黒字倒産とは、損益計算上では問題なく利益が出ているにも関わらず、倒産してしまう状態のことを指します。
今回はなぜ黒字にも関わらず倒産してしまうのか?その起こる原因と回避するために必要なことを解説します。
目次
そもそも倒産の条件は?
「倒産するのは赤字の企業だ」という思い込みはないでしょうか?赤字倒産もありますが黒字倒産もあります。黒字倒産とは、損益計算上は利益が出て黒字であるにも関わらず、資金繰りに行き詰まり倒産することです。
特に成長している会社において、急激な売上げの伸びにともなって売掛金や在庫が膨らみ、最終的には、帳簿上では黒字にもかかわらず、資金繰りが追い付かずに倒産してしまうことがあります。
そもそも会社が倒産する条件として、赤字や黒字は関係ありません。実際ここ数年の赤字倒産と黒字倒産の割合は以下のようになっています。
倒産企業 | 生存企業 | |||
---|---|---|---|---|
黒字 | 赤字 | 黒字 | 赤字 | |
2018年 | 47.7% | 52.3% | 78.0% | 22.0% |
2019年 | 47.2% | 52.8% | 78.3% | 21.7% |
2020年 | 46.8% | 53.2% | 76.8% | 23.2% |
2021年 | 38.6% | 61.4% | 74.7% | 25.3% |
2022年 | 37.1% | 62.9% | 74.5% | 25.5% |
出所:東京商工リサーチ『倒産企業の財務データ分析(2018~2022)』をもとに作成
ここ2年は黒字倒産の割合が下がっていますが、黒字倒産の割合は4割から5割程度となっています。反対に、ここ数年赤字でも生存している企業は2割ほどあります。
ではなぜ赤字・黒字に関係なく倒産を引き起こすのでしょうか?倒産する原因 は以下があげられます。
- 販売不振
- 既往のしわよせ(経営悪化しているのに対策をしないまま過去の資産を食いつぶしていく)
- 放漫経営
- 債務超過
- 利益率を下げる経営
- 売掛金回収難
など……。
倒産する原因はさまざまですが、共通点は会社にお金がないことで、つまり倒産は赤字黒字ではなく、「会社に『資金=現預金』があるかどうか」の違いです。
なぜ黒字倒産してしまうのか
アーバン・コーポレイションなど直前で増収増益の企業でも黒字倒産する例もあります。ではなぜ黒字倒産してしまうのでしょうか……。掛取引が多い、在庫管理が不十分で過剰在庫である、収支管理が不十分であるなど色々ありますが、
一番は、売上を求め「利益(限界利益※)率を下げる経営」をしているからです。
管理会計の概念の一つで、売上高から変動費を引いたものです。変動費は製造業の場合、材料、仕入れ、外注費、電力費、水道光熱費、荷造発送費、工場消耗費などが含まれます。
人口が増え続け市場が拡大している場合は、売上を求める経営(増収増益)でも成り立っていました。しかし、今の日本は人口が減り市場が縮小しています。市場が縮小している中で売上を伸ばそうとすれば以下のようなことをすると思います。
- 値引きする
- オプション付ける
- 売上げを上げるために人を増やす
- 在庫を増やす
- 生産量を増やす
など……。
しかし、これらは利益率を落とし資金を減らす行為です。なぜなら売上のために利益率を落とした利益が仮に10,000千円だったとしても、預金通帳を増やす10,000千円にはならないからです。
なぜ利益率を落とした利益がそのまま預金通帳にならないのか?
それは、実際に手元にある資金に時差(タイムラグ)があり、掛取引による売掛金の入金が同時とは限らないからです。 売上アップのために使った運転資金や立替資金、人件費などの支払いに必要な資金に変わってしまうからです。
こういったことを続けることで、支払いに必要な資金不足となり、最終的には黒字倒産につながる可能性があります。
つまり黒字倒産までの流れは以下です。
- 借入金に依存する
- 無理な売上拡大・販売競争激化
- 利益率が下がる&人件費が増加する
- 過剰在庫、債権が増え運転資金が不足する
- さらに競争に勝つための投資・採用
- 支払利息増、過剰な融資で返済難
- 倒産
黒字倒産は損益計算書(PL)だけでは見抜けない
黒字倒産の兆候は、損益計算書(PL)だけではつかむことはできません。
損益計算書において、利益は以下のように計算されます。
利益 = 収益 - 費用
一方、キャッシュの出入りは、以下のように計算されます。
>収支 = 収入 - 支出
そして、キャッシュをもらったときに収益を計上するわけでもなく、支払ったときに費用を計上するわけではありません。つまり収入=収益でもなく、費用=支出ではありません。
たとえ利益が計上されていても、実際にキャッシュがあるとは限らないため、損益計算書だけではキャッシュの動きはわからず黒字倒産の兆候は見抜けないということです。
黒字倒産を回避するためには自社の状況を正しく把握すること
黒字倒産を回避するためには、以下の方法があります。
- 売掛金の回収期間は短く、支払いまでの期間は長くする
- 過剰在庫を避ける
- 資金調達力を強化する
- 資産を売却する
- 金融機関にリスケジュールを依頼する
ただ一番大事なのは、自社の状況を正しく把握することです。なぜなら上記の回避策は、自社の状況を把握した上での具体的な方法だからです。
自社の状況を正しく把握するためには、損益計算書を含めた他の決算書を分析し、自社の経営の健全性や倒産リスクを常時把握することが必要です。
キャッシュフロー計算書で収支状況を確認
期初と期末の現金残高を比較し、現金の出入り(キャッシュフロー)を正しく把握しましょう。ここをきちんと確認しておくことで、現金が不足してしまう事態を防げます。
やり方は簡単で、現預金から借入金を引くことで、実質資金がわかります。これを過去4期分程度行うことで、資金推移から「癖」を見抜くことができます。
過去4期分を比較し、資金が増えていれば、資金が増える経営をしており、逆に減っていれば資金が減る経営をしているということです。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は、バランスシートとも呼ばれ「会社にどれだけの資産があり、それらをどのように調達・運用しているか」、つまり会社の財務状態を表したものです。一般的には四半期や半期ごとに作成されます。貸借対照表では以下のことが把握できます。
- 自社が現在保有する資産
- 自社が返す必要がある負債
- 返済義務のない総資産から負債を引いた純資産
ここで重要なのが自己資本比率と当座比率です。
自己資本比率
自己資本比率は、企業の総資産のうち、返済義務のない「純資産(自己資本)」の占める割合を数値化したもので、以下の計算式で求めることができます。
自己資本比率=純資産÷総資本(負債+純資産)×100
自己資本比率が高いということは、他人資本の減少・借入金の減少を意味します。反対に、自己資本比率が小さいということは、借入金に依存しているということです。
なお、2022年の倒産企業の自己資本比率は67.3%がマイナスで、反対に、生存企業の57.7%が30%以上となっています(出所:東京商工リサーチ『2022年「倒産企業の財務データ分析」調査』)。
一般に自己資本比率が70%以上なら理想企業、40%以上なら倒産しにくい企業と言われています。自己資本比率は高いほどよいですが、まずは30%以上を目指したいところです。
当座比率
「当座比率」とは、流動負債に対する当座資産の保有割合であり、流動資産からすぐに現金化できる資金がどのくらいあるか確認できます。
当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
会社の短期的な支払い能力を分析・判断するときの指標となり、100%を超えていれば余裕があるものとされます。
なお、2018年の倒産企業の当座比率は42.5%で、生存企業は82.1%となっており、かなり差があります(出所:東京商工リサーチ『2018年「倒産企業の財務データ分析」調査』)。
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損益計算書(P/L)は、会社の経営成績を表します。黒字と赤字の境界線を示す損益分岐点を正しく把握することが、黒字倒産の回避に不可欠です。なお損益分岐点は以下の計算式で求められます。
損益分岐点=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}
まとめ
今回は、黒字倒産が起こる原因と回避策をご紹介しました。
経営者の方の中には決算書を読むのが苦手という方もいらっしゃるかと思います。ただ決算書を読むことができなければ、自社の状況を正しく把握することはできません。
今回ここでご紹介した項目に着目して、資金が増えない原因を特定してみてください。
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この記事の著者
NBC資金を増やすコンサルティング株式会社
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