超高齢社会が騒がれる昨今、事業承継問題を抱える企業も増加傾向にあります。
第一次ベビーブーム時期(1947年~1949年)に誕生した世代は「団塊の世代」と言われており、事業を営んできた方も多くいます。しかし、団塊の世代にあたる方たちは現在すでに高齢化を迎えており、多くの経営者が引退を検討するようになりました。
これまで育ててきた会社を存続させるためにも、後継者に事業を引き継がせようと考える経営者の方も多い一方で、あらゆる問題によって事業承継が阻まれていることもまた事実です。
そこで今回は、中小企業の事業承継が問題となる背景から、事業承継を阻む問題、問題の解決策まで詳しく紹介します。
目次
1.中小企業の事業承継が問題となる背景
現在、日本は超高齢化社会に突入していると言われています。高齢化社会による影響には医療・福祉制度のあり方や財政問題をはじめ、現役世代の減少に伴う経済成長率の低下などが挙げられますが、企業の存続問題もまた1つの問題として挙げられます。
日本の中小企業の多くは、第一次ベビーブーム時期に誕生した、いわゆる「団塊の世代」にあたる方が経営しています。しかし、団塊の世代はすでに全員が高齢者となっているうえ、2025年以降は全員が75歳以上の後期高齢者となることも分かっています。経営者が高齢となっている中小企業では、経営問題のさらなる深刻化を防ぐためにも、一刻も早く事業承継を進めなければなりません。
帝国データバンクが実施した「社長年齢」調査によると、2021年における社長の平均年齢は60.3歳でした。全体のうち70代の社長は2割いて、平均年齢は31年間連続で過去最高を更新しています。
出所:帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査(2021年)」
大切に育ててきた会社を守るためには、後継者の存在が欠かせません。後継者を見つけられず万が一経営者が死亡してしまうと、最悪の場合廃業するおそれもあります。すべての取引が突然停止することから、多くの取引先にも大きな影響を及ぼすでしょう。
2.中小企業の事業承継を阻む5つの問題
「事業承継をしなければならない」と頭ではわかっていても、なかなか動き出せていない中小企業は少なくありません。実際に事業承継を進めるにあたっては多くの知識を有するだけでなく、複雑な手続きも必要です。
きちんと準備をしていなければ円滑に進めることができないため、事業承継を進めていくうえで、その進行を阻害してしまう問題をまず理解しておく必要があります。
そこで次に、中小企業の事業承継を阻む5つの問題をそれぞれ詳しく紹介します。
2-1.後継者の不在
中小企業の事業承継を阻む最大の問題が、「後継者の不在」です。
帝国データバンクが実施した「後継者不在企業」の2021年全国動向調査によると、調査対象となった約26万6,000社のうち、「後継者がいない、または未定である」と回答した企業が約16万社(61.5%)いることがわかりました。
さらに驚くべきは、「この数字は直近10年間において最も低い」という点です。加えて、直近10年間において最も低いパーセンテージであるにもかかわらず、60歳以上の経営者のうち半数以上が「後継者難」を理由に将来的な廃業を予定しています。
2-2.後継者の育成不足
後継者不在に関係する問題として、後継者の育成不足も挙げられるでしょう。「後継者候補はいるものの、何らかの理由で育成が追い付いていない」というケースが、これにあたります。
事業承継後に経営面での問題を生じさせないためには、後継者に「経営者として必要な知識やスキル」を身につけさせなければなりません。しかし、知識やスキルを身につけさせるための後継者育成には、少なくとも5年以上の多大な時間を要します。
加えて、企業の人材不足が問題となっている近年、少ない人員のなか人材育成にかける時間の余裕もないことが実情です。事業を円滑に進めることを優先する場合、育成期間として約10年は必要となるでしょう。
さらに、親族内承継や従業員承継であれば比較的育成はしやすいものの、第三者承継(M&A)となればまずは売り手側と買い手側のマッチングやすり合わせから始まるため、育成により多くの時間をかける必要性が高まります。このように、後継者問題には数多くの課題が存在することを覚えておきましょう。
2-3.意思決定の遅延
経営者が高齢化を迎えている中小企業の場合、古くからの習わし・しきたりによって、ワンマン経営となっているケースも珍しくありません。リーダーシップこそあれど、独裁色の強い経営者のもとで働く従業員はイエスマンとなり、結果として自主性が失われてしまいます。
このような状況において万が一経営者が倒れてしまった場合、自主性が失われた従業員が即行動することは難しく、意思決定の遅延が生じるでしょう。事業承継を進められないまま経営者が死亡すると、企業が窮地に立たされてしまう可能性も十分にあるため注意が必要です。
2-4.相談できる人の不在
事業承継は、経営者にとって非常にデリケートな問題です。先行きに漠然とした不安を抱えることも多いものの、身近に適切な相談相手がいなかったり、誰に頼ればよいかが分からず動き出せなかったりする経営者も多くいるでしょう。
このように、事業承継に関する知識はもちろん、事業承継に関する相談先に関する知識がないままだと、計画を立てることすら困難です。抱える悩みや問題を誰にも頼れず、泣く泣く廃業を選ぶ経営者も少なくありません。
2-5.経営の先行きに対する不安
たとえふさわしい後継者を見つけられたとしても、後継者に自社の魅力を感じてもらわなければ事業承継に結び付くことはありません。経営の先行きや経営状況に何らかの不安や懸念点が見られた場合、後継者に事業承継を拒否される可能性も十分考えられます。
後継者は、企業の経営権だけでなく、資産や負債もすべて引き継ぐこととなるため、事業承継に伴い多くのリスクも発生します。経営者である自身にとっては「社長の座を譲る」という聞こえのよい印象を感じる一方で、後継者にとっては経営リスクを背負うことになるという点も覚えておきましょう。
3.中小企業の事業承継に関する問題の解決策
事業承継を阻む問題を解決して、円滑・円満に事業承継を実現するためには、いくつかのポイントをおさえておかなければなりません。最後に、中小企業の事業承継に関する問題の解決策を紹介します。
(1)余裕をもって早めに事業承継の準備を進める
事業承継を円滑に進めるためには、事前準備が欠かせません。事前に経営の現状把握を行い、経営リスクや問題点を洗い出すだけでなく、頼れる相談先に相談して必要な準備を進めましょう。後継者への意思確認や育成も同時に進める必要があります。
(2)事業承継とともに税金対策も進める
事業承継を進める際は、相続・贈与といった税金対策も進めましょう。株式の移転方法を検討することはもちろん、事業承継税制といった国の優遇制度を活用しながら、なるべく譲渡する経営者側と引き継ぐ後継者側の双方で負担の少ない方法を検討することが大切です。
(3)国の支援措置を活用する
事業承継問題を抱える企業を支援すべく、政府は「事業承継税制」や「事業承継・引継ぎ補助金」といったさまざまな優遇制度を提供しています。これらの支援措置を有効に活用することで、事業承継にかかる税金を一部軽減させられたり、経費補助を受けられたりします。
まとめ
帝国データバンクの調査によると、2021年の社長平均年齢は60.3歳でした。対象となった経営者全体のうち2割は70代を超えており、超高齢化社会の影響が見てとれます。
大切に育てた会社を存続させるためには、適切な後継者を見つけて事業承継をすることが大切です。しかし、後継者の不在・育成不足問題をはじめ、経営の先行きに関する問題などによってなかなか事業承継を進められないというケースも決して少なくありません。
中小企業の事業承継に関する問題を解決するためには、早めに事業承継の準備を進めるほか、国の支援措置を活用しながら税金対策も進めることが重要です。漠然とした不安を抱えているのであれば、事業承継に関する相談窓口や公的機関に一度相談してみるのもよいでしょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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