運転資金は企業の生命線です。
新型コロナウイルス感染症の拡がりが一服した今では、ゼロゼロ融資の返済が始まり、資金に窮して倒産する会社も増えています。
このコラムでは、運転資金の基礎的な知識から、借入を起こし融資を受ける際の考え方、融資制度の種類や融資を受けるまでのフロー、金融機関の選び方や運転資金の改善と効果的な管理方法までを、網羅的にご説明します。
前半は基礎的な知識、後半に行くほど具体的な借入や資金の改善策が並びます。ぜひ最後までしっかりと読み進め、借入と運転資金に関する知識を増やしてください。
金融機関は、融資判断の材料として各企業のスコアリング=「格付評価」を行っています。格付評価が低いと金利が高くなったり、融資が受けられないこともあります。自社は金融機関からどう見られているのか?格付評価を知りたい方は無料の決算書分析にお気軽にお申込みください。
目次
第1章 運転資金とは何か
1.運転資金の本質
運転資金とは、事業を遂行し成長させるために必要な資金のことです。これには、資産の運用、給与の支払い、仕入れ、事業継続のために必要な経費など、日々の業務に必要な支出が含まれます。運転資金は、事業の生命線であり、経営の安定的な存続や成長に直結します。
2.中小企業における運転資金の役割
資金が重要であることは大手企業も変わりませんが、中小企業にとってはことさら運転資金の適切な管理がとても大切です。資金不足は事業の停止につながる可能性があります。特に中小企業は、限られたリソースの中、競争が激しい環境で事業を展開しているため、運転資金の効率的な運用と管理は会社の生存と成長の鍵と言えます。
運転資金の適切な管理は、以下の点で中小企業にとって特に重要です。
(1)給与支払いと従業員の維持
運転資金が適切に確保されていない場合、人件費など、従業員への給与支払いが滞るリスクがあります。
(2)仕入れと在庫管理
運転資金の適切な管理は、仕入れや在庫管理と直結しています。仕入れに必要な資金を供給し、在庫を適切に管理する必要があります。
過剰な仕入れや在庫は、運転資金を圧迫し、資金繰りに大きな影響を与えます。
(3)新規プロジェクトと成長
事業を拡大し、新規プロジェクトに取りかかるためには運転資金が必要です。そのため、資金不足は成長を阻害し、資金のない企業は競争力を失うことになります。
(4)緊急事態への対応
予期せぬ緊急事態に対応するための備えも運転資金の一部です。突発的な支出や市場の変動に柔軟に対応できる余裕を持つことは、中小企業の生存力を高めます。
3.借入と資金管理
借入と資金管理の全体像として、必要運転資金の算出から、金融機関の選択、リスク管理、その先の展望までを次に簡易にまとめます。大まかな流れをつかんでください。
(1)資金ニーズの明確化
まず、事業の資質や業況、販売予測、設備の投資や数値計画、成長計画などに応じて、必要な運転資金と借り入れの額を算出します。これには、資金繰り表などが目安となり、その評価が役に立ちます。
(2)資金調達戦略
資金ニーズが明確になったら、適切な金融機関を選択し、融資制度を比較検討しながら資金調達の戦略を立てましょう。運転資金調達の戦略を策定する際に、計画の見直しも行います。
(3)キャッシュフロー管理
運転資金の効果的な運用はキャッシュフロー管理にかかっています。入金や支払いスケジュールを詳細に確認・管理・計画しましょう。
(4)リスク管理
運転資金の借入有無に伴うデメリットやリスクを正確に評価し、リスクヘッジ政策を検討します。これには補助金や助成金の利用方法も含まれます。
(5)長期の展望
運転資金管理は将来への備えも必要です。事業計画を立て、低リスクで安定した運転資金を維持する方法を検討します。
適正な運転資金の額は企業によって異なります。
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第2章:融資制度と金融機関
運転資金の手続きに関して、金融機関は中心的な役割を果たします。
この章では、日本の主要な金融機関や、提供される融資制度に焦点を当てます。
金融機関が中小企業向けに提供する融資制度は多岐にわたり、事業の性質や規模に応じて異なります。また確保条件や利用条件が異なり、それぞれの金融機関によって提供されるサービスも異なります。さらには、金融機関が自社をどう評価しているか(=格付評価)によっても条件が変動します。
中小企業経営者は、自社のニーズに合った金融機関を選び、適切な融資制度を利用するために、正確な情報収集や経営支援サービスの活用を行うことが得策です。
融資検討のときに必要なことを以下にまとめます。
1.融資検討の際に必要なことの全体像
(1)金融機関の検討
自社のニーズに合致した金融機関を選びます。これには中小企業向けの審査や情報収集が重要です。
(2)融資制度の比較
利率、返済条件、貸付の特徴など、さまざまな融資制度を比較検討しましょう。
(3)信用の構築
融資を受ける際には「信用」が重要です。
メガバンクだけでなく信用金庫など、地域に密着した金融機関との良好な関係を築くことも必要なことの一つです。
(4)保証や担保の提供
一部の融資制度では保証や担保が必要です。それぞれの提供について詳しく調査し、 無理のない適切な担保を用意します。最近では担保が猶予されることも増えてきました。
制度や世の中のトレンドをよく知り、不要な担保をつけることのないよう、しっかりした情報収集を行ってください。
(5)返済計画
融資を受けたら、返済計画を立てる必要があります。返済計画を即日から長期まで考え、限度額内で運転資金を使います。
では、どの金融機関が最適であり、どの融資制度が適しているのかー。
次の章と第4章で、金融機関と融資制度の種類をまとめていきます。
第3章:日本の主要な金融機関の種類
1.日本の主要な金融機関
日本には多くの金融機関が存在し、中小企業向けに様々な融資制度を提供しています。
代表的な金融機関としては、以下のものがあります。
(1)銀行
日本国内には多くの銀行があり、中小企業向けに融資を提供しています。各銀行は独自の融資制度や利用条件を持っており、中小企業経営者は必要に応じて交渉しながら、自社のニーズに合った銀行を選ぶことが重要です。
(2)信用金庫
地域に密着した信用金庫も中小企業向けに融資を行っています。信用金庫は地域性を活かした経営支援サービスを提供し、地域経済の発展に貢献しています。創業時や、初めて融資を利用する人に特に向いている金融機関です。
(3)信用組合
信用組合も中小企業向けに融資を行っています。また小規模事業者にも特に支援を提供しています。信用金庫との違いは、預金の受入れを原則組合員を対象としているなど、会員(組合員)資格が異なる点などが挙げられます。
2.銀行が融資を行うか否かを判断する「格付評価」
金融機関側も、融資を実行する企業側を評価しています。それは「格付評価」といわれ、企業をスコアリングし、融資判断や金利条件の判断に活用されています。
この格付けが高ければ融資を受けやすくなりますし、低い金利で融資を受けられるなど、有利な条件で借入することが可能になります。
しかし、格付けが低い場合は、融資を受けられなかったり、高い金利が設定されることがあります。
自社の格付評価を知っておくことは非常に重要です。
自分の会社の格付評価を知らない経営者や財務担当者様は、無料の「決算書分析」を実施ください。御社の格付評価を概算でお出しします。
第4章:融資制度の種類
中小企業が受けられる融資制度は多岐にわたり、事業の性質や規模に応じて異なります。以下に、主要な融資制度の種類をいくつかご紹介します。
1.融資制度・資金調達の種類
(1)民間融資
これは、銀行や信用金庫などの民間企業が行う融資のことです。後に紹介する公的融資よりも申請書類が少なく、場合によっては短期の資金調達に向きます。その一方で、審査が厳しく、企業の信用力によっては金利が高くなる傾向があります。プロパー融資など、融資の種類によっては審査の通りにくいものもあります。
(2)公的融資
国や自治体、日本政策金融公庫など、公的機関が提供する融資制度も存在します。
民間融資よりも申請手続きは煩雑ですが、低い金利で融資を受けられる傾向があります。政府系金融機関である日本政策金融公庫では、個人事業主が最も利用することの多い公的融資窓口です。開業の際も使いやすいといえます。尚、法人向けの公的融資は、大きく次の制度に分類されます。
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会
- 商工会議所
- 自治体の融資
(3)信用保証付き融資
信用保証協会が中小企業に対する融資を保証する制度です。中小企業が金融機関からの融資を受ける際、信用保証協会が一定の割合を保証し、金融機関のリスクを軽減します。
(4)農林水産業融資
制度融資など、農業や漁業、林業に関連する事業者に対する専用の融資制度があります。これらの制度は特定の分野に特化した支援を提供します。
(5)ベンチャーキャピタル
新しいビジネスを立ち上げるベンチャー企業向けに、ベンチャーキャピタルファンドから資金調達できる場合もあります。
(6)ファクタリング
融資とは異なりますが、資金調達の手段としてファクタリングもあります。売掛金を現金化する手法で、売掛債権をファクタリング会社が買い取ることで、期日を待たずに現金化できるサービスです。最近では中小企業の利用も増えています。手形割引は融資と捉えられますが、ファクタリングはあくまで「売掛債権の売買」による「資金調達」とみなされます。
これらは一部の融資制度の例であり、実際にはさらに多くの制度が存在します。中小企業経営者は、自社の事業ニーズや分野に合わせて最適な融資制度を選択しましょう。資金調達を計画し、金融機関や信用保証協会、公的機関などに相談のうえ、適切な制度を活用することが推奨されます。
次の第5章、6章では、金融機関の探し方や、借入のプロセスについて解説します。
第5章:金融機関と融資制度の探し方
中小企業経営者は、自社のニーズに合った金融機関と融資制度を見つけるための一歩として、以下のステップを踏むことが重要です。
1.自社に合った金融機関と融資制度を探す「第一歩」
(1)情報収集
インターネットや、金融機関・経済、経営者団体・自治体などから発行、発信される案内などから、各金融機関の融資制度に関する情報を収集します。また、他の中小企業経営者や経営コンサルタントとの情報交換も有益です。
(2)相談
金融機関や公的機関の担当者と面談し、自社の事業計画や資金ニーズについて相談します。条件が合えば担当者から、自社にあった最適な融資制度の提案を受けることができます。
(3)紹介
中小企業支援団体や地域経済団体からの紹介を受けることも一つの方法です。これらの団体は、金融機関との連携を行っており、中小企業向けの条件付き融資を紹介しています。
以上です。
中小企業経営者は、自社の事業状況や目標に合わせて最適な金融制度と融資制度を選択することが運転資金の調達において肝要です。次の章では、借入のプロセスと注意点を説明します。
第6章: 借入のプロセスと注意点
借入を行う際には、プロセスに注意が必要です。
以下に、一般的な借入プロセスのステップを示します。
1.借入プロセスのステップ
(1)資金ニーズの評価
まず、どの程度の資金が必要なのかを評価します。運転資金の増加、投資、新規プロジェクトのためなど、具体的なニーズを明確にしましょう。
(2)金融機関の選定
適切な金融機関を選びます。銀行、政府系金融機関、ノンバンクなど、選択肢は多岐にわたります。検討や条件を比較し、最適な金融機関を選びましょう。
(3)書類提出
申請書類や必要な情報を提出し、審査プロセスが始まります。
(4)審査
審査機関は申請書類または金融データを審査します。信用スコア、返済能力、事業計画などが審査の課題となります。
(5)承認
審査が通過すると、借入が承認されます。これにより、金融機関から借りた資金を受け取ることができます。
(6)返済計画の策定
借入金の返済計画を立てます。会社の経営計画や数値計画をもとに、返済期限、利率、返済スケジュールなどを考慮しましょう。返済計画は、できれば資金ニーズの評価時からシミュレーションを始めることが望ましいです。
2.借入の注意点
借入を行う際には、注意も必要です。以下に、借入時の注意点をいくつか挙げます。
(1)借入の目的
借入を行う際は、その資金をどのように活用するのか、事前に使途を明確にしましょう。
運転資金使途なのか、不動産の購入にあてるのか、設備投資の為の借入なのか、計画に従い、かかる必要な額と具体的な用途での借入を起こすことが大切です。
(2)権利の確認
借入の際には権利をよく確認しましょう。権利は償還額に大きな影響を与えます。
(3)無理のない返済計画
返済計画を立てる際には、事業の収益性やキャッシュフローを加味し、無理のない返済スケジュールとなるようにしましょう。
(4)契約書確認
契約書をよく確認し、借入条件などを充分に理解しましょう。
(5)リスク管理
借入にはリスクがあります。ゼロゼロ融資の返済スタート後に倒産企業が増えたのは、返済が回らなくなったためです。景気変動や競争状況など、外部リスクにも備えた返済計画を立てましょう。
3.返済計画の注意点
ここまでの話で幾度か出てきました「返済計画」についての注意点をまとめます。
返済計画は、以下の要素から構成されます。
(1)返済額の決定
今後の事業見通しも踏まえながらスケジュールを検討・計画し、月々の返済額を決定します。
(2)返済能力の確認
月々の返済額が事業の収益から賄えるかどうかを確認します。必要に応じて調整を行います。
(3)余裕を持った計画
計画には余裕を持たせることが重要です。期限に余裕を持たせることで、予期せぬ支出や収入の変動に対処できます。適切な猶予期間を設定し、期限を柔軟に調整しましょう。
(4)定期的な評価
返済計画は定期的に確認・評価し、必要に応じて調整します。定期的に評価するためにも、どこでどれだけ、何本借りているか、月々の返済額や金利は幾らか、完済時期はいつか、などを一覧化しておくとよいでしょう。
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第7章:融資の申し込みから資金受取りまでのステップ
適切な融資を受けるためには、融資の申し込みから審査を通過し、資金を受け取るまでのステップを予め(あらかじめ)押さえておくことが重要です。借入のプロセスと重複する箇所もありますが、融資申し込みの準備から資金を受け取るまでの流れとして改めて確認するようにしてください。
1.融資申し込みから資金の受取りまでのステップ
(1)申し込み準備
融資に必要な書類や情報を準備しましょう。これには諸表、事業、権利の情報などが含まれます。公的融資の場合、特に申請書類が多いため、準備に時間を要します。
(2)金融機関の選定
適切な金融機関を選びます。 前述したように、事業の性質や規模、融資条件に合致した金融機関を選ぶことが肝心です。
(3)融資申請
選択した金融機関に対して、融資申請を行います。申請書類を提出し、融資の詳細を伝えます。
(4)審査
金融機関は融資申請を審査します。審査では、事業計画の判断性、対抗能力、保障の価値なども評価されます。
(5)承認と条件
審査が通過すれば、融資が承認されます。ただし、承認するには条件が付与されることがあります。
(6)契約締結
融資が承認されたら、金融機関との契約手続きを行います。契約書には融資の詳細が記載され、双方の義務と権利が明確化されます。
(7)資金の受け取り
契約締結後、融資資金が提供されます。これを事前に設定した使途である事業に活用し、有意義な使い方をしましょう。
第8章: 運転資金計画と資金繰り
融資を受ける前にもあとにも、運転資金計画は極めて重要です。適切な計画を立てることで、資金を効果的に調達し、また、事業を経営計画や経営者のビジョンに合わせて効果的且つ戦略的に運営することができます。この章では、運転資金計画と資金繰りの具体的な内容を詳しく解説します。
1.運転資金計画の要点
(1)売上予測
運転資金計画の基盤となるのは売上の予測です。将来の売上を見積もり、それに基づいて資金の必要性を認識します。
(2)経費予測
資金繰り計画には、固定費と変動費の詳細な予測が含まれます。経費の中で運転資金にまつわる代表的な科目には、給与、賃貸料、原材料費、広告費などが挙げられます。
(3)資金調達計画
運転資金が不足する場合、どのように資金を調達するか計画します。これには金融機関からの融資、信用保証協会の利用、補助金や助成金の活用、資産の売却などが含まれます。
(4)危機の管理
資金繰り計画は、ただの一時の状況や短期的な業況を踏まえたものだけでなく、余裕あるスケジュールにて中長期的に考慮することが重要です。適切な計画を立てて、キャッシュフローに組み込みましょう。
また、資金繰り表を作成・管理する際は、販売予測をもとになるべく先の入出金まで入れ込み管理することが好ましい金繰り表を作成・管理する際は、販売予測をもとになるべく先の入出金まで入れ込み管理することが好ましいです。
2.資金繰りの管理と改善策
運転資金の問題を改善する対策について詳しく説明します。資金繰りの改善策は、持続可能な資金管理を実現するための経営者の手助けとして活用できます。
(1)売掛金回収サイトの適正化
売掛金を早期に回収するための戦略売掛金を早期に回収するための戦略を検討します。
売掛金の回収期限を把握し、場合によっては回収条件を見直すなどして売掛金の回収速度を向上させましょう。
(2)買掛金支払サイトの適正化
テ運転資金は、売掛金を含めた売上債権の回転期間と、買掛金をはじめとする買入債務の回転期間、その2つのバランス(=立替期間)に大きな影響を受けます。
支払サイトを長くしておくことで、資金繰りに余裕が生まれます。
(2)在庫管理
不必要な在庫を減らし、必要な在庫を最適化することで、運転資金への影響が避けられます。
在庫は、先述した売上債権にも含まれており、運転資金と密接な関係にあります。
(3)不要な経費の削減
経費の見直しを行い、無駄な支出を削減します。効率的なコスト管理が資金繰りを改善します。
(4)キャッシュフローのモニタリング
定期的にキャッシュフローをモニタリングし、予測と実績を比較して異常を早期に発見します。
(5)事業の多角化
収入源を増やすために新しい事業分野や市場を検討します。多角化はリスク分散にも役立ちます。
(6)短期の資金調達
急な資金不足に備えて、短期の資金調達手段を備えておくことも重要です。
第9章:運転資金に影響を与える在庫管理とその対策
1.運転資金と在庫
先述のとおり、在庫と運転資金には密接な関係があります。在庫が増えて運転資金がショートしかかっているケースがありますが、それは、在庫として「資金」が倉庫に寝てしまっているにもかかわらず、仕入先にはその支払いが発生するからです。
さらには、その資金が銀行からの借入によるものだった場合、利息まで支払わねばならず、資金繰りは最悪な状態となります。特に、売上が増えないのに在庫が増えている会社は、在庫管理≒資金に対する姿勢が甘い、弱いことをあらわします。
会社に資金を残すためには、在庫を過剰に増やさないよう、その管理体制を厳しくすることが得策です。
2.在庫管理のポイント
(1)在庫の把握
現在の在庫は適正利益を確保する売れ筋の在庫か、また、デッドストック(売れ残り品や長期間倉庫に置かれている商品や製品などのこと)はないか、ある場合どれくらいあるかを把握しましょう。不良在庫は、場合によっては適切な処分が必要です。
(2)適正在庫の設定
利益率や販売実績を考慮し、商品、製品ごとの適正在庫はいくらかを決めましょう。
(3)交叉比率を用いた適正在庫
交叉比率とは、商品あたりの利益と回転による効率を見るものです。その商品がどれだけの粗利率を上げているかを示し、特に小売業においては重要視される比率です。
交叉比率が高いほど、効率よく儲かっている商品といえます。
【ワンポイント講義】交叉比率の計算式は?
計算式)交叉比率(%)=当月の商品別粗利益÷商品在庫金額×100
・在庫金額が少なく、粗利益が多ければ交叉比率は高くなります。
・在庫金額が多く、粗利益が少なければ交叉比率は低くなります。
(4)在庫管理者と情報共有の仕組み
当たり前ですが、すぐに売れない在庫になるような商品は仕入れさせないことが必要です。在庫管理者を設定し、現在の在庫状況を全社、あるいは必要部門や担当へ正しく伝え、在庫を少なくする販売対策を講じさせることが特に中小企業においては在庫管理の肝になります。適正なシステムを導入することもよいでしょう。
(5)最小単位での仕入
在庫になるような商品はロットで仕入れず、最小単位で仕入れることが好ましいです。スケールメリットにていくら安く仕入れられても、在庫になれば資金に大きな影響を与えます。
第10章:運転資金に影響を与える債権債務管理と立替率
既述のとおり、債権・債務の管理や回転日数のバランス(立替期間)も運転資金に大きな影響を与えます。立替期間は、売上債権回転期間から買入債務回転期間を差引することで求めることができます。
・計算式)立替期間=売上債権回転回転期間―買入債務回転期間
1.受取手形・売掛金
売上債権の中には、受取手形や売掛金が含まれています。
信用取引が普及している今日のビジネスの世界では、現金取引が主流だった時代とは異なり、販売した代金は来月○日に回収、仕入れ代金は△日後には支払うという形態へと変化しました。その結果、債務を支払うためには「債権を何日以内に回収しなければいけない」という「債権管理」が重要になっています。
ちなみに、利益は増えていないのに受取手形・売掛金が増えている場合は、利益率の低い営業が行われていないかを疑います。ここで「利益」について触れるのは、利益率を上げて増えた利益は、そのまま資金として担保されるからです。
受取手形や売掛金が過剰に増えている場合は、特定の得意先の回収サイトが大幅に遅くなっていないかという視点から分析することをお勧めします。
2.与信限度額
中小・零細企業においては、得意先ごとに与信限度額を設定することも有用です。
与信限度額とは、その得意先が倒産したとしたら会社はいくら貸し倒れになるかを計算したものです。下図はそれを図示したものです。
初めて取り引きをする場合には与信限度額は低く設定し、その後1年ほどの実績から与信限度額を増やしていかれると安心です。受取手形・売掛金は貸付金と捉えるとよいでしょう。
次に、回収サイトの計算を、現金の場合と手形の場合とに分けて図示します。
【現金の場合】
【手形の場合】
運転資金は、自社の支払いサイトと得意先ごとの回収サイト(与信期間)が同じでなければショートします。そのため、得意先ごとの与信期間に注意して取引きしなければなりません。
3.立替比率(立替率)
売上債権の残高と、買入債務残高の比率(立替比率)が損益計算書上の原価率以上であれば、運転資金は健全だと言えます。
損益計算書における「売上原価の原価率」を基準にして、売上債権・買入債務(仕入債務)の残高比率と同じ原価率を維持することで「利益が1,000万円増えれば資金も1,000万円増える」といえるのです。以下に例を挙げて説明します。
例)
- 原価率:50%(固定)
- 売上債権:10,000円
- 仕入債務:4,000円
→立替率:40%
⇒この場合、立替率40%は原価率の50%以下のため、運転資金は不足します。
対策)
売上債権から2,000円を回収すると、残高は10,000円から8,000円となります。
債務が4,000円であることから、立替率は50%(原価率と同じ割合)となり、運転資金が適正化されます。
- 原価率:50%(固定)
- 売上債権:8,000円
- 仕入債務:4,000円
→立替率:50%
売上債権の回収を早めることが、運転資金を改善させます。仕入支払条件変更を行い、支払いサイトを延ばすことも運転資金の改善につながります。
第11章: 借入における成功例と失敗例
1.成功事例
中小企業の借入の成功事例を簡単に紹介します。借入の使途、使い道はどのような種類があるか、その可能性をお伝えするためのシンプルな例としています。
(1)事業拡大への資金調達
ある小規模な製造業の中小企業は、新しい市場に参入・発展するために資金が必要でした。借入による資金を戦略的に活用した結果として、新しい市場での売上が増加し、事業を拡大させることが出来ました。拡大した事業による収益の一部で、借入を返済しつつ、内部留保も行えています。
(2) 緊急事態への備え
別の小売業を営む中小企業は、自然災害に備えて運転資金を調達しました。この計画的な資金の備えのおかげで災害後も事業を維持することができ、災害による被害を最小限に抑えることができました。
(3)新規プロジェクトの実施
あるコンサルティング会社は、新しいサービスの開発と導入に資金が必要でした。彼らは金融機関から借入をし、新規プロジェクトの立ち上げに成功しました。この新しいサービスは市場で好評を博し、収益の増加につながりました。
2.失敗事例
次に、失敗した中小企業の借入事例をご紹介します。簡素化させた失敗事例から、シンプルな教訓を受け取ってみてください。
(1)無理な借入
ある小売業の中小企業は、急速な拡大を目指し、大規模な借入れを行いました。 しかし、市場が飽和状態であったため、売上が伸び悩み、起こした借入金の返済が困難になりました。投資や回収に見合う借入額を検討し、事業計画に基づいて借入を行うことが重要です。
(2)リスク管理不足
別の中小企業は、外部リスクに対するリスク管理を怠り、景気変動によって急激な資金不足に陥りました。これまで無借金経営でしたが、内部留保はすぐになくなり、また懇意にしている金融機関も持っていなかったために資金調達が難航しました。
(3)目的の不明確さ
ある小規模の製造業は、使途を明確にしきらないまま資金の借入を起こしました。 結果として用途が不透明となり、資金の無駄遣いが発生しました。借入の運用計画は事前にしっかりと立てることが大切です。
第12章:経営コンサルタントの視点からのアドバイス
我々NBCコンサルタンツ株式会社も含めた経営コンサルタントが、中小企業や経営者様にご提供できるアドバイスや価値についてご説明します。
経営コンサルタントは、運転資金の最適な管理や戦略において、貴重なパートナーになります。最近では、成長している企業ほど、外部リソースを上手く活用する傾向があります。
経営者様が、「経営」という本業に充分に時間を投下できるよう、「餅は餅屋」のように、必要な箇所はコンサルタントに任せ、社外の頭脳やノウハウを上手く活用することをおすすめします。
尚、以下において、一概に経営コンサルタントといっても特に強い領域とそうでない分野とがあります。各コンサルティングファームの強みを知り、自社に合った先を選ぶとよいでしょう。
1.経営コンサルタントの活用メリットとアドバイス
(1)資金調達のプロフェッショナル
経営コンサルタントは、中小企業にとって最適な資金調達方法を専門的にアドバイスできます。事業の規模や業界に合わせて、金融機関や融資制度を選定し、場合によっては金融機関交渉を支援するなど、適切な資金調達計画を立てるのに役立ちます。
これにより、経営者のみで思案する時間の最小化など、余分な時間コストを排除し、最適な資金調達を実現できます。
なお、NBCコンサルタンツ株式会社には、金融機関出身のコンサルタントも在席しています。また、全国主要都市に拠点と顧客企業とを抱えているため、各地の金融機関ともつながりや情報の連携があることが特徴の一つです。
(2)リスク管理
経営コンサルタントは、リスク管理の専門家でもあります。運転資金の適切な管理において、リスク評価と対策をサポートします。リスクを極力抑えつつ、事業の安定性を確保するための戦略を、企業や経営者と一緒に考えます。
資金管理においては、資金ショートを防ぐための管理や業績管理など、計数をもとにしたさまざまな管理手法を心得ており、事業リスクの回避と対策において有用です。
NBCコンサルタンツは会計事務所を母体とした数少ないコンサルティングファームであり、計数管理を得意としています。
(3)資金繰りの最適化
資金繰りの最適化は、中小企業にとって重要な課題の一つです。コンサルタントは、収入と支出のバランスを取りながら、資金繰りを効果的に管理する方法を提案・支援します。
特にNBCグループでは、NBC税理士法人の他、NBC資金を増やすコンサルティング株式会社という「資金」にフォーカスを当てた支援をする法人も有しており、ただ資金繰りを管理するだけでなく、中小・零細企業様の社内に「資金を残し・増やすご支援」に力を入れております。
(4)成長戦略の策定
経営コンサルタントは、中小企業の成長戦略アドバイスも行うことが出来ます。資金の活用を含む事業戦略の策定において、市場分析やコンサルティング分析など、事実やデータを基に分析を行い、そこから導かれる具体的なアクションプランを提案します。中小・中堅企業の成長を支え、競争力を高めるお手伝いをします。
(5)中期経営計画の策定
成長戦略だけでなく、各企業の規模や業況、また経営者のビジョンに合わせて、経営計画を策定する支援を行います。経営計画の策定は、現在、国が推奨する取り組みでもあるため、外部の経営コンサルタントを活用して計画策定を行う費用を、国が補助する制度(経営改善計画策定支援:通称405事業)があります。
NBCコンサルタンツ株式会社は国の認定支援機関です。
企業様の補助金を獲得しつつ、しっかりとした経営計画を作り、伴走支援を行う405事業において、国内でトップクラスの実績を収めています。
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(6)フィードバックと改善
経営コンサルタントは、運転資金の管理において継続的なフィードバックと改善を促進します。経済状況や事業環境が変化する中で、資金調達戦略や資金繰り計画を柔軟に調整し、最適な状態を維持するサポートを提供します。
また、資金の維持だけでなく、経営の成果となる『実質資金(現預金から借入金を引いたお金=経営の成果)』の増加を実現させるための支援もNBCでは行っています。経営改善、または強化・成長に向けたご支援の中で、実践とフィードバックとを繰り返し、確実な成果の創出を行います。
(7)社員と現場を巻き込んだ資金を増やす取り組み
先に挙げた『実質資金』を増やす方法は資金繰りだけではなく、現場の社員が「いかに利益率を上げる活動を行えるか」また「いかに継続させるか」にかかっています。
NBCコンサルタンツでは、「決算書分析」と併せて「社風調査」と呼ぶ社員の意識調査と社内風土の分析を行い、
- 決算書分析から見える数字の課題
- 会社の業績に影響を与える社内風土や現場社員の改善活動における課題
を明確にし、改善方法をご提示することを得意としています。
また、実際従業員の方に活動いただくにあたり、伴走型にてノウハウを提供・計数教育・人材教育・実行支援することを最大の強みとしています。
社員の意識(エンゲージメント)と財務・損益から、自社の資金改善の上で効果的な取組みポイントが明確になります。お気軽にお申込みください。
(8)個別対応
経営コンサルタントは、中小企業のニーズに合わせた個別対応を行います。
1人ひとりの顔が違うことと同じように、企業の問題は一律ではありません。それぞれの企業の状況や課題、社内風土、そして経営者の考えに応じて、カスタマイズされたアドバイスを提供し、最大の価値を提供します。
特にNBCグループでは、パッケージ化された内容にお客様のニーズを合わせるのではなく、お客様のニーズに合わせた流動的な対応を行うことを信念・モットーとしています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では運転資金について、基本的な知識から、資金調達の方法や資金繰りの改善方法などについて詳しく解説しました。中小企業経営において、融資(借入)と運転資金は非常に重要な要素です。適切な金融機関や融資制度を選定し、事業の成功に向けた計画を立てることが重要です。
融資は事業の成長や支援の手段として利用でき、各種金融機関や制度が中小企業向けに提供されています。それぞれを比較して、自社に適切な融資を選択することが肝要です。また運転資金の管理もつつがなく行い、資金不足によって成長や存続を阻害されないよう、細心の注意を払いましょう。
中小企業経営者は、金融機関の検討や交渉に知恵を絞り、資金調達の際には情報収集を通じて信頼性の高い情報を得ることが大切です。そして適切に資金を管理し、希望に向かって事業を運営していくための戦略を練ることが中小企業経営の成功につながります。
ポイントは以下の通りです。
✓計画性と戦略性ある資金調達を行うこと
✓外部活用も含め正確な情報をつかみ、自社に合った融資を受けること
✓融資前後はリスク管理も含め、借入や運転資金管理をしっかり行うこと
✓無駄な支出を避け、計画性ある資金運用を行うこと
✓立替期間や在庫管理などに留意し、適正な運転資金バランスを保つこと
運転資金管理を適切に行い、事業資金を最適化することで、企業経営を安定と、次なる成長・成功へと導いてください。
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