと分っていても
「他にもやっている人がいるはずだ」
「昔から、やられてきたことだ」
「これ以外に方法はない」
「これくらい大したことではない」
といった理由をつけ、不正な行いの実行を正当化して、初めて不正が起こる……というわけです。
日産の不正発生のメカニズム
上記不正の3つの要因を、今回の有価証券報告書の虚偽記載事件に当てはめていくと下記のようになります。
例えば、グローバル企業となった日産自動車において、ゴーン氏の役員報酬と日本の上場企業の役員報酬基準とのズレが明確になってきたという状況があったとします。
グローバル企業の会長が本来もらうべき報酬が欲しいとは思うが、株主の目もあり到底無理だ……。
その時「どうにかしてより多くの報酬をもらいたい。」という『動機』が生まれます。
次に、誰にも知られることなく報酬を上げる方法があり、それをチェックされることもないという『機会』があり、
さらに「報酬にふさわしい仕事をしているのだから当然の権利だ。」
「ほかの企業だって、少しくらい違法手段を使っているに違いない。」
といった『正当化』の心理が働いて、不正が現実に実行されるのです。
不正を防ぐには
では、不正を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか?川口氏は以下のようにおっしゃっています。
「このように3つが揃ったときに不正が行われるということは、言い換えると、不正を防ぐにはどれか1つを消せばいいということでもあります(中略)
加えてコンプライアンスに関する講座において
私が「それでは3つのうち、どれに着目しますか?」と問いかけますと、ほとんどの人は『機会』と回答されます。
機会を消すだけでは不十分
不正をはたらく機会を与えないこと、管理の強化こそが重要だ。
そのためには、業務を進める手順を細かにルール化し、これを監視・チェックする体制を作り、報告の義務付けや監査の実施といった仕組みにせざるを得ないという発想です。
これももちろん一つのアプローチではありますが
- 現場の自由や付加価値時間を奪ってしまう、
- 何か起こるたびにルールや仕組みが追加されていく
- しまいにはルール通りにやることを目的にした仕事ぶりが横行する
といった弊害もよくある話で、このような管理・マネジメントに疲れきっている現場の皆さんも多いことだと思います。
実際にコンプライアンスが組織のテーマとなると、「機会」に視点が集中し、ルールとチェックに終始しまうような会社が非常に多く、
それが収益性の向上や組織の活性化に逆行しているのは分っているけれども、不正を防ぐためには仕方がない……と諦めているというのが大方の今の状況と言っていいでしょう。
動機や正当化にも目を向けよう
だからこそ『動機』や『正当化』にも着目してみることが大切であると同氏は説きます。
今回の事件においても、自動車会社として世界第2位のグローバル企業の経営トップとして、仕事の質・量と処遇のバランスがとれていたのか?という視点で考えてみる必要があるでしょう。
当然、法令違反を行ったのであれば許されることではありませんが、そもそも不正に至った『動機』を検証せねば、問題の根本的な解決にはなりません。
日産自動車のホームページに掲げられているガバナンスに関する方針を読んでみると、 透明性・倫理観・コンプライアンスといった言葉が盛り込まれています。
非常に重要であることは間違いありませんし、その意識を組織・社員に浸透させていくことは、企業の不祥事が相次いでいる昨今、企業経営に不可欠な要素と言えるでしょう。
しかしながら、今回のゴーン氏の一件を鑑みると、いかに考え方や行動規範の浸透が難しいかを改めて認識させられます。
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この記事の著者
NBCコンサルタンツ株式会社
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