法人税計算時に課税所得が赤字だった場合、赤字の金額を欠損金として繰り越し、翌年度以降の黒字を相殺できる制度があります。欠損金を繰り越すことで法人税を節税できるので、経営のために繰越欠損金について把握しておきましょう。
当記事では繰越欠損金とは何かを説明した上で、適用されるための条件と会計方法を詳しく解説します。正しく繰越欠損金の制度を使い、法人税を節税したいという方はぜひ当記事を参考にしてください。
目次
1.赤字決算時に計上できる法人税の繰越欠損金とは?
そもそも欠損金とは、法人税を計算する際の課税所得が赤字であるときの金額です。
青色申告の承認を受けている法人は、発生した欠損金を一定期間繰り越して、課税所得が黒字になったときに相殺することが認められています。将来における黒字との相殺を条件として、翌事業年度以降に繰り越せる欠損金の制度が「繰越欠損金」です。
繰越欠損金制度を利用すると欠損金のうち一定額が繰越控除となって、節税効果が期待できるメリットがあります。
1-1.繰越欠損金で控除を受けるメリット
繰越欠損金で控除を受けられるのは、将来の黒字から繰越欠損金の金額分を差し引いた状態で税金計算ができるためです。
例として、当期の課税所得が「500万円」の赤字、翌期の課税所得が「3,000万円」の黒字のケースで考えてみましょう。繰越欠損金を利用しない場合、当期と翌期の課税所得はそのままの金額です。
対して、繰越欠損金を利用する場合は、当期の課税所得が「-500万円」、翌期の課税所得は「2,500万円(3,000万円-500万円)」となります。
法人実効税率を30%として計算すると、繰越欠損金を利用する場合は、利用しない場合より「150万円(500万円×30%)」も法人税を節税できる計算です。
繰越欠損金は欠損金の金額分を法人税計算から控除できて、節税できる可能性があります。
繰越欠損金のように、法人税の節税ができる制度は他にもあります。節税対策に興味がある方は下記のページもぜひ参考にしてください。
2.繰越欠損金の適用を受ける3つの条件
繰越欠損金の適用を受けるには、3つの条件をすべて満たす必要があります。
(1)欠損金が生じた事業年度で青色申告を行っていること
欠損金が生じた事業年度で青色申告を行っている場合にのみ、繰越欠損金の適用を受けられます。
青色申告とは、複式帳簿の作成が求められる確定申告方法です。対して、単式帳簿の作成でよい確定申告方法は白色申告と呼ばれます。欠損金が生じた事業年度に白色申告を行うと、繰越欠損金の適用は受けられないため注意してください。
なお、欠損金が生じた事業年度で青色申告を行っていれば、以降の事業年度は白色申告に変更していても繰越欠損金の適用を受けられます。
(2)翌年以降も連続して確定申告を行っていること
欠損金が生じた事業年度で青色申告を行った後は、翌年以降も連続して確定申告を行っている必要があります。
欠損金の繰り越しをする事業年度まで、途切れることなく確定申告を行っていなければ繰越欠損金の適用は受けられません。
(3)帳簿書類などを保存していること
欠損金が生じた事業年度の帳簿書類などを保存していることも、繰越欠損金の適用を受けるために必要な条件です。
繰越欠損金の適用を受ける場合は、帳簿書類の保存期間は「10年」と定められています。法人税法で帳簿書類について定められている、原則7年の保存期間と混同しないように注意しましょう。
また、帳簿書類の保存期間の起算日は「確定申告書提出日の翌日」です。5月末日に確定申告書を提出した場合は、10年後の5月末日まで帳簿書類を保存する必要があります。
3.繰越欠損金の繰越期間・控除限度額
繰越欠損金で節税をしたい方は、繰越期間と控除限度額を把握しておきましょう。
【繰越期間】
2016年度の税制改正によって繰越欠損金の繰越期間は変更されており、欠損金の生じた事業年度がいつであるかによって繰越期間は異なります。
まず、2018年4月1日より前の事業年度で生じた欠損金は、繰越期間が9年です。一方、2018年4月1日以降の事業年度で生じた欠損金については、繰越期間が10年となります。
【控除限度額】
資本金1億円以下の中小企業は控除額の上限がなく、欠損金を全額繰り越しすることが可能です。
一方で、資本金が1億円を超える大企業については控除限度額が設けられています。控除限度額の割合は、欠損金の生じた開始事業年度によって下記のように異なります。
欠損金の生じた開始事業年度 | 控除限度額の割合 |
---|---|
2012年4月1日~2015年3月31日が開始日の事業年度 | 80% |
2015年4月1日~2016年3月31日が開始日の事業年度 | 65% |
2016年4月1日~2017年3月31日が開始日の事業年度 | 60% |
2017年4月1日~2018年3月31日が開始日の事業年度 | 55% |
2018年4月1日以降が開始日の事業年度 | 50% |
自社の資本金がいくらか、1億円を超える場合はいつ欠損金が生じたかを確認して、繰越欠損金での節税を行いましょう。
4.繰越欠損金の税効果会計
繰越欠損金の適用を受ける際には、税効果会計を行う必要があります。
税効果会計とは、会計上の利益額と税務上の所得額に差異がある場合に、差額分を調整する会計処理のことです。会計上の利益額は「収益-費用」で計算するのに対し、税務上の所得額は「益金-損金」で計算するため、両者の金額には差異が生じるケースがあります。
もともと欠損金は税務上の赤字額であり、会計上の項目には含まれません。欠損金を含まない会計上の利益額と、欠損金を含む税務上の所得額をそのまま計算すると、欠損金の法人税額分だけ差異が生じます。
しかし、繰越欠損金は将来の事業年度で解消されるため、差異は一時的なものです。解消される差異を作らないことを目的として、当期事業年度の会計に税額差を配分する形で税効果会計が行われます。
4-1.税効果会計の仕訳方法
繰越欠損金の税効果会計を仕訳する際は、繰越欠損金額を事業年度の法人税率で計算します。
仕訳帳の勘定科目は「繰延税金資産」と「法人税等調整額」として、借方・貸方のそれぞれに税額を記載しましょう。
・繰越欠損金が発生した際の仕訳方法
仕訳の計算例として、法人実効税率が30%の企業において、1,000千円(100万円)の繰越欠損金が発生した際の仕訳を紹介します。
【繰越欠損金が発生した際の仕訳】 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
繰延税金資産 | 300 | 法人税等調整額 | 300 |
1,000千円×30%=300千円の法人税額を記載することにより、会計上の差異を防止できます。
・繰越欠損金を解消する際の仕訳方法
次に、同じ企業が翌事業年度に800千円(80万円)の黒字額ができ、繰越欠損金を解消する際の仕訳を紹介します。
【繰越欠損金を解消する際の仕訳】 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
法人税等調整額 | 240 | 繰延税金資産 | 240 |
上記のケースで解消する繰越欠損金の法人税額は800千円×30%=240千円です。
前期における繰延税金資産の残高300千円から240千円を差し引いた「60千円」部分は、翌期以降に繰り越せる繰延税金資産となります。
4-2.適用時には回収可能性の判断が必要
繰越欠損金の税効果会計は、繰越欠損金が発生した事業年度における会計上と税務上の差異を、将来の事業年度で解消することを前提としています。
しかし、繰越期間中にも赤字経営が続いた場合は将来の黒字と繰越欠損金の相殺ができず、会計上と税務上の差異を解消できません。繰越欠損金を会計上に正しく反映させるには、税効果会計適用時に回収可能性の判断が必要となります。回収可能性の判断は、過去の課税所得や繰越欠損金の発生状況などの情報をもとに行われます。
まとめ
法人税を計算するときに算出する課税所得が赤字だった場合、赤字の金額を翌年度に持ち越し、翌年以降の黒字の相殺に使える制度を「繰越欠損金」と言います。
繰越欠損金を受けるには帳簿をきちんと保存した上で確定申告時に青色申告を行わなければなりませんが、繰越欠損金を法人税の計算から除外でき、節税効果が期待できます。中小企業では控除額に上限も設けられていないため、節税対策としても繰越欠損金制度の利用を検討しましょう。
(令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成)
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